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「このままでいい」を貫く勇気

池袋の構内で、ふと、たたずむ。
スーツのサラリーマンに追い越される。
バッグが体にあたり、思わずよろめく。
辺りを見回す。
「わたし、このままでいいのだろうか?」


この本が発売した2013年の日本は、
そういう疑問を心の内に隠していた
人が非常に多い年だったのだと思う。

2013年に、初めて店頭に並んで以降、
現在(2018年付け)まで、発行部数は238万部。

この、青い海のような表紙の本は、
そんな、時代の淀んだ空気にぶわっと風穴を開けた
のだと思う。


そして、今、わたしの目の前に、この本がある。
わたしにとっては、今、読むべき本だったのだ、と、思う。


普段、生活していて、
誰かが誰かのことを褒めると、その枕詞が
「お前より」の気がしてしまう時がある。

「お前より」あの子は可愛い
「お前より」あの子は明るくて良い子
「お前より」あの子は出来る
「お前より」あの子はモテる
「お前より」あの子は結果を出している
「お前より」あの子は面白い

……そう、この「お前より」は、ほかでもなく
わたし自身が生み出した枕詞である。

社会というのは、非情だ。
どんなバックボーンがあろうと、そこに
いるわたしたちは等しく
同じ人間として見られる。

世界で自分ひとりだけが、苦しんでいるわけではない。
それは、救いであり、絶望にもなる。


「こんなに波が近くまで迫ってきているのに
水平線を眺めているんですね……」
隣で、きょとんと見上げる顏に
思わず顔を覆いたくなる。
恥ずかしい。

わたしは、彼女より可愛くないのに
波が膝まで来ていることにも気が付かなかったのだ。

彼女は笑う。
「らしいですね」
頬が波からの
光を受けてちらちらと弾むように潤んでいる。

「すべての悩みは、対人関係によるものである」
―『嫌われる勇気』の第2章の題目である。

「わたし、このままで、いいのだろうか?」
そう思った時、そっとページを開いてほしい。
あなたは、そのままでいいのだ、と、確かに
そっと諭すこの本は、これからも、
大海原で呆然としている人たちの背中を
しかるべき方向へ、押すのだろう。
わたしはそう思っている。


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