夜間警備15

子供の頃、ハロウィンの仮装はそんなにメジャーでは無かった

子供会の行事で各自手作りの仮装

と言うことで母に衣装を頼んだが

「ハロウィン?仮装?テレビであってるあれ?お母さんは恥ずかしくて出来ないわよ」

全くの逆方向理解をし、とんちんかんな答え出してくる母に何とか説明し

「じゃあこのシーツを被って行ったら?お化けっぽくて良いんじゃない?」

古くなったシーツを被せられ、目の部分から少しずれた所に穴を空けたシーツお化けで待ち合わせ場所に行くと

「あ、博田さんも同じ?」

シーツお化けが増殖し、白い集団が徘徊し、お菓子を求めるイベントとなったが

「ごめんなさい!お菓子が1個足りないから取って来るね!」

あらかじめ人数を言っていたにもかかわらず、お菓子が1個足りなかった

誰かが欲張って2個取ったのかと疑っていたが、引率の大人が見張っていて、ズルは出来ない

気になった引率の大人が皆のシーツをはずすように言って、一斉にシーツを外し、顔を見せる

「やっぱり知らない子は居ないわねえ」

不思議そうな引率に

「連絡した人が人数を間違えたんじゃない?」

大人同士の会話で事件は落ち着き、その後私が小学校を卒業するまでの6年間1人多めのお菓子が用意され、人数も1人多めのまま行事が行われた

「今年もこの季節がやって来たわねえ」

子供達に配るお菓子を用意しながら母がしみじみと呟く

「あんたが小学校1年から始まって、あんたの子供もいずれは参加するんでしょうね」

「それまであってたら良いけど」

てか結婚もまだだし、何より結婚してもこの町に住むとは限らない




出勤で町に出ればあちこちでカボチャお化け屋敷や黒い帽子を被ったお化けのイラストや、コウモリやクモの巣のオブジェ

子供たちもそれぞれコスプレをしていて

「夕方からの行事なのに気が早いな」

思わず笑ってしまう


博物館に行くと、正面玄関にテーブルが設置され、スタッフがお菓子を並べていた

「ここにも子供たちが来るんですね」

「ハロウィンイベントで今日と明日ね。子供たちも楽しみにしてるのよ」

にこやかなスタッフの中

「子供の相手って正直しんどいですよね。美術品の修復の方がまだ楽です」

潮来君が嫌そうな表情を見せる

「子供って騒がしいし、行動に予測が出来ないし。何より道理が通じない」

潮来君は子供が嫌いなんだ

でも

「だからといってあからさまに嫌そうな顔は止めなさい。もうすぐ子供たちが来るんだから」

源さんが潮来君の腕を肘でつつきながら注意する

「だったら僕にお菓子を配る係にしないで下さい。何で僕が…」

それはイケメンだから

源さんと並ぶと絵になるから

潮来君はノンデリカシーで口を開くと残念だが、黙っていればイケメンだ

広報も居るから写真にも撮るんだろうけど

「あいつあの顔で写真を撮って貰う気か?」

同じく制服に着替えた先輩がやって来て呆れた声をあげる

「先輩、やっぱりこれも写真を撮るんですね」

「ああ…あ!博田、ちょっとこっちに来い」

いきなり先輩が私を源さんと潮来君の間にねじ込む

「何なんですか?」

と言うか私は見事なお邪魔虫じゃないか

そっと上を見上げると

頬を赤らめ満面の笑みの潮来君

あからさま過ぎるその顔に恐る恐る源さんを見上げる

あ、何故かこっちも満面の笑み

何なんだこの2人?

「博田!一歩後ろに下がれ!カメラ!写せ写せ!」

先輩は何故かテンションが高い

後ろに下がり、潮来君の後ろに隠れた瞬間、たかれるフラッシュとシャッター音

「物部さんありがとうございます!」

カメラマンの声に成功したことを知る

「さっきのは何か親子みたいだった」

スタッフが微笑ましく見守っていた

余計なお世話だ

どうせ私は童顔チビだ

「博田さんも一緒にお菓子をくばりしょう。僕、博田さんが一緒にしてくれるなら嫌いな子供にも愛想笑いが出来ます」

大声で失礼なことを言うな潮来

「もう潮来君は居なくて良いんじゃないですか?私と博田さんでやりますから」

源さんが私の腕を自分の胸に押し付ける

柔やか…ではなく

「私はこれから仕事です」

「えええー?」

潮来も源さんもダメな大人の顔になってる

「2人とも頑張って下さい。どうせ1時間弱のイベントなんでしょう?」

とっとと引き継ぎに向かおう

「それではみんなートリック・オア・トリートォ~!」

玄関で待機していた子供たちがスタッフの合図で一斉にお菓子のあるテーブルになだれ込む

悲鳴を上げる潮来君とお菓子を渡しながら潮来君を怒鳴り付ける源さんかなりのカオスな状況になっていた

「南無」

思わず手を合わせちゃった


「ここもハロウィン使用なんですね」

大小様々なカボチャが並び、一見無造作に飾られたゴースト達

「小さい頃から博物館に親しんで貰おうと言う企画だ」

「へー…ぇ?」


~日本のハロウィン~百鬼夜行展~

「何でだよ!」

「折角の妖怪ブームに乗っからないと…」

「せめて西洋でしょうが!」

思わず叫んでしまった

「海外の怪物の絵に子供が喜ぶユーモラスな物はねえ」

「こっちも喜びそうに…うん?」

今目の端を何かが通ったような?

不思議に思っていると腕を捕まれる

「やっと見つけた!ここは立ち入り禁止って言ってるだろ!」

いつになく不機嫌な潮来君の声

「君高学年でしょ?もう小さい子に混じって遊ぶ年じゃないだろうに」

潮来君の言動から私を小学生だと思い込んでいるようだ

「おい、潮来。それ博田…」

先輩に言われ、我に返った潮来君が飛び退く

「すすすすみません!3人の子供が居なくなって。それでこっちに走っていくのが見えたので追いかけてました」

「そうですか。と…」

こちらの目を盗んでする抜けようとした白い影を捕まえる

「コラ!ここは立ち入り禁止!」

シーツを被った子供は俯いている

今もシーツお化け流行ってるのか

「ごめんなさい。お化けの絵を見に行こうって言われて…」

「じゃあ他の子も展示室内に」

潮来君の顔が青ざめる

「中には国宝もあるんです!傷なんか付けられたら!損害賠償処じゃない!もう貸して貰えません!」

「そっちかい!」

思わず突っ込むが、こういう世界は信頼の元で成り立っているんだろうな

「私としては別な心配があります」

物部先輩を見る

「ああ。モノノケ先輩ですね。3Dアート状態になってるから子供たちが喜ぶに違いありません」

「最悪だ…もう終わりだ…」

地面に突っ伏した潮来君を無視し、中に入ろうとすると

「助けてぇ~!」

吸血鬼の格好をした子供が特別展示室から飛び出してきた





「ここって本物のお化け屋敷なんだって」

小学校の子供たちに話題になっていた近所の博物館

「本当かな?」

「夜でないと出ないだろうから。夜に決行だ!」



「と言うことで、今日は夕方でも入れるから暗くなるまで隠れていようって」

吸血鬼コスプレの子供が泣きながら説明する

「ここは文化を学ぶところで遊び場じゃない」

潮来君の説教ももっともだが

「ここって本当にお化け屋敷だったんですね」

私は博物館の夜間警備の契約のはずなんだけど

これって契約違反にならないのか?

「そしたら本当にお化けが出て友達がお化けに捕まっちゃった!」

絵画から現れたお化けが人間を襲う?

「そんなに狂暴なお化けが取り憑いた絵画があるんですか?危険すぎる!」

下手したら私も殺される

「そんな危険な奴は居ない筈だが…取り敢えず中に入るか」

中に入るとやはりひんやりとした空気は漂うも静かだ

「珍しく連中が静かだな…と…中身がもぬけの殻だ」


先輩が指した先

ガラスケースの中の巻物や、葉書大の紙には描いてあった筈の妖怪達が居ない

「掛け軸もです!」

潮来君が悲鳴のような声をあげる

「全部が抜け出してしまったら集まるとしたら?」

「奥の展示だ!百鬼夜行のメインは奥だ!」

奥に駆け込むと百鬼夜行絵巻の妖怪達が集まっていた

「やめてよお!僕はお化けじゃないよお~!」

カボチャお化けの子が泣きながら妖怪達の手から逃れようとしていた

「ちょっと!その子は普通の人間です!」

私が叫べど妖怪達は聞かない

「彼らに僕達人間の言葉は通じません」

潮来が床に座り込み、懐から数珠を出す

「妖怪の言葉を翻訳できる人物を口寄せします」

両手を合わせ、ぶつぶつと呪文を唱える

「ふぅうう…」

口元から漏れるため息のような息と共に潮来の目付きが変わる

「我こそは豊前坊(ぶぜんぼう。英彦山(ひこさん。九州にある山)に住む天狗)!貴様等騒がしいぞ!」

いつもの潮来君のボソボソとした声からは想像もつかない大声

「全くの別人ですね。多重人格者みたい」

「これが憑依って言う奴だ。今あいつに取りついているのは天狗だな」

豊前坊の名乗りに妖怪達がカボチャお化けの子を追うのを止める

その隙にカボチャお化けの子を保護した

その間妖怪達が何かを喋り、豊前坊はウンウンと頷く


「百鬼夜行の鬼が1匹不足しているそうだ」

カボチャお化けの子を見つめる

「そいつが同じ格好をしているから百鬼目に加える」

そう言うわけだからカボチャお化けの子を奪おうとする

「そんな事出来るわけ無いでしょう!」

慌ててカボチャお化けの子を庇うも、豊前坊は首をかしげる

「足りないものが満ちればこやつらは落ち着く。貴様らもそれを求めているのだろう?」

尚も腕を伸ばしてくる豊前坊

「目を覚ませ潮来!」

雑誌を丸めた物で潮来君の頭をはたく

気持ち良い音で叩かれた潮来君はいつもの表情に戻る

「はぁっ!はぁ…」

大きく息を吐き、壁にもたれる

「まさかあんな大物が降りて来るなんて」

潮来君は汗をびっしょりとかき、服まで濡れていた

「お前は休憩してろ。俺は居なくなった百鬼を…」

「ごめんなさい。戻ります!」

残りの1匹を探そうとした先輩の元にシーツお化けの子が駆け込んできた

「えっ?君?」

勝手に入っちゃダメと止めようとした私に

「博田さん、その子が百鬼目です」

死にそうな顔をした潮来君が叫び、床に倒れ込んだ

シーツお化けの手足は人間の子供から獣のような毛むくじゃらになり、鋭い爪が生える

「お菓子がほしくて子供達に紛れ込んでたんだな」

おそらくさっきのシーツお化けが食い散らしたのであろうお菓子の包み紙を先輩が回収する

「百鬼夜行も揃ったな」

皆絵画に戻ってまた元の静けさが戻った

「ごめんなさい!」

無事に保護者と合流した吸血鬼とカボチャお化けの子達は謝罪し、保護者に叱られていた

「今日は無駄に疲れたな」

「私達は今からが本番ですね」

潮来君もフラフラと歩きながら帰っていく

「しかし絵画のお化けもお菓子を欲しがるんですね」

子供達に配って余ったお菓子を食べながら先輩と話す

毎年この時期に絵から抜け出してお菓子を貰っていたんだろうな

「ああ。俺も初めてだ。お菓子を食べたがる絵画」

うん?初めて?

「でも毎年ハロウィンにシーツお化けが1人混じっていましたよ?」

「ああ、その話なら知ってる。昔からこの町に居るらしいな」

いつの間にか増えている子供

皆顔見知りだと思い込む

そしてまた消える

「ハロウィンだと本物が混じっていてもおかしくないからな」

先輩が立ち上がり、何もない空間にお菓子をもっていく

「どうしたんですか?先輩」

先輩がお菓子を差し出すとシーツお化けが現れてお菓子を受け取る

「どこから?」

呆気に取られているとシーツお化けがシーツを捲り

「………トイレに行ってきます」

「………おう。気を付けて」

着替えをもってダッシュっでトイレに駆け込んだ


絶対辞めてやる!

ついでにこの町も出ていってやる!



終わり

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