乙女ゲーマーによる『種の起源』のススメ

『種の起源』が登場する乙女ゲーム

 私は今年、乙女ゲーム(女性向け恋愛ゲーム)がきっかけでダーウィンの『種の起源』を読了しました。
 乙女ゲームがきっかけってどういうこと? って反応をクーチェキの編集長(Ryota)にされました。読者の大半もそういう反応なんじゃないかと思います。
 まずは、そのきっかけとなった乙女ゲー『蝶々事件 ラブソディック』からご紹介していきたいと思います!

 上記に貼りつけたのは、OPムービー。
 見ていただいた方は、怪奇物っぽさを感じ取ってくれたかと思います。

 時は昭和五年、場所は横濱——。
 ある夜、女学生の惨殺死体が発見された。
 化物に襲われたかのような凄惨さに、
 異国情緒溢れる街がざわめき始めた頃、
 ヒロインは、横濱の女学校へと転入してくる。
 この横濱で、起こる怪奇事件に、
 深く関わることになるとも知らないまま……。

 みたいな話です。
 興味が出てきた方は公式サイトをチェックしてみてください。

 個人的には、メインヒーロー(CV.村瀬歩)が、女装して女学校でマドンナやってるのが最高なので、その演技を全力で聞いてほしい!
 女性、中性、男性の声を使い分けてる村瀬歩の演技力すごいし、遙様(=メインヒーロー)はいいぞ。

 このプレイムービーで、私の推しである遙様の良さを感じてほしい! このシーン、女学校のよい百合って感じだから。モブの一人として「遙様ーーー!! キャーーー!」ってしていたい……。
「でも男なんでしょ?」って思う人もいるでしょう。私も男だってわかったときは絶望しました。乙女ゲーでメイン攻略キャラがそりゃあ女性なはずはないのに、百合を期待してしまった……!!(※稀にあります。文末参照)
 ただプレイした感想としては、「遙様の性別なんてどうでもいい。性別は遙様」って感じで気にならなくなるのでよろしくお願いします。

 ちなみにコミックもあるよ。ゲームよりヒロインが勇ましいのがポイントです。こちらからどうぞ。

 そして、肝心の『種の起源』が登場するのは、「女学生の惨殺死体」にまつわる場面です。
 女学生を襲った化け物について、知識豊富なキャラ(CV.浪川大輔)が考察してくれるのですが、そこで『種の起源』の話が出てくるんです。

 この化け物は、人から進化したものかもしれない。
『種の起源』に書かれている話によると…………。

 って感じで。
 古今東西のフィクションで化け物は存在しますが、その説明に『種の起源』を用いて、遺伝子の話をしてくる! 現実の書籍を取り上げて、フィクションを語っていることがすっごく面白くないですか!?

 他にも、「伴性劣性遺伝」「優生学」「生来性犯罪者説」なんて単語やファーブルの『昆虫記』、チャイコフスキーの『ドゥムカ ロシアの農村風景』なんてものまで登場します。
 実際に存在する科学知識や文化を取り上げて話が進むのはめちゃくちゃ面白かったです……! テンションが! 上がる!
 
 何より『種の起源』はちらっと話題に出るってだけじゃなく、化け物について考察する上での根拠にあたりますからね。生物学を引っ張ってきて化け物の解説する乙女ゲーとかめちゃくちゃ珍しいんじゃないでしょうか……!! 乙女ゲーじゃなくてもあんまりないよね!!!!
  
 ……ということで、「めっちゃヤバイ!!!!」って思った勢いに任せて、『種の起源』を買ってしまったというわけです。

 光文社古典新訳文庫という名の通り新訳を出しているレーベルからの、比較的最近(2009年出版)の訳なので読みやすかったです。ありがたや、ありがたや。
 ただ、いくら読みやすいといっても、私自身はかなりの文系人間。生物の勉強は高校までしかやっておらず、大学では日本文学を専攻していました。子どもの頃にNHK の「ダーウィンが来た!」が好きで見ていた時期もありましたが、もちろんそこで得た知識も大して覚えていません。
 そんな一介の乙女ゲーマーが読んで面白いものなのか? 結論から言いましょう。めちゃくちゃ面白かったです。
「そもそも、『種の起源』ってどんな本よ?」みたいな方も多いと思うので、簡単に要点とオススメポイントを紹介していこうと思います。

ダーウィンの説明がめっちゃ丁寧

 本の内容を説明する前に、ダーウィンの文章の丁寧さについて触れておきたいと思います。
 『種の起源』でダーウィンは、実験して結果を語ることと、反論を想定して反証をすることをめちゃくちゃきっちり行なっています。「そんなにいちいち書く必要ある?」って思ってしまうくらい。でもダーウィンには、きっちり丁寧に書かなければいけない理由がありました。

 ダーウィンが提唱した進化論は、今や一般的によく知られている理論です。そこまで詳しくない人でも、「生き物はどんどん進化を繰り返していて、魚から蛙になったり、恐竜から鳥になったり、四本足から二本足になったりしている、っていうあれでしょ?」と、ざっくり説明できるでしょう。しかし、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を書いた1859年当時はそうではありませんでした。
 当時のヨーロッパではキリスト教の影響が強く、種は神によってそれぞれ個別に創造されたものだと思われていました。さらに、他の生物と比べて人間は特別であるという考え方も根強いものでした。
 そんな中で、進化という新しい説を提唱する。かなり辛い状況だったと思います。しかもダーウィンは『種の起源』を、一般人向けの書物として発表しました。当時、学者にも進化論なんて考え方は浸透していないんです。況んや、一般人をや……。
 だからこそ、ダーウィンは自身が進化論に行き着くまでの思考の過程をすごく丁寧に語っていきます。更には自身がその時驚いたことなど感情的な記述も入れることで、自分の提唱する理屈を受け入れてもらいやすいように全力を懸けています。
 その姿勢は、想定した反論に対して意見を述べているときも同様です。わからないことはわからないとはっきり告げながらも、考えられる範囲でこうだと思うと、言える限りのことを書き尽くしています。
 学生時代に「論文は反論を想定して書くことが大事だ」ということを習いましたが、それをここまで完璧に実践している文章を初めて読ました。世間の固定観念を変えるには、ただ自説を押しつけるのではいけないと、ダーウィン自身も考えていたのではないでしょうか。そういう意味でも一読の価値がある書物です。

変異から進化へ

 『種の起源』は、ダーウィンが進化論という説に至るまでの考察を記した本です。進化論は考え抜いた末の最終的な到達点なのもあって、本文中に進化という言葉はほぼ出てきません。代わりに頻出するのが「変異」という単語です。『種の起源』を読み解くキーワードはこれに尽きます。

 変異とは何か。同種における個体間の形質の相異のことです。
 たとえば、私は人間という種に属する一個体ですが、背が170cm以上あります。女性の平均身長はもっと低いですから、私は人間の女性の中ではちょっと珍しい個体になります。
 このような、ちょっと平均やら、よくある感じから形質が外れることを、変異だと考えてもらうとわかりやすいかなと思います。
(素人のふわっと解説なので、ざっくりとしたニュアンスとして捉えていただけると助かります)
 進化はこの、変異が積み重なって起こるものです。
 
 ちなみに私は、「ポケットモンスターダイヤモンド」をめちゃくちゃ楽しんだ人間の一個体です。レベルアップして進化するときに、無駄にAボタンを連打してたタイプです。
 ゲームではレベルアップした瞬間、急にポケモンが進化しますよね。ああいうのと、現実の進化は全く違います。
 現実の場合、進化はもっと世代交代をしながら長い期間をかけて進行していくものです。猿が急にレベルアップして、「明日から人間です」とか言われたらビビりますよね。そんなことはないわけです。

環境に適応しているやつが生き残る

 じゃあ、実際の進化はどうやって起きていくのか。
 キツツキを例にとってみましょう。キツツキの祖先の中で、変異によってくちばしの形が異なるものが生まれたとします。ちょっとくちばしの長いやつや、ちょっと短いやつなど、この時点ではあくまで個体差=小さな誤差にすぎません。
 くちばしが長いやつは、コンコンつついて樹皮の下にいる虫を捕まえるのが少し楽でした。そのため、普通のやつより多くの栄養を摂ることができます。
 逆にくちばしが短いやつは、虫を捕まえるのが少し大変でした。そのため、普通のやつよりなかなか栄養を摂ることができません。
 こうなると、くちばしが短いやつは生き残りづらくなり、長いやつが生き残りやすくなるのは想像に難くないと思います。短いやつの中では子を作る前に亡くなってしまう個体も増えるでしょう。長いやつは栄養を豊富に摂取しているので、むしろ普通のやつより多く子を授かるかもしれません。
 すると、親の特徴が遺伝したことにより、次の世代ではくちばしが長いやつの割合が増えていきます。
 代わりにくちばしの短い親の数は少ないので、産まれる子も少なくなります。
 そして、コンコンやって樹皮の下にいる虫を捕まえるのは依然としてくちばしが長いやつの方が楽です。そうすると子世代もくちばしの長いやつが生き残りやすくなります。そうして今度は孫の世代が産まれて……と。
 これが何世代も繰り返されることによって、くちばしの長いキツツキという種が誕生するのです。
 最初はなんでもなかった違いが、いずれは種としての違いにまで発展していくのが、進化という仕組みです。

 これは単に強いものが生き残るという、いわゆる弱肉強食とは違います。
 もし、くちばしが長いこと=強いことであったなら、その辺にたくさんいる鳩や烏や雀はもっとくちばしが長いはずです。
 キツツキのくちばしが長いのは、樹皮の下の虫を捕まえるのに適していたからそうなっただけ。
 都会の烏に、そんな能力はいりません。それよりは、ゴミ袋を覆っている網とかを破りやすいような形のくちばしを持っていた方が何倍も役に立つでしょう。
 どんなくちばしが適しているかは、環境によって異なります。どんな土地であるか、どんな気候であるかは勿論のこと、ライバルにどんな生物がいるか、どんな餌があるか、色んなことが影響し合った上で状況に適応している者が生き残る。それが、適者生存という自然界の仕組みなのです。

 ちなみに、この変異を積み重ねていくという行為は自然界だけでなく、人間の手によっても行われています。
 え? と思うかもしれませんが、答えは簡単。
 品種改良です。

 例えば、苺。品種改良によって白い苺や、めちゃくちゃ大きな苺を作り出したという話を、聞いたことがあるかなと思います。
 より甘い苺を栽培するために、特に甘かった個体の子どもを繁殖させ、その中からさらに甘い苺を育てていき……。それを繰り返すことによって、農園を甘い苺でいっぱいにし、それを品種として名前をつけて売り出す。
 めちゃくちゃざっくりした説明ですが(本業の農家の方や関係各所の方、寛大な心で見逃してください!)変異の積み重ねを利用することで、人間は自分たちにとって適した植物を選抜して育てているのです。

『種の起源』はいいぞ。

 ざっとした説明でしたが、進化とは変異の積み重ねによって起こるものだと理解していただけたかなと思います。

 最初はわずかな違いです。
 でも、環境に適応したものが生き残っていく中でその違いが積み重ねられ、変種(≒品種)となり、最終的に全く異なる種になる。それが進化です。
 例えば、ペンギンは空を飛べませんが、水中で泳ぐのは得意です。氷に覆われた大地では、空を飛んで獲物を探すより、水中で獲物を探す方が生き残りやすかったという証左でしょう。
私はこの文章の中で「猿が急にレベルアップして、『明日から人間です』とか言われたら〜」という例え話をしましたが、「猿が人間になった」という表現も正確ではありません。これもまた同じ祖先から、人間やオランウータンなどに枝分かれしていったわけです。
 祖先は同じであったとしても、環境に応じて枝分かれし、多様性が生まれていくのです。

 『種の起源』が書かれた当時、遺伝子の存在も知られていません。神が生き物をそれぞれ創造したと言われている時代です。
 そんな中で、全ての種の祖先が一つだなんて考えに到達するのはすごいと思います。鳥も人間も魚も植物も元は同じなんて、見た目では想像もつかないですよ!
 ダーウィンはその驚くべき理屈を、一般大衆にも伝わるように根気よく書き表しました。凄まじいことだなと心から思います。
 ダーウィンがこの本に込めた熱意を感じながら、ぜひぜひ読んでみてほしいです!

 それにしても、名作古典はやっぱり面白いですよね! その面白さは歴史が証明してるので、みんなどんどん読もうぜ〜!!

 そして、ついでに乙女ゲームも楽しんでほしい〜!!
 最近ニンテンドースイッチでも発売され始めてるから、よろしくね!!
 メイン攻略が女性で、百合が楽しめる乙女ゲー「私立ベルばら学園 ~ベルサイユのばらRe*imagination~」も来年発売するよ!
 本当に、乙女ゲーも生物学もどっちもサイコーだから、気が向いたら触れてみてください!!

 最後までお読み下さりありがとうございました!
 『種の起源』の魅力が少しでも伝わっていれば、嬉しいです。
 それでは、また!

筆者紹介
朝胡(あさひさ Twitter:@asahisa22)
乙女ゲームと日本文学を愛する高身長の女。
オトメイトをメインに45本以上の乙女ゲームをクリア済み。
『種の起源』読了後に、メンデルの『雑種植物の研究』も読了。

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