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【山田太郎問題】「クレカ規制」に見る常套手段と無能

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 なお、シリーズの記事一覧は『
【山田太郎問題】序文と記事まとめ』から。

 山田太郎が頻繁に利用する問題の1つに「クレカ規制」問題がある。これは、クレジットカード会社がpixivやDLsiteのようなR18作品も扱うプラットフォームや販売サイトに対し、特定の単語を用いないように要求するといった問題である。

 こうした問題は現に存在するため、「クレカ規制」は (それを規制と呼ぶべきかはさておき) まったくの妄想や架空の話ではない。しかしながら、山田太郎はこの問題については不正確な煽りと無為無策を繰り返しており、有効な手を何ひとつ打てていないのもまた実情である。

 「クレカ規制」問題に対する山田太郎の態度には、彼の振る舞いの問題点の典型的な要素が漏れなく詰め込まれている。そこで、この記事では「クレカ規制」と山田太郎の関係を振り返りながら、「クレカ規制」に留まらない彼の一般的な問題点を洗い出すことを目指す。


常套手段1:支持者向けの扇動

不正確な煽りを繰り返す

 「クレカ規制」は実在する問題だが、その実態を把握するのは容易ではない。多くの場合はカード会社とプラットフォーマーとのやり取りであり、どのような自主規制が行われるかを利用者である我々が明確に知る機会は少ない。また、どのような単語がどの程度問題視されるかは時期によっても異なるため、問題視されていた単語が問題なしとされたり、逆に新たに問題視されるようになったりといった変更も、これまた明示的でないかたちでなされることも少なくない。

 こうした「クレカ規制」の実情を知る数少ない機会の1つが、2024年3月にDLsiteが発表した、特定の語句を含む単語の新規表現への変更である。発表によれば、クレジットカード会社からの要請のため、「レイプ」を「合意なし」、「痴漢」を「秘密さわさわ」などと変更するとしている [1]。

 これ以前にも、DMMがMasterCardでの決済を終了したり、Skebが暗号資産による決済を進めたりとクレジットカード会社とのせめぎあいは行われてきた。しかし、こうした対応の理由については必ずしも明らかではなかった [2][3]。

 このように、曖昧な面はありつつも、クレジットカード会社による要請はたびたび問題になってきた。しかし、この問題に関する山田太郎の発信は、不正確な内容や真偽不明の風説をもとに支持者の危機感を煽るだけの極めて無責任なものに終始していたと言わざるを得ない。

 最たる例は、「殺人事件」という単語を含む作品の取り扱いが出来なくなるかもしれないという主張である。山田太郎は2021年2月21日に以下のようにツイートしている。

 しかし、この主張は事実なのだろうか。こうした疑念が生じる最大の理由は、ツイートの内容とその後に行われた配信で説明された内容が、あまりにも違いすぎるためだ。

 この直後に行われた配信の第436回 [4] で、山田太郎は秘書に、自身に届いた相談を以下のように読み上げさせている。

(小山)題名、クレジットカード会社による成人向け漫画のタイトルへの表現規制について、という題名でいただいてます。○○社の○○と申します。弊社は、成人向けの漫画を出版している出版社なのですが、先日、クレジットカード会社から警告が来ました。以下のワードをタイトルや説明文に含む単行本、単話の販売がクレジットカード会社より削除要請が入りました。痴漢、殺人、犯す、レイプ、強姦、輪姦、獣姦、凌辱、催眠、昏睡、薬物、などです。
(山田)これ一部削除してあります。
(小山)削除してあります。これらのワードは一部伏字、および、それらを連想させるものでもNGとのことです。ひらがな表記などもダメということです。

【第436回】[4] (再生時間31分ごろから)

 この相談内容を素直に理解すれば、「殺人」という単語が含まれる作品が販売できないのは、あくまで成人向けの作品に限った話である。しかし、山田は、あたかも一般向けのミステリも対象になるかのような説明を投稿し、支持者を煽った。案の定、支持者からは一般的なミステリ作品も販売できなくなるのかという反応が相次いだ。

 また、第543回では以下のようにも主張している。

山田「そんな中で何とか殺人事件を始めとして、昨今は何がダメかと言うと何とか兄弟もダメとか」
萌生「へー」
山田「だから宇宙兄弟ってダメなんだよ」
萌生「え、ダメなんですか?」
山田「そう、あるプラットフォームで叩いてみてください」
小山「その、一番最後に、2023年のイラスト投稿プラットフォームにおいて広範なキーワードが非公開になっていると、この対象になってしまう」
山田「それから、カロリーもダメですね。ロリが入ってるから」

【第543回】[5] (再生時間46分ごろから)

 しかし、私の知る限りでは、実際に『宇宙兄弟』や『カロリー』という単語が検索できなかった事例は確認できず、またそうした事態を訴えている人も確認できなかった。

 もしかしたら、私が把握できていないだけで、あるいは現在は修正されているだけで、実際にこうした自主規制はあったのかもしれない。しかし、自主規制があったとされるプラットフォームの名前すら明らかにされていない以上、真相は闇の中である。

真偽不明の時点で不適切

 こうした背景から、山田太郎の主張する「クレカ規制」の実態は真偽不明の怪情報と評価せざるを得ない。

 このような私の評価に対し、支持者は「いや、山田太郎の主張は事実である」と反論するだろう。現に、彼の主張が決定的に誤りであるという証拠があるわけではない。

 だが、「虚偽である証拠がないなら問題ない」という態度は、国会議員の立場に対してあまりにも甘やかしすぎである。国会議員の立場にある人間の主張は一般に、信頼できるものとして受け取られやすく影響力が大きい。であればこそ、本来であれば、正確で確たる情報発信が心がけられるべきである。

 仮に、国会議員が真偽不明の情報もばら撒いて構わないとなると、その影響は甚大である。「クレカ規制」の主張はいわば、暗に明に、クレジットカード会社が不当な (少なくとも彼らはそう考えている) 要求を取引相手に要求しているという主張である。そうした、会社にとって不名誉な主張を、根拠も定かでないまま行ってよいとする道理はない。

 今回問題視されているクレジットカード会社は、いずれも国外の大手企業である。そのため、与党議員とはいえ1年生の平議員が何を言ったところで大した影響はないだろう。だが、それは結果論に過ぎない。仮に、相手が小さな個人商店や小企業であればどうだろうか。国会議員が小さな会社相手に、あたかも不適切な言動がなされたかのように喧伝すればその影響は甚大である。煽れられた支持者が不法ないしは不当な攻撃を仕掛けるかもしれないし、企業のサービスや商品の利用者が減るだけでも損害は大きい。

 議員が民間の小集団に攻撃を仕掛け、甚大な被害が出た例として参考になるのは、いわゆる暇アノンとそれに追随した議員からの攻撃に晒されたColaboなどの女性支援団体の事例である。これらの団体は、全く根拠のない「不正会計を行った」という主張を様々な国会議員・都議会議員・市議会議員ら (その多くが山田太郎と同じ自民党議員である) に喧伝され、東京都の委託事業を受けられない状況にまで追い込まれた。また、議員の扇動に煽られた人々によりバスを傷つけられたり活動場所で付きまとわれるといった直接的な被害も生じている。

 (余談だが、これらの事例は家に居場所のない子供たちの支援を行っている団体への言われなき攻撃という、山田太郎の好むキャッチコピーである「こどもまんなか」に真っ向から反する出来事であった。しかし、現在に至るまで、山田太郎はこの問題について言及していない)

常套手段としての煽り

 不正確な、ないしは不正確な情報を流布して支持者を扇動する振る舞いは山田太郎の常套手段となりつつある。

 例えば、香川県のゲーム規制問題については、ゲーム依存症治療を行っている久里浜医療センターやその院長である樋口進氏について、あたかも氏らが自身の利益のためにゲーム依存症治療を進め、国に病気として認めさせようとしたかのような陰謀論まで著書 [6] に書き記している。

 また、過去の記事 [7] でも指摘したが、同じ著書では立憲民主党や共産党の選挙公約を持ち出し、言葉尻を捕らえて規制を目論んでいると支持者を扇動した。共産党に至っては、そもそも公約で『「表現の自由」やプライバシー権を守りながら』と明言しているにもかかわらずである。

 常套手段という意味では、逆方向の煽りとでも言うべき言動の方が一般的かもしれない。それは、彼の配信などで頻繁に確認できる、官庁とのレクを行ったことをあたかも何かの手柄かのように喧伝する振る舞いである。

 これもやはり過去の記事 [7] で指摘しているが、例えば、彼は侮辱罪の厳罰化について、法務省とのレクを行い、『正当な言論は刑法35条で救済されることも確認しました』などと喧伝している。だが、法務省が法律の運用で「表現の自由をバンバン弾圧します!」と言うはずがなく、こんな口約束には意味がない。すなわち、このようなレクにも何ら意味がない。にもかかわらず、彼は「レクをした」という1点のみをもって何かの成果のように扱うのである。

 こうした振る舞いは、怪しげな情報で危機を煽るのとは逆に、怪しげな情報で成果を誇っているといえ、行為としては危機の扇動と同根である。百歩譲って、野党議員であれば出来ることは限られており、運用について官僚へ直に釘を刺すのも立派な仕事だと言えるかもしれない。だが、与党議員であれば、官僚とのやり取りなど日常的にいくらでもできる。こんなものは成果とは言えないが、危機なのか怪しいものを危機であるかのように煽るのと同様に、成果と言い難いものを成果だと煽ることで支持者を盛り上げているのである。

常套手段2:煽って放置

結局、クレカ規制はどうなったのか

 山田太郎の常套手段の2つ目は、危機を煽りながら結局は何もしないということである。

 「クレカ規制」はまさにその好例である。先ほど挙げた2つの扇動の事例は、1つは2021年に、もう1つは2023年に行われている。最初の扇動から4年ほど経つが、「クレカ規制」問題は解決しただろうか?

 いや、していない。解決しているならDLsiteの事例は問題になっていないはずである。何度も危機を煽っているということは、その間に問題は解決しておらず、好転もしていないということである。

 これはほかの事例でも同様である。香川県のゲーム規制の問題では、山田太郎は文科省のパンフレットなどの表現に細かく口を挟む程度のことしかしておらず、本丸である条例についてはそもそも明確な批判すら曖昧にしかできていない。どころか、ゲーム規制を推進するに当たって重要な役割を果たした四国新聞の経営者一族である平井卓也衆議院議員の選挙応援の動画を作成する始末である。(なお、当の平井は同じ選挙区の小川淳也に敗れている)

クレカ規制への解決策はあるが……

 一応、先述の通り、「クレカ規制」自体は実在する問題である。これに対する対応としては、独禁法などの法令の適用、クレジットカード会社と各プラットフォームとの仲立ち、国産の決済サービスの振興などが考えられる。(ただし、不利益を押し付ける場合と異なり、単に取引を止めるだけのことに独禁法の適用は困難かもしれない)

 私は経済政策の素人であるが、特に国産決済サービスの振興は有意義であると思われる。現在使用されている決済サービスの多くが外国資本であり、(あえてこう表現するが) 決済するだけで手数料として国内の資金が外国資本に流出する状況が好ましいとは思われない。

 また、クレジットカード会社がプラットフォームへの要求を強める背景には、各社の本拠地となっている国の児童ポルノ規制などの法令の影響があるとも考えられる。だとすれば、純粋に日本国内の法令と基準で決済の可否を判断できるサービスの存在は、表現の自由と独立を確保する面からも意義があると言えよう。

 とはいえ、これらの解決策が、いずれも困難な道のりの先にあるものであり、一朝一夕に解決できる問題でないことも容易に想像がつく。

 ならばこそ、いみのうちから地道な下地作りを進め、多くのステークホルダーを巻き込み、問題解決への道筋を少しでも作るべきである。が、山田太郎の言動からはこうした具体的な対策は全く見えてこない。配信を見ていても、「クレカ規制」の危機を煽るだけである。

当然の帰結としての無為無策

 この無為無策は当然の帰結である。なぜなら、山田太郎が煽る危機自体が、どこまで本当に存在するか怪しいものに過ぎず、同時に、山田太郎自身に問題を解決する能力がないからである。

 危機が存在しなければ、そもそも解決もへったくれもあるまい。「クレカ規制」については、DLsiteの事例が今回表沙汰になったことで注目されたが、それまでは山田太郎が存在すると一方的に主張するだけで、その証拠は乏しかった。DLsiteの事例を別の見方をすれば、少なくとも山田太郎が把握していたらしい「クレカ規制」の事例から4年近く、無為無策のまま放置し続けた結果、山田太郎以外にも知れ渡るほど問題が大きく膨らんだとも言える。

 山田太郎に問題解決能力がないことは、さらに自明である。そもそも、彼がこれまで何かの問題を解決できたことがあっただろうか。この連載で最初に取り上げた「国連特別報告者論破伝説」[8] からすでに、針小棒大な煽りでしかなかった。

 根本を問うなら、本当に問題を解決する能力があるなら、そもそも怪しげな情報で支持者を煽る必要も、レクをしただけでドヤ顔をする必要もない。ただ明確な問題を上げ、解決し、そのことを報告すれば済む。それが出来ないから、扇動の末に放置という手段を取らざるを得ないのである。

無料部分までの参考文献

[1]ITmedia News (2024). 突如「ひよこババア」トレンド入り──クレカブランドの要請で「DLsite」が案内した表現変更が話題に【追記あり】
[2]ITmedia News (2022). DMM、MasterCardでの決済を突如終了へ DMM「諸条件が折り合わず」
[3]ITmedia News (2022). スケブが暗号資産「Skeb Coin」開発へ “クレカの表現規制問題”に突破口 NFTには「関与しない」
[4]山田太郎 (2021). 【第436回】クレカ会社から成人向け出版社へ警告?
[5]山田太郎 (2023). 【第543回】激変する表現の自由の諸問題!(2023/07/05)
[6]山田太郎 (2023). 「表現の自由」の闘い方 星海社
[7]新橋九段 (2024). 【山田太郎問題】激ヤバ規制「侮辱罪厳罰化」推進を誇る愚と好都合なダブスタ
[8]新橋九段 (2023). 【山田太郎問題】「国連論破神話」の解体#1:ただの居直り

「表現の自由を守る英雄」の自画像(有料部分)

 ところで、なぜ山田太郎は、このような煽り芸を常套手段とすることになったのだろうか。率直に言って、何もしない国会議員など自民党には無数にいる。そんな無能な国会議員の1人でいることもできるはずだが、彼はなぜそれが出来なかったのだろうか。

 ここからはごく個人的な推察になるので、有料記事としておく。

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