失敗の代償 実話怪談

この話はYouTubeで朗読をされているemiko様に書き下ろしたものです
https://youtu.be/I6kmFlDLSrs?si=qiT-CZZDQjQqGQ2d




知り合いに拝み屋がいる

この拝み屋はお祓いはしない

むしろ怖い話が大嫌いで、霊感はあるが霊が怖い

神様と会話し、頼み事や悩みを解決する仲介役とかけられた呪いを相手に返す呪い返しを主に行う

そして本人の職業は按摩

全盲で鍼灸按摩の資格を取って完全予約制のマッサージ院を運営している

拝み屋と出会ったきっかけは居酒屋

夕食がてら呑んでいたら声をかけられた

「おいお前、風に当たってるぞ。臭くないか?」

季節は夏で確かに冷房の風に当たっていた

「こっちは臭いんだ。お前は臭い」

等と失礼なことを言われ、正直腹が立った

私自身汗をかいていたが臭い臭いと言われるのは失礼だと思ってた

テーブルに立て掛けられた白杖に視覚障がい者であると分かった

視力が弱いと他の感覚が鋭くなるので匂いに敏感なんだなと思っていると

何故か一緒にいた男性が平謝りしてきた

「臭いと言うのは呪いの匂いです」

その暴言を吐いていた同席していた男性の話によると呪いが風のように吹いて来て対象者の顔にかかると言う

「風を吹かせているのはプロだ、誰か分かるか?」

と聞かれ、思い当たる人物はいた

当時関わってしまった霊能者

初対面から苦手なタイプで、相談者から先生と信望され、依存されていた

霊能者本人も頼られたい方で、高い金銭は受け取らないものの信者を増やしていた

その人物に不信感を感じ、その霊能者に頼ろうとした家族を霊能者から引き離して1ヵ月近くたっていた

その説明をすると

「そいつだ。余程頼って欲しいんだな」

そう言って私の顔の前で何かを払う仕草をした

その瞬間、私の視界がクリアになった

それまで薄い紙か何かで視界を遮られていたのに取り外して貰ったようだった

「この風は相手に返しておく。良いな」

と言われ、霊能者にも腹が立った私は

「倍返しで。相手を後悔させてやりたいです」

と言ったら

「ふざけるなこの阿呆が。返すのはきたやつだけだ」

と叱られた

「神様を騙って人様を騙す阿呆にも本物の神様がいくから心配するな」

とも言われた

その事がきっかけで、日本酒と落語の趣味で気があって呑み友になった

コロナ下になってからは感染予防のため、頼まれて日本酒を買ってきたり贈ったりする仲になった

その時に呪い返しについて教わった

呪いを風と呼ぶのは拝み屋の師匠がそう呼んでいた

風のように吹いてきて、対象者の顔にかかる

そこから狙った場所に移動していくと言う

例えば心臓を狙っていたら心臓という風に

その風が目的の場所に移動する前に拝み屋はそれを捕まえて相手に返す

一種の技術職でやり方は秘密の部分が多いが、相手が生きていようが死んでいようが目標があれば返せる

後は力関係もあり、相手より自分の方が上手であれば成功する

そして大事な注意点

呪いは寸分たがわずきっちり返す

どんなに力量が優れていても、返す呪いが少なかったり多すぎると自分に呪いが降りかかり、最悪死に至る



その現場を拝み屋の師匠が遭遇したという話を聞いた

拝み屋の師匠は元々は両目は見えていたが、病気で両目の視力が低下し、弱視となった

師匠は弱視になってから他の感覚が鋭くなり、霊の姿を感知し、神様が話しかけるようになった

そこから按摩をしながら拝み屋としても名が知られるようになった

当時は拝み屋もあちこちにおり、近くの村にも他の拝み屋が居て交流があった

その1人が厄介な依頼を受けたと言ってきた

依頼人はある農家の土地が自分の先祖の土地だと分かり奪ったとの事

合法ではあったが、農業を営んでいた農家にとっては死活問題

土地を買い戻すので売って欲しいと懇願した

しかし、依頼人は今まで自分の土地を奪われて、収益に損失出ているのでその申し出を断った

間接的に死ねと言われた農家は依頼人にお前を呪うと伝えた

そこで拝み屋に話が来た

師匠よりも経験が長いし、技術も上だが、師匠としては不安を感じていた

話を聞く限りその恨みは強い

まず自分なら断る

何より依頼人の顔を覆う呪いの風が、黒く重いものだった

そのいやな予感は当たった

「返しに失敗した。助けてくれ」

血相を変えたその拝み屋が師匠の家を訪ねた

その拝み屋の全身は黒い風に覆われ、師匠は手遅れだと感じた

「俺には無理だ。お前に関わったら俺も死ぬ」

断腸の思いで仲間を見捨てたという師匠の声がいつもよりも重く苦しそうで、途中から泣いていた

その拝み屋は1週間後に変死体で見つかった

同じ日に依頼人も亡くなったため、関係者として師匠も呼ばれた

「あんた目が悪くて良かったな」

と警官に言われるほど凄まじい表情だったという

「見てしまった人曰く目玉が飛び出しそうに開いていて口も顎が外れそうだった」

泡を吹いて喉をかきむしった様子から毒を飲まされたという話だが、口元から毒の匂いはしなかった

昭和初期のしかも田舎での事件

地元の警官のみで誤って毒物を飲んでしまったという事故で終わった

依頼人もまた同じ症状で同じく事故で済まされた

奇しくもその死に様は土地を奪われた農家が自殺した方法と同じだった

農家の死因はネコイラズを飲んでの服毒自殺だった



「あの風はお前と同じ返しの天才なら救えたんだろうな」

と酒を呑みながら教えてくれたという

「本当の所按摩さんなら返せる?」

素朴な疑問ぶつけてみると

「阿呆が。大昔の人間の心にか弱いイケメンの俺が勝てるわけ無いだろうが」

と冗談じみた事を言われた


因みに拝み屋がこの話をしてくれた理由は初対面での私の倍返し発言があり、今もネチネチと言われる








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