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1:9 【前編】

先週。体育の時間のこと。

私は支援学級の児童Bの入り込みとして、一緒に授業に参加していた。

Bとは昨年度から関わりがあり、少しずつだが自分(入り込みの先生)がいなくても一人で授業に参加できる場面を何度も見られるようになり、Bの成長をそばで感じていた。

今日の体育もこれまで何度も走ってきたコースを走る持久走だった。並走はするが、最後まで自分の力で走り切ることができる。周りの友達とは周回遅れになるが、怒ったり、走ることを投げ出したりしなくなった。以前であれば暴言を吐いて、つばも吐いて、時には殴りにいくこともあったが、「自分は頑張った。友達も頑張っている」というように、自分と他人とのちがいを少しずつ受け止めているかのように振る舞うことができている。

Bのグループの持久走が終わり、次のグループが走り出した。そこには児童Aがいる。

スタート直前、Aの担任から給食時間中にBとケンカをしてお互いにまだ納得いっていない状況なんですと告げられる。

そんなことを知らなかった私は、「よく見ておきます」と返事した。この時の私は何を「見ておく」つもりだったのだろう・・・。

Aはイライラしている感じは見られなかったが、スタートと同時に「走り切ってやる!」というやる気に満ち溢れていたのは伝わってきた。昨年度Aの担任をしていた私は、そんな頑張るA の姿がやっぱり嬉しかった。

私の側にいたBも走り終えた達成感と、目の前を走るAを含めたみんなの頑張りが嬉しかったのか、ニコニコしながらトラックを見つめていた。

もっと側で見たくなったのか、トラックに近づいていったB。目の前を走りすぎた児童を確認してからトラックを横切り、反対側へ渡ってしまった。一生懸命頑張っている児童と接触するかもしれないと思った私は、「ぶつかるかもしれないから、それはしないほうがいい」と伝え、元の場所に戻させた。素直に受け入れ側に来てくれたのだが、しばらくしてまた立ち上がり声を出しながらトラックを横切ろうとした。

その横切ったトラックにはAが走っていたのだ。Aの前を横切ったB。Aにしてみたら自分が走るコースの前にBが来たのだ。もちろんBはわざとAの前を横切ろうとしたわけではないし、邪魔をしてやろうとしたのではない。だからぶつかってしまうような急接近ではなかった。しかし、Aの前をBが横切ったのは事実。

そして事件が起こった。

Aが横切ったBに駆け寄り、胸ぐらを片手で掴み二、三度振った。

あと少しでBを殴ろうとしたところを、「それはアカン!」と声をあげて私は二人の元に駆け寄った。

胸ぐらを掴みながら睨むAの目からは大きな涙が流れていた。

胸ぐらを掴まれたBも怯えと怒りから目を真っ赤にしながら、手を振り払い、唾を吐き、大声をあげてその場から去った。

私はBを追いかけ、Aは担任に任せることにした。

支援学級の教室に入り大暴れするB。もう止まらない。怒りをいろんなものにぶつけ、私に暴言を浴びせ、そして自分自身を攻める。「死ね。殺す。」の連呼。

落ち着くまで一人にすることにした。

その間に気になったAの様子を見に、運動場へ戻った。

担任と二人で話す様子を遠くから見ていた、私。うつむいて話すAの姿から泣きながら話をしていたんだと思う。もう体育に参加できる状態ではないと判断した担任は場所を移動して話をすることにしてその場から離れた。

私の行動はあれで良かったのだろうか。

そう自分に問いかけていた。正しいとか間違っているとか答えを求めているわけではないけれど、AにとってもBにとっても自分の行動に自信がもてていなかったんだと思う。

Bの様子を見にいくと、支援級の教室で何やら作り物をしていた。そっと見てみるとクリップを折り曲げ、鉛筆に取り付け武器のようなものを作っている。

B「これでAを倒す!何見てんだお前!」

私「そんな武器作って倒せる?」

B「そっと近づいて、刺すんだ」

私「そんなことしたら、またAが怒ってくるんちゃう?」

B「怒れないくらい、何度も刺すんだ。黙れ!」

私「・・・。」

B「文句あんのか?」

私「・・・悲しいわ。」

B「そんなのはお前に関係ねーだろ。」

私「・・・。」

B「何黙ってんだ!」

私「・・・。」

B「やめて欲しいのか?」

私「・・・。」

B「嫌なのか?」

ただBを見つめ、そんなことをするのは間違っているし、そんなことをするのは悲しいという思いを込めて、ただ見つめることしかできなかった。

しばらく沈黙が続き、Bも落ち着き始め、散らかったおもちゃや本を手に取り遊び始めた。

まだAのことに触れると感情がぶり返してしまうと思った私は、ただじっと見つめることしかできなかった。

どうすればよかったのか。自分の行動は正しかったのか。

なんとも言えないモヤモヤ感を抱きながら、Aのことが気になって仕方なかった。





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