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映画『朝が来る』を観て

河瀬直美は『殯の森』で挫折して以来、こんな難解な(というより印象としては「訳が分からない」が近い)監督の作品は二度と観るかと思って、長い間に完全に敬遠してきたのだけれど、5~6年前から機会があったら観てみようと思っていた。

そのきっかけは、テレビ東京でやっていた『山田孝之のカンヌ映画祭』という番組で、山田孝之がカンヌ出品・受賞を目指して、 山下敦弘と組んで映画をつくっていくプロセスを描いたドキュメンタリー”調”の作品。

カンヌ映画祭って何ぞや?というところから、日本・フランスの映画業界の関係者にインタビューしたり、プロデュースのために出資を募ったり、俳優や監督と打ち合わせしたり、試写をつくったりと進んでいく。

その中で河瀨直美のインタビューが印象に残った。その時撮影しようとしていたストーリーが「少女が母殺しをする話」なんだけど、当然ヒロインの少女(芦田愛菜)が演技とはいえ、母を殺す役を演じることを「大丈夫?」と心配していた。

河瀨直美は「(若い頃はそんな事は考えなかったけど)自身が母となり子を持ったことで色々と考えが変わってきた」というような事を言っていて、これははっきりそう言ったか憶えてないんだけど、「映画のために俳優の(ここではまだ未成年の芦田愛菜)心を傷つけたりトラウマを残すようなことはすべきてはない」ようなニュアンスを話していた。

これはかなり意外な印象があって、正直かなり作品重視で独善的な考えの人かと思っていたが、河瀨直美レベルでもこういう事を考慮するのかとか、クリエイターもこういう考えを持っていいのかとか、持つべきなんだとか色々と考えるきっかけになった。

そんな前置きがあって実際に『朝が来る』を観てみたが、期待に背かず人というものの根本を信じるというか、人に対する愛を感じる作品だった。詳しくは書かないが、もともと原作では未婚で子を産む少女が、貧困とか周囲の無理解とかの中で荒んでいく中で、一歩道を踏み外してしまうんだけれど、映画ではそこはギリギリ留まったように描かれているところで、特にそう思った。

最後まで顔を出さずに育ての親と対面する少女が誰なのか分からない演出とか、ときおりドキュメンタリー調にするところ(この浅田美代子はとても良かった!)とか、また、光の使い方が全編通して上手だなと感じた。

脚本としては少女が家を出てからの展開がやや早いのと、育ての親を探そうとするところの描き方が少し足りないかなとも感じたけど、十分に原作の魅力とかテーマを咀嚼して伝えていると思った。

未婚の母を演じた蒔田彩珠、よく知らなかったけれど透明感のある良い俳優ですね。NHKによく出ているようですが未見です。

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