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夜間警備20

「搏田さんが好きです」
あの時の自分はおかしかった
自覚はしている
何をとち狂ったのか潮来君に嫉妬してしまった
搏田さんの噂は聞いていた
あのお化けマジシャン物部先輩と一緒に夜間警備をしていると
学生時代から貴重な美術品を手を使わずに動かしたりして悪ふざけをしていて
学芸員になってもそのふざける癖が変わらなくてクビになった
その後博物館への未練からか警備員に再就職していた
まあ美術品への愛着はあったのだろうから同情の余地はある
あの悪ふざけは相変わらずで、そのせいで先輩と組みたいという人は居なかった
そんな先輩の噂を知ってかしらずか小柄な女性が組んだと聞いた
作業で遅くなった時に初めて出会った博田さんは小柄で童顔の可愛い感じの女性だった
「搏田女史って小さくて可愛いよな」
異性からの好感度が高いというのが最初の印象
高身長の私から見て理想の可愛さはあった
しかしこんな小柄な女性が警備員だなんて大丈夫なのかと不安になることもあったが
先のミイラ損壊事件の犯人を取り押さえた現場を見て印象は一気に変わった
柔道の有段者とは聞いたが実戦経験があるのか動きがプロだった
小さくも凛々しい彼女に好意を持った
人間に興味のない潮来君もいつの間にか搏田さんに好意を持っていて
「源より先に好きになったのは僕だから」
何故か敵意を持たれた
「搏田さんも源に好意を持ってるみたいだし」
「それは同性としての好感でしょうが」
そもそも潮来君のようなデリカシーのない顔だけ男の内面を好きになる人物がいたら見てみたい
「僕は搏田さんに告白したよ」
ドヤ顔で話した潮来君に動揺した
でも搏田さんの好みは
「背の高すぎる異性は嫌いだって言われたけど友達からでお試し期間中なんだ」
つまりは振られたと
しかしキューピッド事件の時に潮来君が友達関係から脱しようとしていた
今の搏田さんならはいと答えそうだ
「搏田さんが好きです」
テンパってつい告白してしまった

「あれはlikeでloveではありません。搏田さんは尊敬しています」
そんな嘘を吐いた私に潮来君が何か言いたげだったが
余計なことは言うなと睨んでおいた


「あー。なんでこんなこと言っちゃったのかなー」
「知らないよ。てか僕に言われても」
潮来君の部屋でため息を吐く
潮来君の部屋って学生時代から変わらない
歴史学や考古学の雑誌
オカルト本に
「柔道雑誌にプロレス雑誌が増えてる」
多分搏田さんの趣味に合わせたのだろう
まあ私も愛読しているけど
「てか何でうちに来たの?うちの女連中が誤解するんだけど」
「知ってる。元カノが復縁を迫りに来たって盛り上がっていた」
「搏田さんにまで誤解されたらどうするんだよ」
「大丈夫。誤解は解いてるから。それよりもこれから搏田さんにどう接したら良い?」
「僕に聞かないでくれる?そういうの苦手なんだから」
「ごめんね。わたしも正直テンパってるの。こんな変な事を話せる相手は潮来君しかいなくて」
「そんなに友達いないの?僕でよければ‥」
「変な気を使わなくて結構」
「まあ搏田さんはそういうのは気にしないだろうから」
「そうね」
あの搏田さんならば
「それに明日から搏田さんの興味はアレに向くよ」
ですよね

翌日
「はわわわわ‥あふあふあふあふ」
「落ち着け」
明日からの展示がこんなにも楽しみな日は去年のしょうがつかざりいらいだ
「うさちゃんまつり!」
「イースターな」
カラフルな卵に可愛いウサギの飾りはほっこりする
前回が恐怖の人形祭りだっただけに余計に嬉しい
「これは日本ではまだ珍しい祭りだ。海外のキリスト教圏ではクリスマスよりメジャーと言われてるんだ」
いつもの先輩の説明によるとイースターは別名復活祭とも言われ、キリストが処刑された後3日目に復活された事から生命の誕生の卵と多産の象徴であるウサギがモチーフとなったものが飾られるとのこと
「つまりはうさちゃんマニアの祭典でもあるんですね」
「何でそうなる‥。後イースターエッグと言うのもあって、卵にいろんな柄を塗って楽しむのもある」
特設コーナーには
『イースターエッグに色を塗ってみよう』
「お手本がガチすぎてお手本になってないんですけど」
「お手本だからな」
パステルカラーのイースターエッグを眺める
「言っとくけどその卵はプラスチックの偽物だからな。間違っても食うなよ?」
「食べませんよ。子供じゃあるまいし‥うん?」
「どうした?」
「何かこのイースターエッグ」
イースターエッグの1つが揺れ始めた
「何かおかしくないですか?」
わたしがそう言った瞬間にイースターエッグが飛び跳ねた
「やっと飾り付けが終わった」
毎回のことながら準備は予定通りに進まない
搬送業者の時間がずれたり、飾りつけが予想と違ったり
小道具に傷があったり
何故か配置が違っていたり
「わたしが最終確認をしますからみんさんは警備の方に連絡をしてから退社してください

今回の企画リーダーから声をかけられ帰り支度をする
と言っておロッカーに荷物を取りに行くだけだが
「物部さん、私達帰ります」
「後は企画リーダーだけですよね。お疲れ様です」
警備室で申し送りをしていた物部先輩に挨拶をして同僚が帰っていく

「展示室に忘れ物した」
うっかりな人がいた」
「またかよ潮来」
呆れた先輩の声に物忘れ常習犯なのだろう
「潮来君、早くしなさいよ」
潮来君に声をかけ帰ろうとするも
「ごめん源。一緒に探してくれる?」
「‥は?」
何故か潮来君に呼ばれわたしは声を上げる
「何で私も?」
「源に返却する予定の本を忘れたから。ついでに返そうと思って」
「もう」
「俺たちも巡回に戻るから早く見つけて帰れよ」
先輩に言われ、探しに特別展示室に向かうと
「源、企画リーダーがおかしなことをしていたのを知ってる?」
急に真面目な表情になった潮来君
こう言う時の潮来君のカンはよく当たる
「リーダーの持ってる本は悪魔崇拝者の好む本だから」
「さすがオカルトマニア。ストーカー並みの観察眼」
「趣味じゃなくて基本知識なんだけど‥卵って全ての世界において生命の象徴じゃない?それを使った魔術も存在すると聞いたことがあるんだ」
途中からホラー映画の展開みたいになってきた
特別展示室に恐る恐る入ってみるとぶつぶつと呟きながらたまごに何かを書き込む企画リーダー
「潮来きゅんの心は私のもの私のもの私のもの私のもの‥」
「また潮来信者‥」
昔から潮来君のファンはおかしな人が多かった
何かノロイなのかマジナイなのか変な人形を持っていたり、消しゴムを大量に持っていたり
「あなた何かおかしな電波でも発信させてる?」
「人を怪しい電波塔みたいな言い方やめてくれる?リーダーは悪霊か何か取り憑いているとか?」
「何非科学的なことを言ってるのよ。取り敢えず声をかけましょう。結構恥ずかしい事をしているから傷つけないように当たり障りのない‥」
当たり障りのない声掛けを促そうとしたのに
「すみません。僕は搏田さんが大好きなんです。なのでリーダーの気持ちに答えられません」
「ちょ!」
いきなり潮来君の無神経な声掛けに彼女は驚いて顔を上げる
「潮来くぅん?」
事らを見上げるリーダーの顔は先ほどまでとは違い、顔面が真っ黒で瞳がギラギラと光る
「潮来君と私は繋がるの。潮来君の口寄せで我々はこの生命の源である卵から魔界の軍団を招き寄せるのだ!」
途中から口調が変わる
まるで悪魔が語っているようだった
「えと‥厨に‥」
はたから見ると滑稽な光景だがそうも言ってられない
プラスチック製の卵が黒く変色し、勝手に揺れる
「手始めに我が軍団の軍団長よ我が前に現れよ」
どこのRPGだよと思いつつ唖然とみているとプラスチックのはずの卵にヒビが入る
「これってまずいんじゃ」
潮来君を見れば数珠を握りめて目を閉じている
「この役立たず!気絶している場合?」
まさか気絶しているとは
とにかくこの状況をどうにかしないと
手頃な武器を探していると
「あ、ここにいたんですね。変な色の卵がありましたので報告に来ました」
いきなり搏田さんが現れて
グシャ
搏田さんに踏まれてた卵が小気味良い音を立て
悪魔が宿った卵が割れた
「えええー?」
「貴様ー!なんて事をしてくれるんだ!」
私も驚いたが悪魔っぽい企画リーダーも叫ぶ

「すみません!床にあるとは気づかずに」
「いえ、まだ沢山あるから大丈夫です」
まあ真っ黒な卵は使えないから壊れても惜しくはない
「このバカ娘が!我が地獄の軍団長があっさりと!どんだけ巨漢なのだ!」
「あの、本当にすみません」
搏田さんは悪くないのに申し訳なさそうにしていて、しかも自分の体重まで白状しようとする
「いえ普通に搏田さんは悪くないです。リーダーはお疲れみたいです」
何とか言い繕うと
「ホニャラララ!(外国語のようなもの)」
いきなり起き上がった潮来君が何やら呪文のようなものを唱え始めた
「え?え?またおかしなカビが?」
「いえ、今度の子供博物館の時に発表する劇の練習です」
「ぐわ!貴様アモルト神父か!」
「穢れた悪魔よ!ここはお前の世界ではない闇の地底に戻るが良い!」
中学生男子のようのな恥ずかしいセリフの2人に呆然としている搏田さん
そうこうしているうちにリーダーが倒れ
「救急車を呼んだ。そのまま寝かせてやれ」
一番落ち着いた先輩が救急車を呼んでくれた
「潮来さんもですか?」
同じく倒れた潮来君を心配する搏田さんに心が痛んだ
搏田さんに心配される潮来君とリーダーに嫉妬までするとは我ながら心が狭い
「源さんも具合が悪いんですか?」
心配してくれる搏田さんの顔が近づく
「だだだ大丈夫です!気にしないでください。疲れが出ただけです」
慌てて顔を離す
「あ、すみません。でも体調には気をつけてくださいね。この間みたいにおかしなカビみたいなのが出ているかもしれませんから」
搏田さん優しい
先輩と巡回に戻る搏田さんを見送ると先輩の背中に黒い卵がくっついているように見えた
もう一度見直すと先輩の背中にくっついていた黒い卵は消えていた
「本当に疲れが出てるな」
幻覚まで見えるほど疲れているなんて
明日は休もう
そうも思って帰宅した

その後悪魔に憑かれた先輩が暴れ回り、搏田さんの大外刈りが炸裂したのは別の話

いつものことだけれど
搏田さんやめないで


終わり

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