悟りの構造。一なる全への道。
皆さん、こんにちは。久保家です。
久保家のリビングにはホワイトボードがありまして、毎朝、そこに夫が考えたことを描いて、朝ごはんを食べながら夫婦でディスカッションをしているのですが、その内容をコンテンツとしてまとめてみようというのが、今回の試みです。
昨日、地域ICT推進協議会(COPLI)のU-35メンバーと飲んでおりましたら、こちらのNoteを見てくれている社長さんがいました。先月、お金を支援してくれていたのですが、全然気づかなくて、管理画面の売上管理を見てみたら確かに売上が上がっていました。匿名性で誰から頂いたのかわからないので、おひねりのような仕組みなのですね。デジタル化した文章はオープンソースという認識ですので、そこからお金が生まれることは全くの想定外で、なんだか感動しました。本当にありがとうございますm(_ _)m 皆さんに楽しんで頂けるようなお話ができるように精進いたします。
さて、本日は「悟りの構造」というテーマで、脳の「構造」から悟りについて考えてみたいと思います。養老孟司先生の本に「唯脳論」がありまして、脳という「構造」が心という「機能」に対応していると定義しています。文化や伝統、社会制度はもちろん、言語、意識、心など人のあらゆる営みは、脳という器官の「構造」に対応していると言います。
心は脳の機能である。
すべての人工物の仕組みは脳の仕組みを投影したものであり、人は己の意のままにならぬ自然から開放されるために、人工物で世界を覆おうとするわけです。そのようにしてできた世界が「脳化社会」、つまり、自然が排除された「仮想空間の世界」です。
ここで人工物とは「物(モノ)」と「事(コト)」に分けてみましょう。モノは物質、コトは情報です。こちらが進化すると、物質から身体へ、情報から知性になります。最近は「事(コト)」のほうに重点を置いて、人間は脳化社会の世界を創り出しました。硬くて重いアトムの世界から、手に触れられないデザイン、柔軟性、イノベーション、スマートさへの転換が進んでいます。
○人工知能に目が誕生した
さて、これから脳の構造について考えていくわけですが、人間の頭をパカっと開けるわけにもいかないので、脳に似たようなモデルをつくって考えていきます。それがニューラルネットです。ニューラルネットは、数学的なモデルでニューロンをつなげたものです。
このニューラルネットで何ができるのかというと、データを分類することができます。例えば、健康ニューラルネットというものを考えてみましょう。インプットのデータとして身長・体重・年齢を入れると、アウトプットとして「あなたは健康です」とか「ちょっと注意です」という結果が出てきます。学習データから、ニューロンをつなげているネットワークの重みを
うまく調整して、適切なアウトプットが出るようにするのです。
引用:https://logmi.jp/155365
Googleの猫という有名な実験があります。これは2012年にインターネットから取ってきた画像をたくさん入力して、ニューラルネットの人工知能に学習させると、猫に該当するような、こういうニューロンが自然に出てくるということです。これはつまり、猫の「猫らしさ」というのが、画像をたくさん見せるだけで学習されているということです。
この図では左側が下位の層で、右側が上位層になっています。下位の層では、線や点といった単純な特徴量が、上位の層になると、人の顔や猫といった複雑な特徴量となっているわけです。これは人間の視神経のモデルとして知られているものと極めて近いのですね。つまり、ディープラーニングと呼ばれる技術は、人工知能に目が誕生したと言えます。
このモデルを、井筒俊彦さんの「意識と本質」P214ページの意識の構造モデルに合わせてみましょう。右側が表層意識で、左側が意識のゼロポイントになります。意識のゼロポイントから無意識が形成されて、そこから言語アラヤ識が生まれます。そして、言語アラヤ識からM領域(イマージュ)が生まれます。ここまでが深層意識領域であり、そこから象徴化作用で表層意識が表れます。つまり、表層意識で猫が表れるわけです。
参考:http://society-zero.com/chienotane/archives/5346
ここで重要なポイントは、なぜ猫とわかるのかはブラックボックスになっている点です。画像をたくさん見せたら猫だとわかるようになったけど、なぜ猫だとわかるのかを言葉で説明できない。意図的に目を創ったわけではなく、自然と目が生まれたわけです。
○構造のヒステリシス。生命は繊細で儚いもの。
脳の仕組みばかり見ていても仕方がないので、次は生命という観点から考えてみましょう。エントロピーの法則という物理学の法則があります。荒廃、カオス、無秩序を表す言葉で、宇宙のあらゆる場所で例外のない唯一の物理法則です。
参考:https://www.slideshare.net/youichiromiyake/ss-67175808
もし、エネルギーが流入しなければ、その系のエントロピー(乱雑さ)は増大します。ところが生物の場合は、なぜかエネルギーの高い状態でひっかかるわけです。つまり、エントロピーの法則に頑張って抵抗しようとします。
これを「構造のヒステリシス」と言います。
世界の中に存在するひとつの生命について、単純なモデルで考えてみましょう。生命は、世界からエネルギーを取り入れて、老廃物を排出する構造を持ちます。そして、その内部構造が維持されます。インプットがあり、代謝機能で内部処理をして、アウトプットします。
なぜ、内部構造が維持されるかいうと、「散逸構造」を持っているからです。エントロピーの法則では、すべてが無秩序の方向へ動くのではなく、ランダムに動いた結果、増大する確率が高いと考えます。つまり、その逆の傾向も存在している可能性があります。このエントロピーに逆行し秩序を形成するシステムの可能性を「ゆらぎ」と言います。
散逸構造は非平衡系であり、ゆらぎを成長させ、系の自己組織化を促します。例えば、渦潮(うずしお)は、潮の高低差によって入り江に入り込んだ海水の流れが作り出す散逸構造です。また台風は、湿った空気が常に低気圧の領域に流れ込むことによって作られる一種の散逸構造です。
つまり、生命の本質は、散逸構造による秩序の形成になります。
それは「ゆらぎ」による自己組織化であり、とても繊細で儚いものです。
生命の本質は、散逸構造による秩序の形成である。
それは、ゆらぎによる自己組織化であり、繊細で儚いものである。
○莫大なリンクが表れるスケールフリーネットワーク
ニューラルネットに戻る前に、「スケールフリーネットワーク」についてお話したいと思います。
参照:https://syodokukai.exblog.jp/20771928/
まず、左の図をご覧ください。都市をつなぐ高速道路のネットワークです。これは、ランダムネットワークと呼ばれるものです。大半の都市が、ほぼ同数のリンクをもち、ものすごく集中する都市は存在しません。確率に支配されるようなランダム・無秩序な事象は正規分布に従うとされています。統計学でよく出てくる釣り鐘型のグラフです。
一方、そこから秩序が生まれますと(秩序の創発、相転移)、「ベキ法則」に従うようになると言われています。ベキ法則は、正規分布とは違って、以下のような特徴を持ちます。
1.どこにもピークがなく、なめらかに減少する。
2.分布のすそ野は正規分布よりも広い。
3.ごく少数のきわめて大きい事象と無数の小さい事象が共存する状態を表す。
バラバシさんという偉い学者先生が、このベキ法則に従う分布を「スケールフリー・ネットワーク」と呼びました。現実のネットワークは、全く無秩序な状態ではなく、相転移を起こしたような状態であり、ベキ法則に従うことが多いとされます。なぜ、相転移でベキ法則が出現するかは、1971年にケネス・ウィルソンによる「繰り込み群」理論で証明されています。
右の図を見てください。航空便が非常に多く集まる空港(ハブ空港)がいくつか存在していますね。ここで重要なポイントは、秩序が生まれるためには「成長」と「優先的選択」という2つの特徴が必要になるということです。成長と優先的選択があるネットワークは、ベキ法則に従って、スケールフリーネットワークになる。大多数の頂点はごく少ない数の枝しか持ちませんが、一部のごく少数の頂点は莫大な多さの頂点を持つようになります。
例えば、インターネットの場合、大多数のWEBページは少数のリンクしか持ちませんが、Googleのような莫大なリンクを持つページが現れてくるわけです。
「成長」と「優先的選択」という特徴がある場合、スケールフリーネットワークになる。
○悟りの構造。一なる全への道。
それでは、最後に悟りの構造について考えていきます。
まず、数学的に考えていくと、「成長」と「優先的選択」がある場合には、相転移によって、スケールフリーネットワークが生まれます。脳には、絶えずインプットがあります。知覚・認識・理解・記憶の流れを通じて、ニューラルネットが成長していく姿がイメージできます。
問題となるのは「優先的選択」です。何を優先的に選択するのか?東洋哲学では、千変万化する混沌の中に人間も含まれていると考えます。本当の真理は、混沌の流れの中にあるのであって、人間が持つ言葉や概念といったものは、すべて小賢しい「小知」に過ぎないと教えます。つまり、混沌とか、道とか、無とか、存在のゼロポイントなど、いろいろな言葉がありますが、森羅万象のすべて説明できる「何か」を優先的に選択するわけです。繰り返し、繰り返し、繰り返し、同じことを探求するわけです。
西洋の場合は、Religionという言葉が繰り返し読むという意味ですが、トーラーなり、聖書なり、コーランを、繰り返し、繰り返し、繰り返し読む。そうすると、どうなるか。「成長」と「優先的選択」という特徴が成立して、ランダムネットワークから相転移が起こり、スケールフリーネットワークが生まれます。つまり、莫大なリンクを持つハブが出現します。
そして、そのハブ同士が繋がると、ホワイトボードにありますような、円環状のスケールフリーネットワークが生まれると思うのです。すると、外からのインプットが、一気呵成にすべてのニューロンに行き渡るようになる。その結果、一なる全の世界、無極即太極、絶対的一者、すべての源泉からの本質的下降が生まれることになる。これが悟りの構造(案1)です。
しかし、脳というのは非平衡系であり、ゆらぎを成長させ、系の自己組織化を促す、繊細なネットワークですから、このようなループ構造を取ることは、致命的な問題を引き起こす可能性があります。ループ構造は、高いパフォーマンスを発揮できる反面、無限ループに陥るリスクがありますので、上級者向けの構造という実感もあります。実際の修行僧も命がけで修行をするわけですから、悟りの構造はニューラルネットの極限を目指す行為なのかもしれませんね。
いかがだったでしょうか。皆さん(妻)はどう思われますか。
○本日のおすすめ本
人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇
三宅陽一郎 (著)
単行本: 384ページ
出版社: ビー・エヌ・エヌ新社 (2018/4/20)
新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳)
単行本: 368ページ
出版社: NHK出版 (2002/12/26)
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