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ユベントス NFTの商標侵害事件で勝利

イタリアのサッカーチーム「ユベントスFC」にかつて所属した元サッカー選手クリスチャン・ヴィエリの画像を表示する多数のNFT商品(デジタルトランプ等)の作成者に対し、イタリア・ローマの裁判所は仮差止命令を認めました。この決定は、許可なく第三者の商標を複製したNFTが商標権侵害を構成すると公に判断した世界最初の決定になると思われます。
決定原文:
https://files.lbr.cloud/public/2022-11/Rome%20Court%20NFTs.pdf?VersionId=3UtAi8ECltUz_HsyijNHUNJi0mMqJM.n
 
2021年、ブロックチェーンネットワークBlockerasは、ユベントスのシャツを着たヴィエリを含む過去と現在の選手を描いたデジタルトランプNFTを販売する「コイン・オブ・チャンピオン」プロジェクトを開始しました。裁判所によれば、ヴィエリのカードは529枚販売され、そのうち68枚がBlockerasに約35,800ドル(日本円で約500万円)の収益をもたらしました。ヴィエリは、2024年まで彼の画像を使用する許可をBlockerasに与えていましたが、ユベントスは「JUVE」および「JUVENTUS」の文字商標並びに胸に2つの星が付いた黒と白のストライプのシャツで構成される商標についての使用許可を与えていませんでした。そのため、ユベントスは、商標権侵害と不正競争を理由に仮差止命令を申請しました。
 
Blockerasは、ユベントスの各商標は、ダウンロード可能な仮想商品について登録されていないと反論しましたが、裁判所は「ユベントスの登録(特に第9類)は、ニース国際分類に含まれていない商品も含んでおり、ダウンロード可能な電子出版物も対象となっている」と指摘しました。裁判所はまた、ユベントスが、NFTファンタジーフットボールの新興企業であるSorare SASとの契約を通じて暗号ゲーム(具体的には、ブロックチェーンテクノロジーと暗号通貨および/またはNFTの使用に基づくオンラインゲーム)の分野で活動していることを証明したことも指摘しました。
 
Blockerasは、侵害しているNFTおよび関連するデジタルコンテンツを自社のプラットフォームからだけでなく直接または間接的に管理下にある他のオンライン店舗からもすべて撤収するよう命じられました。
 
NFTとは、非代替性(唯一無二)のトークン(証票=しるし)であり(総務省令和4年版「情報通信白書」)、暗号資産(仮想通貨)と同じくブロックチェーン上でのみ発行・取引されるものです。従来、コピーや改ざんが容易で資産価値の付与が困難だったデジタルデータをNFTの技術を利用することにより資産価値を付けることが可能となりました。NFTはあくまでデジタルコンテンツの帰属を証明するデジタル証明書に過ぎず、デジタルコンテンツそれ自体とは区別されるものですが、今回の決定は、たとえNFTがそのようなデジタル証明書であったとしても商標権侵害の対象となり得ると判断した点で画期的なものといえるかもしれません。今後はプラットフォームの責任をどう考えるかという点も論点となりそうです。なお、2023年1月1日に発効するニース国際分類第12版では、第9類に「非代替トークン[NFT]によって認証されたダウンロード可能なデジタルファイル」が含まれる予定です。
 
(文責:弁理士 加藤 ちあき)

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