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英国メイド研究資料の公開と有料マガジン開始

はじめに

英国メイド研究を20年ぐらいしている久我真樹です。件名について、以下の項目を定期的に公開する定期購読の有料マガジン(月500円)を始めます。そこで有料マガジンをどのような内容にするのか、何のために行うのか、まとめました。

メイドが好きな方に、メイドに関する濃い情報が届けられる場となれれば、そして応援したいと思っていただければ幸いです。

以下、有料マガジンです。


※2022/11/07追記メンバーシップへ移管して行きます。

有料マガジンの内容

・資料翻訳(著作権が切れた当時の本、入手困難な当時の政府報告書など)
・過去に発表した同人誌の再掲載(非電子書籍化同人誌を含む)
・濃い資料紹介
・コラム

開始時点のコンテンツ

・同人誌
第二次大戦下の英国カントリーハウス 準備号(戦時利用された屋敷の話)

ある英国メイドの職場遍歴(自伝を書いたあるメイドの転職歴・職場で出会った人たち)

・資料翻訳(著作権が切れた当時の本、入手困難な当時の政府報告書など)
使用人問題の心理学(詳細後述)

・今後の公開予定
1880年の家事使用人を雇用する人に向けて書かれた、家事使用人管理マニュアル

実在のメイドや執事のエピソードを集めた同人誌『MAID HACKS』


目的

「日本の英国メイドの高速道路となる」資料の提供のためです。

資料があることで創作の幅は広がります。

・英国メイド資料を発表し続けることで、英国メイドの知識を持つ「仲間」が増える。
・漫画家や小説家などのクリエイターがメイド作品を発表しやすくなる。
・英国メイド作品を楽しむ人が増える。

この好循環を生むことを、かつてインターネットが「高速道路となる」と評した梅田望夫さんにちなんで、「日本の英国メイドの高速道路」を目指すと表現しています。その一端として講談社から出版したのが、2010年の『英国メイドの世界』でした。

元々、ドラマ『名探偵ポワロ』が好きで、TRPGがきっかけで創作を始めていた私が、「英国の屋敷を舞台に物語を書いてみたい」と思った2000年当初は、日本で英国メイドに関する専門研究者は不在で、また専門資料もほとんどありませんでした。

そこで同人活動として、自分が知りたいテーマ(屋敷やその生活を支えるメイドや執事の仕事など)を紹介する資料と、そのテーマをわかりやすく伝えるための創作をセットで行おうと考えました。そこから、「日本に専門資料がないならば、英書を読もう」とAmazonを使って英書購入を進めて、現在に至ります。

想定する読者

・メイドスキーな方
・これまで同人活動で出会ってきた方
・英国メイドに関する創作をしたい・濃い資料を読みたい方
・私の方向性を応援していただける方
・過去の時代の「働くこと」「労働環境」に関心がある方

有料マガジン化の背景

会社勤めをしながらメイド研究の同人活動をしてきて、同人誌を通じて多くの読者の方と出会うことができ、運良く出版の機会にも恵まれましたが、ここ数年は心身不調や体力の著しい低下を感じており、これからの10年を進む意味ためにも、研究と知識の再構築に加えて、体力・気力のリハビリと足場つくりが必要と考えて、2020年2月末でそれまで8年半ほど勤めた会社を辞めました。

とはいえ、心身不調の回復の途上にあり、またコロナが蔓延する状況となって研究成果を発表する中心だった同人誌即売会への参加が思うようにならず、きちんとしたアウトプットをする機会とモチベーションが大きく低下しました。

まだ先が見えない状況が続くことや、同人誌・商業出版といった「紙を主体とした活動」をゴールにしていたことで、だいぶ発表機会が限られているとも感じていました。

そこで、もう少し自分に対するハードルを下げて、緩やかにコツコツと発表し続けられる機会が欲しいと考え、noteで有料マガジンを始めて、定期的に成果発表を続けるのが良いかもと思い至りました。研究所を立ち上げて人を雇用できる環境になる夢を持ちつつも、この発想自体は、上記の研究20周年の時に思い描いていたことのひとつでした。

また、『英国メイドの世界』も最初の同人誌としての刊行が2008年、大幅改訂して講談社から出版したのが2010年と、出版してからだいぶ時間が経過しており、電子書籍化したものの、紙が絶版となりました。そこで、英国メイド研究の集大成としての「完全版」を作るための準備をするための時間を作ろうと考えました。出版予定はありませんが、今ならば、書けると思います。

フォーカス領域として、以下の3つを有料マガジンで更新していきます。

1. 家事使用人問題について
英国メイドの雇用は大英帝国の繁栄と共に拡大していきましたが、第一次世界大戦の頃には、家事使用人のなり手が不足する「使用人問題」が発生しました。不人気ゆえになり手が減少し、数の上での雇用の中心だった中流階級は、家事を自分でしなければならない生活に不安を感じ、政府がその解決に乗り出す事態となりました。

この「使用人問題」に関する全体像は、『英国メイドの世界』の続きとして書いた同人誌『英国メイドがいた時代』で書きました。

そこで利用した当時の政府資料がいくつか手元にあるのと、著作権が切れた当時の「使用人問題解決のための提案を行った本」があるので、それを公開します。

最初に公開する資料が、『使用人問題の心理学』です。この本は、心理学者だった著者のヴァイオレット・L・ファースが、第一次世界大戦中に屋敷の庭園・菜園で「レディ・ガーデナー」として使用人として働いた経験を元に、家事使用人の労働環境を心理学者が考察する、歴史上最初の一冊だと思います。

この視点は現代も続く家事労働者をめぐる労働環境、あるいは現代社会で働く人にとっても参考となる視点があるため、最初の翻訳タイトルとして選びました。こういう、「伝統」を「習慣」とする観点が好きです。

政府審議会の証人(となった女主人)は、遅い夕食が必要だと言いました。もし彼女が少しでも歴史を知っていたら、遅い夕食は現代の制度であり、したがって英国人は太古の昔から「必需品(たる夕食)」無しに存在していたことを知るでしょう。家事使用人の問題を論じるとき、人々は、私たちの社会的習慣は自然の法則と同じような不変なものと考え、その習慣に適応できなければ、当然私たちが絶滅すると考えているようです。

しかし、実際のところ、それらは単なる習慣に過ぎません。私たちの生活様式はあまりにも精巧にできているので、自分の物質的必要性を満たすためにはフルタイムの仕事が必要となります。そのため、余暇を持ちたい人は自分の世話をしてくれる人を雇う必要があり、生活水準が非常に高ければ、何人もの人を雇わなければなりません。しかし、自分にそれだけの価値があるかどうか、真剣に自問しなければなりません。

また、後で知ったのですが、著者のヴァイオレット・L・ファースは、英国のオカルティストとして著名なダイアン・フォーチュンの本名でした。

かつ、この資料の存在を知った当時、どうしても読みたかったのですが、どこでも入手できなかったのですが、なぜか出版されてすぐに日本の図書館に大正時代に所収されており、そこ経由で読むことができたという不思議な縁を持つ本です。


2. 英国メイドの当時の仕事マニュアル
私が「英国メイド研究」を面白いと思う理由の一つが、当時の雇用主向けに、様々な「マニュアル」が出版されていたことです。代表的なものが『ミセス・ビートンの家政読本』ですが、そうした当時の資料の中で、全文を読むとより細部が伝わって創作に実用的、あるいは読んでも面白そうなものを選んで紹介したいと思い(編集して書くと情報が削ぎ落とされる)、ネット公開対象にしたのが『家事使用人のマネジメント 家事サービスのルーチンの実践ガイド』(THE MANAGEMENT OF SERVANTS Practical Guide to the ROUTINE OF DOMESTIC SERVICE)です。

今は目次のみ公開しており、8月中に少しずつ公開していきます。

『英国メイドの世界』を書いた2010年時点で、そこそこネットで19世紀の資料が公開されているようになっており、2021年の現在でもその量が膨大になっていますので、そうしたものも追加していく予定です。


3. 気に入った同人誌のアップデート
自分の同人誌で「メイド知識がなくても、『働く』をテーマに誰でも読みやすい・楽しめる」本が2冊あります。それが『MAID HACKS』と『英国執事の流儀』です。両方とも同人誌として1000冊、頒布しました。

『MAID HACKS』の方は2007年、『英国執事の流儀』は2009年に製作したもので、どちらも大幅な追加・改訂をしたいと思いつつ、なかなか時間を取れませんでした。そこでこの機会に、少しずつ手直しをして、公開しようと思います。

まとめ

いろいろと書きましたが、諸々の長い話はこの辺にまとめていますので、興味をお持ちいただければ幸いです。

余談ですが、研究は幅広く、このようなものも書いています。


いただいたサポートは、英国メイド研究や、そのイメージを広げる創作の支援情報の発信、同一領域の方への依頼などに使っていきます。