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スーパーニンニク

まーちゃん🖌️


行き場のない思いが声になって出てしまいそうになるのをこらえて、夜の宗右衛門町を大股で歩く。寒い。寒くてうるさい。だめだ、あんまり良い夜じゃないかも。
今日みたいに本当にどうしようもない日は、ラーメンが食べたくなる。あふれでてしまいそうな思いを喉の奥に押し込むみたいに、塩分濃度の高い汁と麺を啜って血糖値を上げたら、大体のことは忘れられる。

最寄りのコンビニで適当なものを見繕って、寒さに耐えながら、口をぎゅっと閉じて歩く。こんな日はいつもより道のりが長い気がして嫌になる。
夜中なのでこっそりドアを開ける。電気をつけて、レンジの前に向かう。

もう今日はこれを食べて、適当に身支度して寝るだけ。なにもしない。スマホも触らないし、PCなんてもちろん開かない。
そう決めてレンジに手をかけた瞬間、明日人に会う予定があることを思い出した。
手に持っているラーメンには、目に見えるくらいのニンニクがのっている。
さすがにやばいか、と割り箸の袋を開ける。蓋をとってニンニクをつまむ。
ゴミ箱を開けて放り込もうと箸をあげた瞬間「なんでやねん」と声が出た。声が出たあと、「なんでやねん」の理由が頭のなかで一気に駆け巡った。
くそ、誤魔化せそうだったのに。

『アンガーマネジメント』って日本で最初に言い始めた人は誰だ。余計なことをしてくれたな、と思う。おかげで短気な私は、憤るたびに終わらない6秒間を強いられている。「怒りを覚えたら6秒我慢する」以上の知識もないのでそれ以上の対処法も分からない。不勉強で愚かだから、今日も私はこんなにイライラしている。
一向に収まらない怒りを麺と一緒にすすりながら、何度6秒を待てばこの怒りは消えるんだとさらに憤った。怒りが収まらないことに怒っているので意味がない。あきらめて寝付くまで、きっとずっと、この6秒のループにとらわれたまま。

自分と向き合う余裕がなくなると、もともと短い“気”が、小学生が最後まで使う鉛筆くらい短くなる。言っちゃいけないことを大切な人にぶつけて、返り討ちにあって、しばらく再起不能なくらい喧嘩しちゃう。その頃には我慢すべき6秒のことなんてすっかり忘れていて、気づいたら「イライラ」と「言いすぎた」で頭がいっぱいになってしまう。
あーあ、なんて未熟なんだ。四半世紀も生きてきて、まだ自分の感情もコントロールできない。

6秒のループから抜け出せないまま、目の前のラーメン鉢が空になった。ああ、こんな時間に食べ過ぎた。でも、なんだかさっきよりはましかも。
おなかが温かいもので満たされると、気持ちも落ち着いてくる。気分がましになったとたん、さっきある方に言われた言葉が急に脳裏をかすめた。

「スーパーになれ。」
さっきいた喫茶店で、コーヒーを飲みながら言われた一言である。
「スーパー…?」と思わず聞き返した。普通に失礼だったが、その方は優しいので、アホの私にも分かるようにかみ砕いて教えてくれた。
誰かの至らないところに憤ってしまうのは、自分が至っていないからだと思うととても楽だ。それは自分を責めろ、という意味ではなくって、糧にしろってこと。今起きたことも全部、お前が先回りして対処してれば起きなかったかもしれない。お前の今の怒りも、不満も疑問も、「スーパー」になれば解決する。だから一緒に「スーパー」を目指そう。本当の意味で「スーパー」になるまではまだまだ理解できないことがたくさん起きると思うけど、怒ってしまいそうなときこそ笑え、ヘラヘラしろ。笑ってたら自然と元気になる。

なるほど、「スーパー」か。

『アンガーマネジメント』より良さそうだ。
そのあと、その方としゃべってたらいつの間にか6秒のループから抜け出していて、気づいたときにはケラケラ笑っていた。きっとその方がずっとニコニコ笑っていたからだと思う。なるほどな、これが「スーパー」な力か。すごいな。

私は弱くて小さくてしょうもないので、きっとこれからもちょっとしたことでぷんすかしてしまう。すぐに「スーパー」になるのは、もしかしたら無理かもしれない。
でもきっと「スーパー」になれたら、私のこの満たされない気持ちが、ラーメンで押し込まないといけない思いが、ちょっと軽くなるかもしれないな。

さっきまでの気持ちが嘘みたいに、元気になってきた。私はアホで、結構単純だ。
明日から「スーパー」になれたら一番良かったけど、どうやらラーメンのせいで、「スーパーニンニク」からのスタートになりそうだ。


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