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同時通訳が無理ゲーになる時3選

通訳を10年していると、いろんな場面に遭遇します。たとえ同じ会社のお仕事だったとしても、一度通訳できたからと言って次もうまくいくなんていう保証はどこにもありません。

このことを特に痛感させられたのが、この1週間です。なんと二日連続で通訳不能に陥ってしまい、かなりの間沈黙してしまうという、同時通訳者としてはやってはいけないことをしてしまいました。

こういうことは書かない方が自分の為だとは思うのですが、通訳という職業をよりよく理解してもらう為にも、どういう条件下で通訳不能に陥るのか、文字に残しておきたいと思います。

同時通訳が無理ゲーになる時1:英語の訛りがキツい

まずは英語の訛りというハードルです。今週の通訳不能は2件とも、英語の訛りがあまりにもキツくて(もしくは馴染みなくて)沈黙してしまったケースです。

英語は世界中で話されていますから、各国で英語を勉強するとどうしても母語の習慣が英語学習に影響してしまいます。これを母語干渉と言います。母語干渉は文法のレベルでも発生しますし、発音でも起こります。

例えば中国人の英語は動詞の時制が無いことはよく知られています。これは中国語には動詞で時制を変えるという機能がない為です。では何で変えるかというと、「昨日」とか「明日」とか副詞を用いて表現するそうです。その証拠に先日の会議通訳でも中国系の人が I have a meeting yesterday. と発言していました。

中国語の発音では子音が重なるとき、発音をしない音があります。例えば先述の中国人の場合、actually (アクチュアリー)の発音がアチャリー(クチュと連続できない?)のように聞こえました。

このような英語の訛りを知っていれば問題ないのでしょうが、初めて聞くような訛りですと同時通訳は相当苦しくなります。ちなみに先日通訳不能に陥った時の発言者はイギリスのスカウス訛りとタイ人の英語訛りでした。

特にタイの英語訛りは馴染みなかったのもありますが、会議後にパートナー通訳者と「あれは無理ですよ」と慰めて(?)いただきました。検索してみると早速ありました、タイ英語に苦しんでいる様子がよくわかるブログが!うん、一人じゃない。そう言い聞かせております。

同時通訳が無理ゲーになる時2:音質がキツい

次は音質です。コロナ禍で遠隔同時通訳(RSI)がかなり浸透してきたこともあり、同時通訳者の悩みは音質!と言っても良いほど、どんな会社のお仕事をしても、毎回参加者の誰かの音質がキツい状態です。

例外は京都の一流企業で、参加者全員に同じヘッドセットを付けさせるという徹底ぶりです。同時通訳者としてはこれほど有難いことはないと毎度のように感謝しております。

今では遠隔同時通訳をする前に音のテストをすることは日常茶飯事になりました。まず通訳者の音声はちゃんと聞こえるか、音量は大丈夫かどうか。これは基本的ですが、自分の同時通訳がYouTubeにアップされることも多い現代において、とても大切なことです。

音質がキツいとき、周りの騒音があったり、発言者以外の参加者がミュートしていなかったり、マイク付きイヤホン無しでパソコンにそのまま話していたり、という場合が大半です。一度だけ、発言者の音量がなぜか爆音でバッキバキに割れまくっており、参加者全員が飛び上がるほど仰天したこともあります。

参加者自体はそこまで悪い音声だと思われていないことも時にあり、「マイク付きイヤホンで話してください」とお願いしても「これで大丈夫でしょ?」という返事が返ってくることも。そういう時私は「皆さんの想いを世界中に伝えるために、どうかご協力いただけないでしょうか」と食い下がる時もありますが、毎回言えるようなことではありません。これも同時通訳者の悩みです。

同時通訳が無理ゲーになる時3:
資料のどこを話しているか分からない

これも大変です。特に社内会議資料の場合、一枚のスライドにこれでもかというほど文字を詰め込んでいる場合もあります。発言者がポインターでどこを読んでいるのか示してくれている場合はせめてもの救いなのですが、それすらない場合はもうお手上げ感すらあります。

例えばこのスライド。いかがでしょうか?

出所:平成22年度 クール・ジャパン戦略推進事業

通訳の現場ではこれより文字数が多い場合もあります。そしてこれが1ページだけならまだしも、40ページとかだったらどうでしょうか?しかも資料を当日渡されたら?そういう意味では、同時通訳者として私は、世界最速で資料の読込みができる自信(?)があります。

もちろん、文字数が多いから直ちに通訳不能、というわけではないんです。その文字数を持って何を説明したいのかがはっきりしているプレゼンは、むしろ通訳しやすいくらいです。要は発表者次第ですね。

というわけで会議資料でキツいのは、1) 文字が多すぎる、2) 棒読み、3) どこを読んでいるか分からない、というこの3条件が重なった時です。

そしてこのこの3条件にプラスして、先述の英語の訛り+悪音質が重なると五重苦となります。こうなると「一体誰がこのプレゼンを通訳できるんだ?」というレベルに達します。こういう時はパートナー通訳者も凍りついていて、「私の担当じゃなくて良かった・・・」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。少なくとも僕はそう思ったことがあります(陳謝)。

いかがでしょうか。同時通訳者はそれこそポーカーフェイスで訳しているという印象があるかもしれませんが、その裏では「頼む!その音質をなんとかしてくれ!」「頼む!資料のどこを読んでいるのか示してくれ!」と叫んでいるかもしれません。今度同時通訳者が入る会議に参加することがあれば、静かに苦闘している通訳者のことを、「時々でいいから・・・思い出してください」(ファイナル・ファンタジーXのユウナ風)

https://www.youtube.com/watch?v=6dKjQoR-pzI

見出し画像URL:http://slopoo.blog.jp/archives/4478529.html

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