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学習参考書の愉悦 第六回・その1 英単語集のいろいろ

 みなさん、英単語覚えるの、好きですか? 私は嫌いです。

 私の英語学習者としての傾向は「文法オタク」であり、総合英語の分厚い参考書や、『新英文法概説』(2014、山岡洋、開拓社)のような文法書、はたまた『五文型の底力』(2012、佐藤ヒロシ)『名詞表現の底力』(2014、勝見務)などを擁するプレイスの「底力」シリーズのように、ある限られた文法事項について取り上げた本などなど、とにかく、文法についての本を読んでいるときがいちばん楽しいんですよ。
 単語に関しても、たとえば前回取り上げた「コア・イメージ」中心の単語本ですとか、あるいは語源(接頭辞・接尾辞など)を中心に解説してある本なんかはそれなりに楽しく読むんですが、じゃあっつってその単語を実際に覚える努力となると、正直いって苦痛です。そりゃそうでしょう。
 この苦痛は、喩えていうならば「スポーツに無関心な人が日本のプロ野球選手の顔と名前と所属球団を暗記しないと来月から減俸50%だと言われた」「節足動物の名前を聞いただけでも鳥肌が立つ人が、昆虫図鑑に載っている昆虫の姿と名前を憶えないと誘拐された子どもの命はないと脅された」みたいなもんです。
 覚えたくもないものを無理やり覚える作業が、つらくないはずがありません。
 ところが、こと受験ということになると、いや、受験を考えなかったとしても英語を勉強しようと思ったら、ボキャビル(vocabulary building)は避けて通れないのです。東進ハイスクールの講師である今井宏さんは、著書の『今度こそ「英語は、大丈夫。」 高校生のための英語道』(2005、ナガセ)の中で、英単語集を一冊覚えることについて「一生に1回どうしても通過しなければならないイベント」とまで言ってます。

 というわけで、あなたは書店の英単語集コーナーに足を運びます。
 そして、その圧倒的なバリエーションを前にして絶句するのです。

 高校生・大学受験生向けの単語集だけを見ても、いったい何冊出てるんだろうというぐらい多くの種類の単語集が出ています。この中から一冊選べ、なんて言われたところで、候補が多すぎてワケワカンナクなること間違いなしです。
 まあ、実際のところは、多くの高校生は学校単位で一括購入した単語集を一冊持ってはいると思います。んで、他の単語集を見ることなく受験を終える……というパターンも少なくないものだと想像します(というか高校時代の私がそうでした)。
 そこで今回は、英単語集にはざっくりどのようなタイプがあるのかを確認してみたいと思います。

① 単語列挙型

 もっともオーソドックスなタイプです。英単語とそれに対応する日本語の訳語が並べて書いてあるやつですね。
 代表的なものは、おそらく日本で一番売れている単語集である旺文社の「ターゲット」シリーズでしょう(余談ですが、私は「ジャンルで一番売れているもの」が、「ジャンルで一番売れている」という理由で嫌いな天邪鬼なので、ターゲットにはあんまりいいイメージがないです。根拠はないけど)。ほかに、アルクの「ユメタン」「キクタン」、学研の「ランク順」、オー・メソッドの「単語王」など、基本的なスタイルであるがゆえに、出版点数も多いです。
 単語と訳語が並んでいるだけでなく、他の単語と組み合わせたフレーズ(たとえば”play the guitar”のような)や、例文が併せて載っていることもよくありますね。
 だいたいの方が英単語集と聞いてイメージするのは、このタイプなんじゃないでしょうか。地味といえば地味ですが、基本形ではあるので、今後もなくなることはないでしょう。

②フレーズ型

 単語列挙型の単語集では「単語リストがメイン、フレーズがサブ」になっているところを、逆転させて「フレーズがメイン、単語リストはサブ」にしてしまったタイプです。
 このタイプの代表作は、なんといっても駿台文庫の「システム英単語」シリーズでしょう。単語は意味だけ分かっていても使われる形までセットで覚えなければ意味がない、という方針のもと、「ミニマル・フレーズ」と銘打たれたフレーズが前面に押し出された紙面が特徴的です。
 他には、“影の実力者”というポジションで隠れロングセラーとして根強く売れている南雲堂の「英単語ピーナツ」シリーズ、三省堂の「チャンクで英単語」シリーズ、レイアウト的には列挙型であるもののフレーズを重視している桐原書店の『大学入試 コロケーションで覚える英単語』、中学生向けでは文英堂の『高校入試 フレーズで覚える英単語1400』などがあります。

③例文暗記型

 文の中で使われてこその単語ということで、できれば例文まできっちり学習したい。けれど、たとえば1500個の単語を覚えるとして、1500の例文を頭に入れるのは骨だ……それならば、ひとつの例文の中に複数の重要単語を入れてしまえば問題は解決するのではなかろうか、という発想の単語集です。
 代表作は、アイシーピーの『DUO3.0』。難関大志望者を中心に、強い人気があります。DUOでは、560個の例文の中に、重要単語1572個+熟語997個が詰まっているという「欲張り」具合。この「効率のよさ」も、人気の秘訣でしょう。
 DUO以外に目立った本を探すのが難しいタイプなんですが、中学生向けのものでは、文英堂の『高校入試 短文で覚える英単語1900』、学研の『例文で覚える中学英単語・熟語1800』。それから駿台文庫の『中学版システム英単語』は、高校生向けの本と違って例文型になっています。
 あと、Z会から『英単語WIZ』という本が出ているんですが、これは例文4つがひと固まりで短いストーリーになっているというちょっと類書が思い当たらない独特な構成。これは後述する長文型と例文型の間ぐらいの位置づけになるでしょうか。
 とにかく効率がいいのが第一のアピールポイントになってくる形式ですが、反面、「例文が理解できるだけの文法知識」が必要になってくるので、「単語さえわかれば文構造を正確にとらえることができる」レベルに達していないと手が出しにくいタイプではあります。

④長文型

 Z会の「速読英単語」シリーズが代表。
 このタイプの単語集をもっとも特徴付ける言葉は「文脈主義」ということになるでしょう。英単語はそれ単体で学習しても効果は薄く、実際の文章の中で、文章全体の話題や前後の内容と結びつけながら学習することによって定着度が上がるのだ、とする考え方です。実際、外国語学習について研究する学問分野である第二言語習得論の中でも、語彙の習得において文脈の有用性が指摘されています。
 速単以外にも、Z会が一般学習者向けに出している「速読速聴・英単語」シリーズ、桐原書店の「読んで覚える英単語」シリーズなどがあります。また、列挙型の「ターゲット」シリーズの派生商品として、「ターゲット」シリーズの見出し語が文章の中で学習できる「ターゲットR」シリーズも発売されています。同じく「キクタン」の派生商品である「キクタンリーディング」。速単は人気の単語集ですから、旺文社やアルクにしてみれば「同じ形式をこっちでも出すから買ってほしい」というところでしょう。いやはや、商魂たくましいというか、なんというか。
 文脈主義の単語学習は、たしかに定着度が高く、また、文章を読みながらの学習なので、「英語好き」な学習者にとってはもっとも退屈しにくい、長続きする学習法なのかもしれません。反面、英語が苦手・キライな学習者にとっては、単語だけでもイヤなのに、長文も読むとか重たすぎぃ……ってなっちゃう面もありますね。むずかしいところです。

⑤単熟語ワンパック型

 単語のリストだけでなく、熟語もセットで載せているタイプですね。桐原書店の「データベース」シリーズが代表的でしょうか。他に、数研出版の「VITAL」シリーズや、いいずな書店の「EG」シリーズがこのタイプです。
 1語1語の単語だけではなくて熟語・連語の表現も覚えていかなきゃいけないわけですけど、基本的な熟語がセットで入っている点でお得感がありますね。まあ、収録語数は『データベース4500』で英単語約1,730と英熟語約350、『VITAL4500』で単語1441と熟語336(いずれも出版社のサイトにあるデータ)となっており、英熟語集の多くは1000語程度の収録ですから、別に熟語集にも取り組む必要は出てくるわけですが……。

 よくある形式はこんな感じでしょうか。
 他には語呂合わせ式の単語帳もあるんですが、私は語呂合わせで単語の意味を覚えるのは嫌いなんで、紹介しません。語呂合わせって、歴史年代とかの「それ自体に意味のない記号」に意味を持たせることによって覚えやすくするための方法だと思うんですが、それ自体すでに意味を持っている英単語で語呂合わせという学習方略を使う意味がわかりません。かえって混乱のもとになるし、非効率的だと思うのですが、どうでしょう。

 ……ところで、英単語集の特徴はここで挙げたような形式だけではありません。他にもさまざまな角度から眺めてみることが可能です。
 次回はさらなる「単語集を見るポイント」を紹介してみようと思います。

筆者紹介
.原井 (Twitter: @Ebisu_PaPa58)
平成元年生まれ。21世紀生まれの生徒たちの生年月日にちょくちょくびびる塾講師。週末はだいたい本屋の学参コーナーに行く。ビールと焼酎があればだいたい幸せ。

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