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祖母の姉が60年営んでいるスナックで働いている
彼女が今の私と同い年の時から興している 黒猫 という客層の良い店だ

60年もやっているので勿論沢山の人が出入りしている、それは今も変わらずで、私もそのうちの一人である


黒猫 を出て行ったうちのひとりに私の祖母がいる 私の祖母は小学生の時には既にアルツハイマー型の認知症であり、60代前半に祖母の父よりも先に旅立った 


初めて人の死に直面した私は ココアがのめなくなるのはさみしいね~ といつものように呑気に振る舞ったが、父は怒ることも笑うこともせず、ただただその事実と自身の距離を近づけようとしていた

私の祖母が好きで今の店に来てくれた人もいる 
県を跨いで来てくれるその人は、私をみるなり 

○○ちゃん(私の祖母の名前)がみたら喜ぶだろうねぇ と私をみるなり呟く 
たしかに祖母の姉や父も祖母のことをとても尊敬していた、身内以外の人が言うと急に信憑性が増してくる

まるで私の知らない部分の私を皆が知っているようで、でもそこに答えはなく私の中の祖母はまだ幻の中で光を帯びながらゆれている

ねえおばあちゃん?おばあちゃん、なんて呼んだこと多分ないけれど、おばあちゃんって呼んでもいいかな?

男勝りで根性のある人だと聞きました
女手一つで三人の息子を育て、多くの人を大きな愛で包み込むような人だと

でも愛嬌があって人を振り回すような人だと聞きました
沢山の人に愛を与えるあなたは勘違いされることも多かったようです

あなたにお世話になったから という理由で無条件に優しくしてくれる人が沢山、本当に沢山います 

意地っ張りで頑固な祖父も、心の底ではそのように思って五年前に初めて会った私達に愛を注いでいるのではないか?と思っています

 彼のことだから、その事実を認めるまでに相当な時間を要したのでしょう どうか許してあげてください 私が言うのはおかしな話ですしとっくにあなただったら許してそうです、でも現在、親族の中でいちばん祖父と交流の深い私から敢えて伝えたいと思います

毎日欠かさず、家を出る10分前に起きていてもあなたの前に置いている水は忘れずに替えて家を出て、月に一度はあなたのお墓へ出向いている父も元気にしています 
私が言うのも何ですが本当に丸くなって高校生のときにヤクルト一本殴り合いの喧嘩をしていたのが嘘のようです 私が家を旅立つ日が近いせいか毎週黒猫まで迎えに来てくれます 

元々黒猫で働くことを提案したのは父なので、もしかしたら祖父同様に素直でない父は自分から黒猫へ出向くことに抵抗があったのかもしれません 
あなたがあまりにも早く亡くなったせいか、かなりあなたの姉の体調を心配し毎週どんな様子だったか尋ねてきます


あなたが亡くなって骨になった 私は父が涙を流しているのをあの日以来みていません それを見た私は幼いながらにどれだけ父があなたのことを好きでいたか理解することができました 

父は何時かの法事の時に、「僕も早いもので50歳になりました‥ この年になって、自分の母が同じ年だった時よりも僕は頑張れているのかな?とふと考えてしまいます」と不器用ながらに語っていました
1日30万もお惣菜を昼の時間に売り上げた事もよく話しています


あなたの姉の料理が美味しくて、私は営業中に もぐもぐタイム という都合のいい名前をつけてそれらを頬張っていますが、あなたの姉はよく「あなたのおばあちゃんは本当に料理上手だったのよ」と言います 


正月になるとあなたの姉は黒猫で毎年お雑煮をつくります 私の父はそれを食べる度に「なつかしいな~ これだよ これ」と一週間ぐらい毎日その話をするので私の母は若干不機嫌になります 来年もまた一週間程不穏になるでしょう 勿論母の料理もすごく美味しい 母曰く凄く練習した らしいのですが 私もたべてみたかったな

あなたの父は、わたしのひいおじいさんで
私はとても可愛がってくれていたのを憶えています あなたが亡くなってから娘に先に旅立たれたことを悲しいと言いながら缶のピースのタバコを吸っていたのが印象的です あなたを追うように100歳になる数日前に息を引き取りました

こんなにあなたのことについて知っているのは、感謝している人やあなたのことを人として好きだった人の心の中に未だにあなたが生きているからではないかな?と思っています


ただ、一つでも自分の中に私が自分で見たあなたとの思い出があればよかったなぁなんて、実際には思っていますが
 皆から聞くあなたの断片をつなぎ合わせて、私も私の心の中にあなたを宿しています、そしてゆくゆくはあなたのような人になれるように


まだまだ先ではありますが、いつかお逢いしたら、このはなしの続きはします。たまにはお墓にも顔を出しますね。そしてあなたと私があう頃には、今私の心の中に宿っているあなたもきっと本当になるでしょう どうかこれからも安らかに

 

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