夜間警備13

女性は美を求める
それは異性の為か?

同性と闘う為

より良い相手を求め

戦闘服を着込み

メイクを装着し

おのが肉体を武器に

おのが肉体

胸と身長がねえ

「市報に源さんと潮来君が載ってる」
スーツ姿で作り笑いの2人の写真
「ああ、博物館の宣伝にこの2人程絵になる奴はいないからな」
普段の疲れきった表情は消え美男美女が作られている

「改めて見ると潮来君てイケメンよね」
帰る準備をしていた受付さんが楽しそうに話しかける
「そーですね」
口を開けばノーデリカシーキングだが
「いつもこんな髪型をしてくれたら良いのに」
女性職員が2時間かけて整えた髪型は撮影後直ぐに崩されたとのこと
「うわぁ…最低!」
「あはは!仕方ないよ。潮来君は前髪上げるの嫌いらしいから。眩しいんですって」
あいつは吸血鬼か

職員が全員帰ったのを見届け職員通用口を施錠する

「今回は…江戸の美男美女か」
ポスターを見ると浮世絵の男女の絵
「お化けは出なさそうだな」
幽霊画の様にフレンドリーな人達もいるだろうが
「お化けはお化けなんだよ…」
やはり怖い
「今日は物部先輩が居ないから大丈夫…なはず…」
今日のシフトは女性
「施錠確認終わりました」
「はーい。ご苦労様~」
呑気にマニキュアを塗りながら答える彼女
「…仕事中ですよ?」
何度かこの人と組んだが、物部先輩の次に苦手だ
何かケバいし、男女で態度が違う
「今日は学芸員居ないんだ。潮来君に会えると思ったのにぃ」
何か潮来ファンらしい
「あの人達だってしょっちゅう残業な訳ないですよ」
サービス残業って聞いたし
「もう、潮来君が喜びそうな浮世絵ネイルにしたのに」
器用だなおい
「ほら、こういうネイルシールがあるの」
凄いな!
「博田ちゃんは元美容部員でしょ?メイク指南してよ」
雑誌を広げるネイル子
いや仕事中だよ
「それより巡回の時間です」
「えー?ちょっと今からの肌ケアの話しようよぉ」
肌が気になるなら夜勤すな
「とっとと行きましょう」
ネイル子を促し特別展示室に向かう
「なんかさ、美術館とか博物館って不気味だよねー!こんなに古くさい物とか飾ってキモい」
「確かに!今回は江戸の美男美女って言ってましたよ?」
当時の大人気だったと言う歌舞伎役者や火消し
人気茶屋の看板娘や花魁の浮世絵達
「てか緑の口紅って斬新…」
日本髪に緑の口紅と言うおかしな組み合わせだ
「あ、それは玉虫色です。高級な笹紅は重ね塗りをすると鮮やかな紅色から緑色に変化します。当時から高級品で1つ6~7万程」
「高っ!てか」
「潮来きゅんっ!」
何処からか現れた潮来君
ガシッ
「どうやって侵入したんですか?いくら博物館の職員と言えど施錠後にウロウロするなら侵入者です」
腕を掴み携帯を出す
「待って待って!忘れ物をして探しているんです!しかも気がついたら皆居ないし!」
慌てて釈明する
何でこいつが居ないのに気づかなかった
ちゃんとこいつも回収しろ
「探し物って何ですか?とっとと見つけて出てください。本当は施錠後に人が居るなんてあり得ないんですけど」
施錠後はセキュリティの関係で警備員以外は居ては行けない決まりになっている
「良いじゃん。固いことは言いっこなし!ねー」
潮来君腕を掴み自分の胸に押し付けている
畜生デカ胸め
そんなに自慢か!
「あの…うちの姉と同じことするの止めてくれます?後くっつかれたら探し物が出来ません」
無駄にドライだな潮来
お姉さんが居るんだ
しかもデカ胸
「お姉さんが居るんですね?」
「…姉と妹が2人います」
凄く嫌そうな顔を見せた
「化粧臭いし、胸を押し付けて巨乳アピールでウザいし。僕が女性不振になった原因って姉と妹達のせいです」
初めて知った潮来エピソード
しかもお姉さん達は絶対美人だろうな
てか化粧臭い言うな
ネイル子の前で鼻を摘まむな
「デリカシーなさ男。忘れ物位探してやるから出ていってください」
どうせ明日の朝も出勤だろうし
「あ、忘れ物はスマホです。しかも電源も切れてて」
お前はアホか
「何でちゃんと充電しないかなぁー?」
思わず拳を握りしめる
「すみません!すみません!昨日も忘れちゃって。今日も家族とここで通話中に落として…」
「こんな所で電話すな…」
「潮来きゅんてどじっこー!」
ネイル子はメンタル強いな
めっちゃ拒絶されてるけど
兎に角潮来のスマホを探しだして
とんとん
とんとん
静かだと結構響くこの音
誰かがスマホのディスプレイを叩いてる
「ねーこれ壊れてる?」
「マジ?折角自撮りしようと思ったのに」
若い女性の声
まさか
まさか
まさか

普通に侵入者であって欲しい
いや良くない!
幻聴であれ!
恐る恐る振り返る
「ねえねえ店員さん、これ動かないんだけど」
日本髪に細い瞳
おちょぼ口の細面(ほそおおもて)
浮世絵の人物が飛び出してます
ありがとうございます
「あ…それ電源が切れてます」
携帯充電器をロッカーからもって接続する
「キャー!写った~!」
きゃっきゃとはしゃぐ姿は女子だ
こうやって見ると可愛い
…とネイル子は何処に行った?
床を見ると
白目剥いて寝てる
うんうんお疲れだね(と言う事にしておこう)
「自分だけ気絶しやがって…」
悪態を吐き
彼女達が満足するのを待っていたが
「クスッ!これだから教養のないおなごはお下品どすな」
あからさまに見下した声
艶やかな着物に大きく結われた髷(まげ)
キセルを持った派手な細面の
「花魁(おいらん)」
「こんなにキーキーとお猿さんのように騒いでみっともないでござんす。ねえ店員はん?」
優雅に笑いかける花魁の迫力と余裕に
「ぁ…うー…」
返事に窮する
「ほらほら、店員はんがお困りになってるでありんす。わっちにお返しなさい」
いやいやいや
お客様、持ち主はあなたではありません
「…は?」
「何?おばさん?」
「ふざけてる?」
うおおお…言い方!
「は?小娘が…わっちに喧嘩を売ってるんでありいすか?」
花魁のこめかみに筋が浮かんでる
「あの3人は当時の茶屋の看板娘で今だと16才。対する花魁は23位。もうすぐ年季明けです」
詳しい説明ありがとう潮来
「てかこの女のバトルどうするんですか?潮来君のスマホは向こうに取り上げられたままだし」
そもそもこいつがスマホを落とさなければ良いだけだ
「婆さんが写真なんか撮っちゃダメでしょ?ほうれいせんとか気になるんじゃない?」
「本当におつむの足りん娘は残念どすな。動画なんか撮ったら干からびたお脳がカラカラ音が立てるんじゃありいすか?」
小首をかしげ嫌らしく笑う花魁の表情には悪意が混じっていて
「今も昔も変わらないんですね」
「うちの姉と妹達もいつもあんな感じです」
ハアとため息を吐く
「女って面倒臭い…」
気持ちは分かるが私の前で言うな
「それよりあの人達どうしますか?」
バチバチと火花を散らすお客様達
まだ舌戦だがつかみ合いになったら困る
「あんたのイケメンパワーでどうにかしてよ」
「えっ?僕ぅ?」
僕ぅ?じゃない
「僕です。さあ行った行った」
突き飛ばすも
「邪魔!」
「うっとおしい!」
逆に尻を蹴飛ばされヒイヒイと嘆きながら帰ってきた
「…ちっ!」
「え?今舌打ち」
仕方ない
役立たずの潮来を押し退けこちらが行こうとすると
「おっとお嬢さん。怒りの炎を静めるのは俺たちの仕事だぜ」
「ファンのいさかいの仲裁は慣れたもんだぜ」
誰かが私の肩を叩いた
粋でいなせな後ろ姿を見送る
「やあやあお嬢さんさん方、熱いねえ!こいつは纏(まとい。火消しが持っているアイテム。火事の時の何処の組か知らせる目印)を振る腕に力が入るってもんだ」
「きゃあっ!あなたは火消しのお兄さん!」
先程まで争っていた女性陣が悲鳴を上げる
「おっとおいらも居るぜ」
「キャー!團十郎様と菊之丞様!」
「誰?火消しって人気?」
こそこそと話す
「江戸時代は火事が多くて火事から家を守ってくれる火消しは大人気でした。そして歌舞伎役者は今で言うところのイケメン俳優です。ブロマイドでもある浮世絵は飛ぶように売れたそうです」
「それでか。私も大好きな俳優だったら悲鳴を上げるわ」
「えっ?博田さんの好きなタイプって誰ですか?」
随分と食いついてくるな
「今は関係ないでしょ?」
告白してきたからあながち関係は無くはないが
「お嬢さん方、じゃあ皆で記念撮影…」
ゴトンッ
いきなり浮世絵の人物達が消えていき、辺りが明るくなった
「朝?」
「まだ夜です」
電灯のスイッチを見れば寝ていた筈のネイル子
「あんた潮来きゅんと何やってんのよ!暗いからって不埒な事をしてたわね!」
「いや誤解」
確かに今潮来きゅ…君は私の肩に手を置いてる
「まだしていません(キスはしたけど)僕たちは清い交際中です」
おいこら嘘をつくな
潮来の頭を殴りたい衝動を押さえ、ギャーギャーと騒ぐネイル子に
「ふんっ!」
首の後ろに打撃を与えそっと寝かせる
「博田さん、彼女を殺し…」
「ふんっ!」
潮来にチョップをかまし
「忘れ物を回収したらさっさと帰れ!あんたの事は彼女の夢にしとくから」
「はぃ…すみません」
頭を押さえつつ去っていく潮来の為に解錠し、改めて施錠する
「さて」
他に残っている職員がいないか確認し
「ではお願いします」
火消し達に手伝って貰ってネイル子を警備室まで運搬する
しかし
「あんま身長変わんないんですね私達」
江戸時代の男性って身長低いのね

「江戸時代は末期になるともう少し高くなるが、おおよそ155cmから156cmだな。女性は143cm位だ」
翌日夜勤で来た物部先輩に昨夜の出来事を説明すると、先輩に
江戸時代だと高身長だ良かったな
と謎の慰めを貰う
「それよりあの人はうまく誤魔化せたか?」
「ええ」
あれから

「潮来きゅんっ!その女から離れて~!」
絶叫と共に飛び起きるネイル子
「あ、おはようございます」
お茶を飲む博田と目が合う
「えっ?ここ何処?潮来きゅ…君は?」
「潮来君?もう帰られてますよ?皆さん今日は定時でしたから」
時間を見れば深夜
「確かにあの時…」
潮来君がこの女とキスを…
「お疲れですか?お喋りしながら寝てましたけど」
テーブルには自分が持ってきたファッション雑誌
「肌荒れが強いみたいですから良い化粧品と肌ケア用品をお勧めしますよ」
普段と変わらない笑顔の博田
「う…うん…夜間の仕事多いからかな」

「伊達に鬼女様が跋扈する魔窟で仕事をしているわけじゃないんです」
隙のない笑顔を見せる博田に
「お、おう…」
ひきつった笑顔で答えた
(女の世界って凄い)

その後ネイル子さんは警備の仕事を私より早く辞めていった

先を越されてしまったが絶対に辞めてやる

終わり

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