はじめての約束
私はNくんと同窓会会場である “まるひろ百貨店” の屋上階までのエレベーターの中で、まるでダムが決壊したかのような会話を繰り広げた。
まるで中学を卒業してから今まで、空白の25年を取り戻すかのように。
その止まらない会話は、ずっとこの時をこの瞬間をお互い待ちわびていたかのようだった。
懐かしいを通り越して、心地よくてずっとこうして話ながらここまで来たような、今まで感じたことのない不思議な感覚でもあった。
空白と言ってももちろんお互い別々の場所で色々なことがあった。だけれどその間の時間を全て取っ払って、阿吽(あうん)の呼吸で会話が交わされたことも、今となっては印象深いシーンとなっているのだけれど、その時は何も不思議に思わなかった。そのくらいテンポや私たちのテンションも同じレベルでまさに共鳴し合っていて、実に自然で心地のよい会話だったから。
この人生で、Nくんと私はこの時はじめて言葉を交わしたのに。はじめてなのが不思議なくらいに。
『どこから乗ってきたの?』
先に東上線に乗っていたのはNくんだったから、私はそう素直に思ったことを聞いてみた。
『吉祥寺からだよ』
『え…?一緒だよ』
『そうなの?帰り一緒に帰ろうよ!』
え?いきなり?
とも思わなかった。ビックリはしたけれど、単純に素直にその言葉がただただうれしかった。なんだかくすぐったいような、ほっとしたようなそんな空気に包まれた瞬間だった。
Nくんからの返答は差し詰め 「和光市からだよ」とかそうじゃなくてもせめて「池袋からだよ」とか、乗り合わせたのが東上線だったからそういう返答が返ってくると思いきや、まさか、先ほど自分が自宅から徒歩で向かい乗車して来た最寄り駅の名前がNくんの口から飛び出して来るなんて全く予想外だったからついリアクションも大きくなってしまった。
まだ始まってもいない同窓会で、まさか最寄り駅が一緒の人がその中にいるだなんて思いもしなかった私たちはすぐに意気投合してしまったようだった。
そしてあの電車内でのときめきは、確実にこの時へと繋がっていたのだった。
「また後で会えるから」
あの根拠の全くない、だけれど期待を少しだけ含んだあの時胸の中に抱いた私の中の確信は、この感動を呼ぶような再会へと繋がっていたのだ。
会話に夢中で、気付けばもう目的の屋上階へとあっという間に着いてしまっていた。
もう少し、Nくんと会話を続けたいな…そんな気持ちに包まれながら私とNくんはエレベーターを降りた。
つづく―
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