彼岸の宴

会社からの帰り道にある空き地

雑草が生えたそこは長い事何の建物も建ってない

だが今日は何かが違った

何故か空き地の中央部が赤く光っている

人工的な赤い光から何か音楽のようなものが聞こえ、楽しそうな雰囲気だ

誰かがスマホでも落としたのだろうか?

赤い光に向かう

赤い光は季節外れの彼岸花だった

赤い光を放つ彼岸花形をした電灯の下は10センチ位の骸骨達が座っていた

円座を組み、中央には大きな座布団

と言っても普通サイズの人間が座る座布団

艶のある布地は座布団に詳しくない私でも高級品だとわかる

中の綿もぎっしりと詰め込まれ、極上の座り心地を約束してくれるだろう

その座布団に座りたい衝動に駆られるも、座ってはいけない感覚に陥った

そのまま草むらにしゃがみこみ、骸骨達の様子を伺う

何を喋っているのかは分からないが、楽しそうだ

小さな弁当箱にはご馳走らしきもの

飲み物もミニチュアの瓶ビールから一升瓶

ジュースの瓶やペットボトルもあって

ミニチュアの紙コップに注がれたそれを美味しそうに呑む

まるで宴会のような雰囲気だ

そのうち音楽がやみ、彼岸花のライトが違う方向に光を向ける

彼岸花のライトが照らす先には等身大の骸骨

その骸骨は同じく等身大のしゃれこうべを持ちながら歩く

カタカタと乾いた音が微かに聞こえる

ミニチュア骸骨達の動きから拍手だ

どうやら今夜の主役らしい

しゃれこうべは中央に敷いてあった高級な座布団に乗せられ

骸骨は少し離れた所に座る

しゃれこうべは口を開け、カタカタと鳴らした後

喋り出した

演目は実話怪談

時に大人の男女、時に幼い子供達、時に老人

その声は七色のように変わり、私も座り込み夢中になった

一話目が終わると私はミニチュア骸骨達と共に強い拍手でしゃれこうべを絶賛した

しかしそれが良くなかった

ミニチュア骸骨達の空洞の瞳部分がこちらを見ている

ましてやあの等身大の骸骨もしゃれこうべも

眼球がなくてもわかる程に視線が私に向いている

すぐにでも逃げたかったが座り込んでしまったのでうまく立てない

このままだと呪い殺される

尻をずらしながら逃げようとしたが、骸骨達はしばらく私を見た後またしゃれこうべに向き直った

等身大の骸骨が近付き、人差し指を自分の口元に押し当てる

どうやら静かにと言うジェスチャーだ

その後拍手をし、大きく丸のジェスチャーを見せる

つまりはしゃれこうべの語っている間は静かにして、語った後の拍手はOKと言うことらしい

等身大の骸骨が定位置に着いたところで話は再開された

聞いたことのない恐ろしい話

思わずクスッとなる笑い話

ハンカチが湿る程の泣ける話

どれもこれも全部面白い

全てが怪談だが

時間も忘れしゃれこうべの宴を楽しんだ



しゃれこうべの話が終わり、盛大な拍手と共に等身大の骸骨がしゃれこうべを運んでいく

ミニチュア骸骨達も荷物を片付け帰っていく

さて、私も帰ろう

凝った体を伸ばす

ガリガリと何か硬いものが擦れる音がする

ふと自分の腕が目に入る

肉が綺麗に削ぎ落とされた真っ白な骨

慌てて下を向けば全身が骸骨になっていた

声を出そうにもカタカタヒューヒューと言う乾いた音しか出ない

辺りを見渡すも民家も青々と雑草が繁っていた空き地もなく

枯れ草や枯れ木が点在する荒れ地だ

誰かに答えを求めたくても誰もいない

空腹も眠気もない

喉も乾かない

ただそこで時間を過ごす骸骨になってしまった

あの宴は聞いてはいけないものだったのだ

浦島太郎のように僅かな時間が現実では恐ろしく長い時間だったのだろう

誰とも会えず、ただ1人座って過ごしていると

地響きが起きた

怪獣でも歩いているのか?と思うようなズシンズシンと規則正しい音が響き、巨人のような骸骨が現れた

いや、この骸骨が標準サイズだと回りの風景で気づいた

私はいつの間にかミニチュアサイズになっていた

巨大な骸骨は指先で摘まんだ紙切れを差し出す

紙はチラシだった

怪談の宴と書かれたチラシには彼岸花イラスト

チラシ渡した骸骨はそのままどこかへ行く

日にちは今日から49日後

場所は例の空き地

移動手段は骸骨が迎えに来る

またあの宴があるのだ

皆で楽しむ怪談と、私のようにうっかり参加して白骨化する仲間が増えるのだ


動かない顔の骨が笑いに歪む




ああ、楽しみだ


彼岸の宴




終わり




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