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娘とふたりで過ごす日曜日

一文字も書けなかった日。そんな日のことも覚えていたい。
これは、私の私のための日記です。

2024年6月23日(日) AM

何が何を叩いたら、そんな音が出るんだろう。わたしの家を囲む真夜中は、不思議な音の嵐に包まれていた。雨はザァー、風はビューッ。ならば、コンコンコンは?カサァッは一体どんな動き?

「仕事が何時に終わるかわからない」そう言い残して家を出た夫が隣の寝室で寝ているのかどうか確信が持てないまま、全身を無防備に投げ出している娘を横目に見る。エアコンの風は、彼女にとっては気持ちの良いものらしい。寝顔。見たことはないが、私には似ていない気がする。

腰の骨が痛むので、身体の向きを変えてなんとか寝落ちる。そして、早朝。ワァアアアアンと混乱しながら泣く娘の声で起き、「大丈夫だから」を繰り返す。「眠りを妨げられた私は大丈夫でない」と思いながら。

朝に強い夫と娘が先に階下に降りていき、冷たい敷布団の感触を味わう。「ママ起きてぇー」と叫ぶ声。「はい、どうもすみません」「私、起きてはいますんで」と、低めの姿勢で言い訳をしながら朝食に参加。夫は圧倒的米派なので、朝から納豆ご飯や味噌汁をかきこみ、その味わいの豊かさ、つまりグルタミン酸などのうまみ成分をしかと舌で受け止める。

夫は何度もGoogleMapで職場までを経路検索し、「道が混んでる」「行きたくない」など嘆いていた。「申し訳ない」と思いつつ、娘と見送る。玄関で「いってらっしゃい」のハグ。この際、娘は「パパばいばーい!」と爽やかに言ってのけるが、夜になると「ぱぺぇ〜〜〜(パパの意)」と涙する。

そして、支度をして家を出るという締め切りのない日曜日は、そのままゆっくりと娘とご飯を食べて、アンパンマンで愛と勇気について学んでもらっている傍で家事タスクを終えていく。皿洗い。洗濯。掃除…。何かひとつでも残しておくと、落ち着いた午後を過ごせない。

こちらを見ていないはずの娘だが、私がこっそり2階に行こうものなら(階段を上がる音を立てようものなら)、「まめぇ〜〜〜(ママの意)」と不安そうな声を出す。

「ママ2階行くから、寂しかったらおいで」と勧誘し、ついでに着替えてもらう。この間洗濯機に洗濯を行ってもらうわけだが、ものわかりのよいソレはボタンひとつで期待した結果を出してくれる心強い相棒に違いない。

そしてなぜかいつも。私が洗顔し眉毛を描き始めると、娘が怒る。視力の悪い私が鏡に向かっていると、娘の置き去りにされた感が強まるのかもしれない。「鏡の中の自分じゃなくて、私ともっと向き合えよ」と。

一日中雨なことは予報で十分承知だったので「ママとイオンモール行ってみる?」と聞いた。「行く。歩いて」とのこと。「イオンモールまで歩いて行ったら日が暮れちゃうから、車に乗って行こうか」と交渉。許可をもらい、手拭きやおむつ、お茶などをリュックに詰め込み初めていくイオンモールへ。

キッズスペースがあり、そこで30分〜1時間身体を動かしたなら、彼女は気持ちよく昼寝できるだろうと踏んでいた。雨の道中、何度も「(車を)降りたい」と言われたが、道路の真ん中で降ろすわけにもいかず。持ってきたおもちゃが座席の下に「落ちた」と言われたが、運転中の身は取ってやることもできず。

なんとかイオンモールが見えてきたころに、イオンモール渋滞も見えてきた。イオンモール渋滞とは、イオンモールに入りたい車が列をなし渋滞することですたぶん。

「ママここに入りたいのに、みんなも入りたいみたい!時間かかりそう!」とヒステリックに状況を説明。ふ〜ん、そんなものかと納得した様子の娘。ようやくイオンモールが放つ「大型施設が出せる冷房の風」を浴びたころには11時になっていた。

事前に調べておいたキッズスペースまで、娘を運ぶ。「ほうら、こんなに楽しそうなところに連れてきたよ」とドヤ顔するも「行きたくない」とのこと。思わず笑ってしまう。初めての場所。知らない子どもたち。嫌な要素ではありますよね。

諦めて近くのアンパンマン列車にふたりで乗り込む。SLマンを運転するアンパンマン。ママとふたり乗りできる安心設計。思わず後ろから娘の肩を揉みながらシュポシュポはしゃいだ。彼女も嬉しそうだった。

おまけに、おまけのカードは娘の大好きなバイキンマン。大喜びした娘はカードを握りしめ次なる要求を重ねる。「アイスクリーム食べたい」ちょうどアイスクリームが食べたかった私と、サーティワンへ。こんな日があってもいいよねと笑い合いながら、アイスを食べた。

2024年6月23日(日) PM

気づけば12時を回っていて、昼ごはんという概念を思い出す。いやしかし、腹はアイスクリームで満ちているし。無理して何か食べようとせずに、家に帰ってご飯を食べよう。なんなら、何かテイクアウトして家で食べる気が起きなかったら晩ごはんにスライドさせてしまおう。

ベースが怠惰なので、そんなことをぼんやり考えながら「絶対に買う」と決めていたおむつを買いに走る。と、そこで異変に気づく。娘の手にバイキンマンのカードがないではないか。恐る恐る「もしかして、バイキンマン落とした?」と伺うと「落としてないも!」と強めの返答。

これは、認めたくないがための「逆ギレ」に違いない。「そそそ、そっかぁ」といったん引きの姿勢。悲しみを受容する時間が、彼女には必要そうだ。

おむつを買ったり電池を買ったり。買い物に付き合ってもらったので、トイザらスへ。当たり前のようにおもちゃを買い与えることはしたくなかったので、小さなものでよければ買うと約束して選んでもらうことに。結果、SLマンに乗ったアンパンマンの小さなおもちゃを選び、ケンタッキーでチキンを買って帰路についた。

「戻りたい」「また行きたい」イオンモールに未練たらたらの娘だったが、雨の中微かに振動する車内で自我を失い、宙を見つめ、そのまま夢の世界の住人になった。帰宅後はそのまま布団で熟睡。束の間の読書を楽しもうとする私。

しかし疲れで文字が頭に入ってこない。ということで、短歌とエッセイが交互に並ぶ『うたわない女はいない』を選び、眺めるように読書をした。十和田有(ひらりさ)さんの短歌「誤魔化さない」の「自己啓発本を読んでも奥底に制御できない電流がある」にビリビリしつつ、ゆるりと時間を過ごすことができた。

片手間に読んでも許してくれる本、懐が深い。そうこうしているあいだに起きてきた娘に昼ごはんを与えて、お風呂に入るまでおもちゃで遊んだ。ねんど。パズル。ブロック。私の場合は「子どもと遊んでいても奥底に制御できない電流がある」みたいで「今日の夜、娘が寝たら小説の続きを書こう」と決意する。

夜ごはんは、牛肉とアスパラガスの甘辛炒め、なすとベーコンのトマト煮をつくった。常備している茹でておいたブロッコリーも、いい仕事をしていたし、ケンタッキーのチキンとノンアルコールビールもあり、豊かな食事。この日記に書いたようなことを娘と一緒に思い返しながら、暗くなっていく外を眺めて「いい1日だったかもしれない」と思えた。

皿を片付け、娘のおままごとに付き合い、できたてのハンバーグにアチチとリアクションを取ってみせたり、娘に促されるままにカラフルなチャーハンをうまいうまいと食べるふりをしてみたり。「ママとふたりなんてつまんないよね」「雨の日は公園に行けないから退屈だよね」と、1日の大半は申し訳なく思っていたが、「案外娘はこんな日も楽しいのかもしれないな」と気分を持ち直すことができた。

根気強く待つというただそれだけの作戦で、イヤイヤ期の彼女に自発的に歯磨きをさせることにも成功した。そして、トライアルアンドエラーを繰り返し「寝ごろな室温」に調整された部屋に案内し、並んで寝転がった。そこで突然「パパ明日帰ってくるから大丈夫だよ」となぜか励まされた私は、娘から見て不安そうだったのかもしれない。

口に出さなくても、この子には私の申し訳なさが伝わっているんだろう。「ありがとう。ママは大丈夫だよ」と答えて一緒に眠った。私の奥底にある制御できない電流のことは忘れてしまって、そのまま2時までしっかり眠った。前の日と比べて、とても静かな夜だった。


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