「とある2chの書き込み」

「出来の悪い兄のせいで俺がムーニーマンの弟と言われた件について」

その兄が先週死んだ。
いま、通夜とか告別式とか終わって、気持ちを整理したくてここに書き込んでいる。
まとめ書きもしてないし、ちょっと長くなるけど、よければ付き合ってほしい。

俺の兄は、生まれたときからなんか先天性の病気で(身バレが怖いので、具体的な病名は伏せさせてくれ)、ちょっと頭が足りないというかまあ、いわゆるなんちゃら障害者だった。

小さい頃は、俺も普通に兄と遊んでいた。
いつも、ニコニコ笑っていて、俺にとっては何しても怒らないいい兄だった。

俺の初恋は、5歳の頃。ませた女の子で、おままごとやってもやけにリアルな、演技力の素晴らしいこだった。かりに、あしだまなちゃんとしよう。
ある日、二人でおままごとをしていてぼくらは夫婦の役だった。
そこでぼくはプロポーズしたんだ、プルタブの指輪を差し出して。
そしたら、まなちゃんが
「まなは将来女優になるから、こんなんじゃだめ、ちゃんとした指輪がいい」
「う、うん。わかった」
俺は、慌てて家に帰り、母親の部屋をあさり、そこで見つけた母の婚約指輪をまなちゃんに差し出した。

すっごい喜んでくれた。
けど、そのせいで帰り際言い出せず、まなちゃんはその指輪をそのまま持って帰ってしまった。

家に帰ると、案の定母親が怒っていた。自分の部屋が荒らされていて、俺達のどっちかがやったとおもっていた。
俺は、親に怒られるのがいやで、
「なんかー、にいちゃんがー、ゆびわのみこんじゃったよ」と言った。
親はすごく、兄を怒った。そんな時でも兄はずっとニコニコしていた。

そこから、病院へ。兄は、レントゲンを取られた。当然、指輪は見つからず。
俺の兄は、小学校高学年までおむつが外れなかったんだが、しばらく、兄はうんこをしたあと、母親に見せに行かなくてはならなかった。
そんな時でも、兄はただニコニコ笑っていた。
俺はおれで、手のかかる弟みたいな感じで兄のことを見ていた気がする。

だけど、兄と俺が小学校に入ってから、状況が変わった。

同級生の友達もできた俺は、段々と兄が普通じゃないってわかってきて。兄を避けるようになった。友達にも兄弟であることがバレないよう、学校ですれ違うときなんかは絶対目は合わせず、他人のふりをしていた。

あるひ、家に友達を呼ぶことになった
当時、バイオハザードがはやっていて。
両親が共働きだったうちで、みんなで集まってやることになった。
おれは、兄に部屋から出てくるなといった

みんなで夢中でゲームをしていた。
ゲームしてたら兄が、ゾンビばりに真っ青な顔をして出てきた

「にいちゃん」

とぼくがいうとまわりが、ざわざわした。

「え、こいつお前のにいちゃんなの?」

みんな、兄のことを学校で見たことあるったが、俺と兄弟とは知らない。きまずい沈黙がうまれた。

「なんで出てきたんだよ」
「うんこ」

見ると、兄貴はおむつをおさえている。
俺はすべてを察して、絶望した。
そして、その強烈なスメルが友達のところへ届き

くっせー!
うっわ、こいつうんこ漏らしてる!
やっべー

そこからはもう大騒動。これが、わがやの「バイオハザード事件」のあらましだ

次の日から、俺は友達から「ムーニーマン」の弟と呼ばれることになった

兄を恨んだ。
なんでおれが、こんなめに。
こいつさえ、いなければ。

兄はいつでもニコニコと笑っていた。

中学校にあがった、ある日。
クラスで女子が男子に絡まれていた。
「お前、太ったんじゃねーの?」
「太ってないし」
「ちょっとつまんでいい?」
「やだよ」
「いいじゃんいいじゃん」
「やめてってば」
後から知ったが、2人は付き合ってたらしい。
そんなことも知らず、当時、デスノートにはまっていて、八神ライトを完全に意識していた俺は。
脳内で完璧なシュミレーションをした上で、完璧なスマイルをつくってその喧嘩を仲裁することにした
「君、そういう幼稚なことはやめたほうがいいんじゃないかな」
「は、何だよお前。関係ねーだろ」
「ほら、彼女は嫌がっているじゃないか」
「え、いや、私は別に」
何かおかしいと思った。
そりゃ、そうだ。カップルの乳繰り合いに乱入したおれは周りから見ればただの痛いやつだった。
その時超焦った、でもこの引き下がれないと思った俺は2人を無理やり引き剥がそうとした。
しかし、動揺してたせいか、のばした手が掴んだのは、

彼女の、やわらかな、「おっぱい」だった。

その日から俺は、気持ち悪いやつの弟から、晴れて気持ち悪いやつになった。

独立記念日だ。

その後、クラスの冷たい視線と、時折カップル(男)からされる嫌がらせに耐えていた。
自業自得だと思っていたけど。

そして運命の日、事件は昼休みに起きた。
ぼくの、机の引き出しから自作のデスノートが見つかったのだ。

それはもう、大騒動が起きた。

クラスの男子により、出席番号順に書かれた名前を読み上げられ、続けてその死因までもが読み上げていく。みんな笑っていた。
おれは、下を向いて、ただただ早く終われ、早く終われ、と願っていた。
その時、何やら奇声が聞こえて、俺は顔を上げた。
兄だった。
俺の弁当を届けにきたらしい。
兄はなんか、わけのわからないことをめちゃくちゃ言ってた。弁当が振り回され、中身が教室中に散乱していた。俺の、昼飯……。
俺、それが最初で最後だった。兄貴が怒ってるのを見たのは。
俺は、散々バカにしてて、兄弟であることを隠してなかったことにしようとしてたのに。
でも、兄貴は、ちっちゃいころから変わってなかった。
俺のことをかばってくれる、優しい兄だ。

その後、学年が上がって俺に対するいじめのようなものは自然となくなった。

高校からは兄は施設に入り、俺は県外の某進学校へ進学することになり、離れてくらした。
俺は、高校デビューに失敗したが、その後大学でなんとか取り戻すように青春を謳歌していた。
兄はなんか野菜を育てたり、お皿をつくるような会社に入ったらしい。時々へたくそな、コップとかが送られてきた。

その後就職の時期。障害者が兄弟にいると就職で不利になるとの話もあって、迷ったが俺は今みたいな話を面接で長々と話した。面接官は黙って聞いていた。
結果は、受かっていた。その後は何ごともなかったかのように、朝から晩まで働いていて、休みは好きなアニメやゲームをして過ごした。特に何にも起こらない、平穏無事な日々。
実家にもほとんど戻らなかった俺は、兄のことをほとんど意識することはなかった。

そして、その兄が、先週なくなったと連絡が来た。

もともと生まれつき心臓が悪く、長くは生きられないだろうと言われていた。
そんな話を父が目の前で話している時だって、兄はただ、ニコニコと笑っていた。

でも、母から聞いた。
兄は、何もわかってなかったわけじゃないんだと。

小さい頃、心臓が悪い兄に言ったそうだ。
あなたは、怒っちゃだめだと。心臓に悪いから、何があっても笑っていなさいと。
兄は、その言いつけを守っていたんだと。

俺が、兄の怒った姿を見たのは、中学校のあのとき一度きりだった。

そんな兄のことを俺は……


俺は……



長々と書き込んでしまってすまない。

これは、ぜんぶ、デタラメの釣りだ。

お前ら、馬鹿だな。
こんなのに騙されるなんて。

兄貴は死んでなんかないし、そもそも俺はひとりっこだ。

あ、ただ、小さい頃のまなちゃんの話と、中学時代のエピソードはガチ。
俺は、いまでも女が怖い(笑)

……いやぁ、初めてここに書き込んでみたけど、けっこう面白かったな。
またなんか、「思い出したら」ここに来ようと思う。

じゃあな。

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