マッチ売りの少女とティッシュ配りの男

ナレーション(以下、ナレ)「ひどく寒い日のことでした。一人のあわれなマッチ売りの少女がいました。

少女は古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、 手に一たば持っていました。少女が通り過ぎる人に声をかけても」
少女「マッチはいりませんかー?」

ナレ「通り過ぎる人は皆、誰も少女のことを見向きもせず、マッチは一つたりとも売れませんでした。それでも少女はけなげにも、マッチを売ろうとしておりました」

暗転

○ティッシュ配りの男A

ナレ「ひどく寒い日のことでした。一人の愚かなティッシュ配りの男がいました。男は仕事についても長続きせず、友人知人からは借金を繰り返しては逃げ回り、日雇いのバイトで食いつないでいました」

男「あーあ、楽してお金が手に入る方法ねえかなー」

ナレ「通り過ぎる人は皆、誰も男のことを見向きもせず、むしろ顔を伏せてティッシュを受け取ろうとはしませんでした。むしろ男もティッシュを配る気すらありませんでした」

暗転

ナレ「マッチ売りの少女は、寒さに震えておりました。コートはもちろんあったかな服など与えられておらず、母親からもらった靴も無くしてしまったからです」

少女「(手に息を吹きかけて)はー、寒いよう」

ナレ「やがて日も暮れ、人通りもなくなり、遠くからは幸せそうな家族の笑い声が聞こえてきました」
ナレ「少女は寒さに耐えられず、手に持ったマッチを眺めました」

ナレ「そして、マッチを一本取り出し、勢いよくすると、なんと目の前に暖かな暖炉が現れました」

少女「……あったかい」

ナレ「暖炉の火は少女の体を優しく包み、心から温めました。しかし、やがて小さな火が消えると、そこに残ったのは手の中の燃え尽きたマッチだけでした」

暗転

ナレ「ティッシュ配りの男は、寒さに震えておりました。コートはもちろん暖かな服など買えるはずもなく、あったとしてもそれらはとっくに売ってしまったからです」

男「(手に息を吹きかけて)あー、さーみーなー」

ナレ「やがて日も暮れ、人通りもなくなり、遠くからは幸せそうな家族の笑い声が聞こえてきました」

ナレ「男は寒さに耐えられず、手に持ったティッシュを眺めました」
ナレ「そして、携帯電話取り出し、電話を一本かけると、なんとあっという間に男の手には3万円が現れました。そうです、消費者金融です」

ナレ「男はそれをすぐさま使って、暖かなホテルへ泊まることができました。手の中に残ったのは残り2万円だけです」

暗転

ナレ「マッチ売りの少女はとても空腹でした。
朝から何も食べておらず、ここ数日はまともな食事はできていませんでしたから、当然です」

少女「……お腹すいた」

ナレ「少女はマッチを壁にすりました」

ナレ「するとそこに一瞬で、こんがりと焼けた七面鳥、暖かなスープ、焼き立てのパン、他にも食べきれないほどの料理が現れました」

ナレ「おいしそうなにおいに、少女が思わず手を伸ばすと。料理は一瞬で消えてしまい、手に残ったのは燃え尽きたマッチでした」

暗転

ナレ「愚かなティッシュ配りの男はとても空腹でした。朝起きてから何も食べておらず、ここ数日はコンビニ弁当やカップラーメンなどまともな食事をとっていませんでしたから、当然です」

男「腹減ったな」

ナレ「男は再び電話を取り出しました」

ナレ「するとそこに一瞬で、宅配ピザ、出前のお寿司、かつ丼天丼親子丼、缶ビールまでが現れました。ルームサービスです」
ナレ「おいしそうな料理に男が手を伸ばすと、一瞬で、瞬く間に、みるみるうちに、きれいさっぱり料理はなくなってしまいました」

ナレ「残ったのは、口の周りにたっぷりとついたピザソースと、手にはたった一万円だけです」

暗転

ナレ「寒さと空腹で震えていた、かわいそうなマッチ売りの少女は空を見上げました。するとそこに、一筋の流れ星が流れました。そのとき、少女は亡くなったおばあちゃんのことを思い出しました」

祖母の声「星が一つ流れるとき、どこかで誰かが天に召されているのよ」

ナレ「少女はマッチを擦りました」
ナレ「すると、あたりは明るくなり、その輝きの中におばあちゃんが立っていました」

少女「おばあちゃん!」

少女「おばあちゃんお願い、私も連れて行って! マッチが燃え尽きたらおばあちゃんも消えてしまう」

ナレ「少女は残りのマッチを全て握りしめ、壁に擦りました。おばあちゃんに消えてほしくなかったからです」

ナレ「マッチの火は強く輝き、少女と少女を抱き寄せるおばあちゃんの二人を優しく包み込みました」
ナレ「そして二人は、寒くもなく、空腹でもなく、何の心配もない天国へと旅立ったのです」

ナレ「次の日、街角に一人のマッチ売りの少女が、凍えて死んでいました。しかし、少女の顔は不思議と、幸せそうな笑顔だったそうです」

暗転

ナレ「満腹と暖房の温かさで眠くなっていた、愚かなティッシュ配りの男は、部屋の中にあったポケットティッシュを眺めました。するとそこには、ヘブンというデリヘルの広告が入っていました」
ナレ「そのとき、男はお金を借りたまま返していない親戚のおじさんのことを思い出しました」

親戚のおじさんの声「ヘブンって店のエンジェルちゃん、マジ最高」

ナレ「男は電話を握りしめ、立ち上がりました!」

ナレ「すると、一瞬で男の部屋の前にとても美しく、エロ過ぎず清楚過ぎず、ちょうどいい美女が現れました」

男「……ちょうどいい」

デリ女「40分1万円、それと指名料5000円です」

男「……足りない」

ナレ「男は必死になって、叫びました」

男「エンジェルちゃんお願い! 俺を天国へ連れて行って! 俺には残りこれだけしかないから!!」

ナレ「少女は残りの一万円を握りしめ、頭を地面に擦りました」

ナレ「土下座です。エンジェルちゃんに消えてほしくなかったからです」

ナレ「やがてホテルの明かりは消え、二人はとても素晴らしい、幸せな天国へと旅立っていきました」

ナレ「次の日、街角に一人のティッシュ配りの男が、凍えて死んでいました。ホテルにデリヘルを呼んだことがばれ、追い出されたからです。しかし、男の顔は不思議と、幸せそうな笑顔だったそうです」

ナレ「めでたしめでたし」

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