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高校生の迷子

2015年7月20日、高校2年生の夏。

その日は、その当時私が第一志望であった大学のオープンキャンパスの日だった。比較的高校から近く、志望している生徒も多いため、希望者は先生たちとバスで行けた。

なぜ私が当時この大学を志望していたかというと、ずばり姉が通っていたから。

私は小学生の頃から3つ上の姉を追いかけていた。委員会、生徒会、高校まで、タイプは全く違ったけれど、私はなぜか同じようなところに所属したがっていた。そしてそれは志望校も同様だった。

また、この当時私は姉が在学している大学に何度か行ったことがあった。姉のアパートは大学の目の前で、家族と一緒にでも一人でもよく遊びにも行っていた。第一志望で、姉が通っていて、何回か来たことがあって…つまり今回のオープンキャンパスに対し私はどこか「得意げ」であったのだ。

高校2年生たちを乗せたバスは無事大学に到着した。ここからは自由に、自分の気になる学部の説明会を見て回る。

バスを降りた時、二人の女子と一緒になった。普段はあまり話さないし顔見知り程度だったが、同じ学部を見に行くということで一緒に行くことになったのだ。

この後の見学の記憶は正直あまり残っていない。なんでかというと、私は得意げになる方向を間違えたからである。もう大体大学のことを分かっていると思い込んでいたからこそ、「大学はいいから、近くのショッピングモールに行こう!」となってしまったのだ。(本当になんでそうなったんだ)

そのショッピングモールは大学の別のキャンパスに近く、先生に事前に、別のキャンパスに行ってそこから帰りのバスに乗ってもいい、と言われていたため、そこからバスに乗ればいいじゃん!となったのだ。

大学内を見て回るのもそこそこに、私は二人を連れて意気揚々とショッピングモールに向かって歩き出した。5年前と言っても7月の後半はなかなかに暑く、めちゃくちゃ汗をかいたのを覚えている。大学からそこまでは徒歩20分。集合までの残り時間を考えると、普通にギリギリだった。ショッピングモールといっても小さいし、絶対行きたいお店があったり買いたいものがあったりするわけじゃなかった。しかしその時の私はもう変な意地になってしまっていて、どうしてもたどり着こうとしていた。

もう誰だったか正確に思い出せないその連れの二人は本当にかわいそうだった。(いろんな意味で)覚えているかな。

そしてやっと目的地に着いたとき、私はひどく疲れていた。自分が全部悪いのだが、まあまあ歩いたことに加え、あまり楽しそうにしていない二人(当たり前だ)にイライラしていた。だから「あ、私違う方見てくるから」と二人から離れて行動しだしたのだ。これが本当に間違いだった。


そして10分もしないくらいで集合時間が迫ってきた。さすがにまずいと思ったが、グーグルマップで見てみると集合場所はモールの出口を出てすぐだと分かっていたので、出口に向かった。

…ところでこれは誰しも経験があることだと思うのだけど、モールってどこが行きたい出口なのか本当に分からないよね。

案の定私は迷った。モールの中をぐるぐると回り一緒に来た二人を探した。しかしすぐに地獄のLINEがきた。「もう着いたよ!kiraちゃんどこー?」その時にまた私の意地が出た。迷って遅刻した奴だと皆から思われたくないという意地だ。

もう集合時間はとっくに過ぎていた。私はもといたキャンパスに自力で戻ることでバスに追いつこうか、などと馬鹿なことを考えていた。でも行きで20分かかっているのにそんなことできるはずない。ていうかここがどこだがいまいち分からない。

私はその場を行ったり来たりした挙句、最終手段をとることにした。

「ごめん、姉の家に行く用事ができたから私を置いて行ってって先生に伝えて」

友達にそう連絡してしまった。本当になんでそんなにプライドが高かったんだ私。姉はその時確かアパートにいたから、もうそこに行ってどうにかするしかないとしか考えられなかった。

すぐに友達から話を聞いた担任の先生から電話がかかってきた。先生は姉のことも知っていたし、その当時常に情緒が不安定で意味不明な行動ばかりしていた私のことを理解してくれていたためか、すぐ私の申し出を受け入れてくれた。今考えると甘すぎる。

そんなわけでとりあえず「迷子になって遅刻した奴」のレッテルを免れて安心した。しかしここがどこだか分からないことに変わりはなかった。とりあえず元来た道を辿れば姉のアパートの近くのキャンパスに着く。なのにもう元来た道が分からない。グーグルマップもあまり上手く読めず、どの方向に行っていいのか分からなかった。

分からないなりにもしかしてこの道バスが通るかも、と不安になり隠れながら歩いていると、ここまでの炎天下での大量消費によりスマホの充電が残り少ないことにやっと気づいた。ん?めちゃくちゃやばくないか?そこではじめて親に電話をかけて状況を説明した、と思う。コンビニで充電器を買うことも考えたが、電池式とか種類とかがさっぱりわからず結局買えなかった。そしてどうしようか親とやり取りをしている間に充電は0%になった。


炎天下、迷子、知らない土地、スマホなし。


コンビニの前に立ち尽くし、私は半泣きだった。

親との連絡の中で、姉に迎えに行くように聞いてみる、という話になったので、頼りは姉だけだ。待つしかない。私は一体何をしているのだろう、何がしたかったのだろう。こういう私の変な意地やテンションは、今までもこれからも私を苦しめるのであった。

少しすると、コンビニの店員がこっちに向かってきた。私が怪訝そうな顔をするのは当然だけど、なぜかあっちも怪訝そうな顔をしていた。

「あのー、黄緑色のリュックを背負った高校生ってあなたのことだと思うんですけど」

手には電話。なんのことだ?

「あ、大丈夫なんで」

意味が分からず(なのにキレ気味で)店員を振り切ろうとしたら、遠くの方に姉らしき姿が見えた。

「お姉ちゃん!!!」

店員にさらに大丈夫だから構わないでください的なことを言い、姉のもとに向かった。姉は自転車で来てくれていた。姉の近くまで行くなり、私は幼い迷子が母に会えた時そのままの感じで号泣した。

そういえば幼い頃『となりのトトロ』を二人で繰り返し見ていた時に姉が「メイうるさいし泣くから嫌いなんだよね」と言っていた。妹の私は、自分が嫌われた気分になり悲しかった。でも迷子になって泣いている高校生の私はどう考えてもメイだし、姉はサツキだった。これは嫌われても仕方ない、と思った。姉は腹痛で寝ていたのに迎えに来てくれたらしく、ますます自分の情けなさに泣けた。

自転車を押す姉の後ろを永遠に泣きながら歩いた。すれ違った人にはどう見えただろうか。姉のアパートにつくと私は泣き疲れ果てて眠った。

(あとから親に聞くと、あの時スマホの位置情報で私の場所を確認した親が、コンビニに電話して連絡を取ろうとしてくれていたらしい。あの時怪訝そうに話しかけてきてくれた店員さん、めっちゃごめん。)



これが私の中でまあまあにやばいやらかしである。自分のふがいなさに泣けてくるとき、この時のことを思い出して「あれよりはましだろ!」と自分を鼓舞することにしている。

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