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ピープル・アナリティクスと仮説検証とOODA。

人事データを活用して人事業務の意思決定に役立てるピープル・アナリティクス。私は、この取り組みは今後の国内企業の人事業務を変えていくものになると確信しています。

アナリティクスは手段にすぎませんが、国内の人事制度・戦略が急激に変化していく中で、その戦略を実現する施策には前例がありません。前例がないということは、仮説を起点に試行錯誤を繰り返していくことになるわけですが、その時、データ(ファクト)に基づく仮説の検証は大変重要になるでしょう。

つまり、ピープル・アナリティクスは人事分野に仮説検証の業務スタイルを持ち込むためのツールであるとも言えます。

この記事では、仮説検証という切り口でピープル・アナリティクスを考えてみます。

仮説検証としてのピープル・アナリティクス

先日投稿した以下の記事では、データ分析のテーマを整理するための観点をTIHAMというフレームワークで整理しました。こちらはビジネスでの仮説検証のための整理観点とも言えますが、ピープル・アナリティクスはまさに仮説検証の典型的な例でしょう。

ピープル・アナリティクスは、多くの場合人事業務上の問題を発見するところから始まります。この「問題」というのは、あるべき姿(To Be)と現状(As Is)のギャップから生じるものです。あるべき姿、すなわち人事として目指す組織の状態が達成できていれば問題は存在しませんが、まだ理想的な状態になっていなければそこにギャップ(=問題)があるわけです。

そして問題があることが分かれば、その問題の原因や影響を探りつつ課題解決の仮説を構築し、実際に施策を実行していくことになります。施策を実行した後は、それが狙った効果を生んでいるか評価していくことになるでしょう。この動きは問題が解決されるまで続いていきます。これを図で表すと以下のような形になります。

簡単な例として、従業員エンゲージメントの向上を取り上げてみます。

従業員エンゲージメントは従業員の企業への信頼度を表す指標で、近年人事分野では注目を集めてきました。その背景には様々な事情がありますが、労働市場の流動性が高まっていることや、ジョブ型人事の導入が進み始めたことと無関係ではないと考えています。

さて、従業員エンゲージメントを向上させることが人事戦略に則したものであったとして、それが目標に達していないことが分かったとします。目標に達していないので改善していく必要があるわけですが、お手軽なツールを入れれば改善するという問題ではなさそうです。
なぜなら、こうした問題は組織の文化、マネジメントスタイル、仕事内容など企業固有の事情に根差した問題だからです。したがって、組織の実態を深掘りしながら仮説的な解決策を検討し試行錯誤的に改善していく必要があるでしょう。まさに仮説検証型の取り組みと言えますね。

ここまで、仮説検証サイクルの考え方を整理してみました。番号を①から④まで振っているので、何となく①からスタートするように思えるかもしれません。もちろん、多く場合は①問題発見からスタートするわけですが、状況によっては途中から入ることもあるかと思います。

人事戦略あってこその仮説検証

人事分野におけるあるべき姿とは、人材戦略に基づく人的資源の確保・育成であったり、ジョブ型などの新しい制度の導入と定着であったりします。これらはデータ分析フレームワークTIHAMでは目的(Target)に相当するもので、いずれも人事戦略に沿っている必要があるでしょう。さらに、人事戦略は経営戦略に従います。

したがって、上で示した仮説検証のサイクルは人事ビジョン、人事戦略があってはじめて機能するものだと考えられます。

もし目指すべき方向性が分からないのであれば、目指すべき姿と現状のギャップを見出すことすらできません。この場合、解くべき問題を見つけることはできないでしょう。無目的的な仮説検証は全く新しいアイデアを試すには得ることもあるかもしれませんが、それが経営に良いインパクトを与える取り組みになるかどうかはよくわかりません。

人事におけるOODAループの導入

ここまでまとめてきて、ふとこんなことを思いました。

ピープル・アナリティクスは人事にOODAループを取り入れることではないだろうか?

そして、本棚で積読状態になっていた「OODA LOOP, チェット・リチャーズ」を引っ張り出してきて読んでみたのですが、読めば読むほど関連が深いものだと思うようになりました。

OODAループは米国空軍のジョン・ボイド大佐により提唱されたもので、戦闘機等のパイロットが戦闘で直面する意思決定の場面を対象にするものでした。
ジョン・ボイドは凄腕のパイロットだと言われており、その思考プロセスや考え方を整理したのがOODA LOOPです。この考え方はビジネスの現場でも注目されています。

OODAループは上の図のように①観察(Observe)、②情勢判断(Orient)、③意思決定(Decide)、④行動(Act)の4プロセスからなります。(図はいらすとやさんからのものです。) 
これを見ると、この記事で示した仮説検証サイクルに類似していることが分かるかと思います。

OODAループの特徴は、目的を達成するために俊敏性を高めてスピードアップしながら柔軟性をもって作戦を実行することにあります。戦闘では作戦方針に従いつつも、常に変化する周囲の状況に応じて各人が柔軟な策を打つことが求められます。
これは、大きな人事戦略に基づいて人事マネージャーや人事担当者が日々施策を打つことも同様ではないでしょうか。

OODAループの中で①観察に当たる部分では、単に周囲を眺めるのではなく状況判断に必要な情報を手段を問わず集めることが重要になります。人事分野では、組織の中の状況を把握することに相当するものです。
組織が大きくなると人事担当者がすべての従業員にインタビューすることは不可能でしょう。したがって、現状を把握する上でピープル・アナリティクスを活用することの利点がでてきます。一方、定量的なデータだけではわからないこともあり、定性的な方法も組み合わせること重要だと考えています。意思決定に必要な情報をピープル・アナリティクスだけに限定するのは手段の目的化につながってしまいます。

組織文化の変革

OODAループをビジネスに取り入れるためには組織文化の醸成が必要だと言われています。「OODA LOOP, チェット・リチャーズ」では、組織が焦点と方向性を示す中で、各人が相互信頼とリーダーシップを持つことが重要であると説いています。また、仮説ベースで試行錯誤することを許容する文化も必要でしょう。
これらのことは、ピープル・アナリティクスにおいても同様ではないでしょうか。

ここ数年間、ピープル・アナリティクスの導入に奔走してきましたが、やはり重要なのは人であり、文化変革の重要性を感じました。逆の見方をすれば、ピープル・アナリティクスに本気で取り組み、例えばTIHAMのような論点に真正面から向き合うことで、仕事の在り方を変えることも可能ではないかと考えています。人事に仮説検証、OODAの考え方を取り入れるというのは、前例踏襲型のスタイルから脱却することに繋がるからです。

今後もこの新しい分野で文化変革を実現していきたいと思います。

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