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(番外編) 祖母、 その憎き存在について


私が小さいころから親はとてつもなく忙しい仕事をしていたので、
育児のほとんどを母方の祖母が担っていました。
祖母がつくったご飯を食べ、祖母がつくった服を着る。そんな日々。

でも、生まれてから一度も祖母と心通わせたことはありません。
価値観が違いすぎて、優に100回は喧嘩したと思います。

*    *    *


祖母は戦前の大阪府で生まれ、中学を出てすぐに会社に勤め、結婚とともに上京してきました。「脱・大阪」を掲げているものの、半世紀を過ぎた今も関西弁で、牛肉絶対主義を抜け出せない。
自分のアイデンティティに、無意識レベルで忠実な人なのです。

祖母が好きなもの。それは金。
バックはGUCCI、リップはCHANEL、食器はロイヤルコペンハーゲン。
それ以外はないのです。

しかし、彼女はただの浪費家ではなく、投資家としての才能がありました。

祖母の平均的な年間利回りは12%。
個人投資家の平均利回りが5〜6%と考えると異常です。

一昨年からは仮想通貨にも手を出し、ぼろ儲けして、
近所の人に高級うどんすきセットをふるまっていました。
おそろしい80歳……。


そしてもう一つ、祖母の好きなもの。それは規範。
祖母のなかには「こうであるべきリスト」なるものがあり、そこからはみ出るとすべからく処罰するのです。

「女は愛嬌さえあればいい。勉強はできてはいけない」という規範にのっとり、やや勉強オタク気質だった私は自宅に帰るとすぐに教科書を没収されていました。

勉強できてはいけない理由は「理屈っぽくなるから」とのこと。
時すでに遅し。 私、生まれたときから理屈っぽいのだよ。

他にも「年上の人には逆らうべからず」「有給をとるべからず」
「セクハラは受け流すべき」「カーストの下位層とはつきあってはいけない」など。
彼女はこうした規範を他人に守らせることが生きがいでした(本人談)。

なぜ規範を守らせるのか?
彼女から言わせれば「親切心」だそう。

今となっては、現代社会のサバイバル術を教えてくれていたのだなあと思いますが、同時に、テクニックがその人の本質まで食っていくことの無残さを感じるのでした。

*    *    *


やや語調が強くなってしまいましたが、彼女との会話のほとんどが、互いのののしりあいで成り立っているので、これが通常運転。

つい最近も、新札のデザインに対して祖母が「後進国のお札みたいで、いややわ〜」と言っていて、その言葉づかいの浅はかさにマジレスした(そんで仕事遅刻しそうになった)。

ただ最近、彼女の加齢を感じることが多くなりました。

数年前までは、昼間まで寝ていると叩き起こしにきたのに、今は脚が痛いから私の部屋までやってこない。
何回断っても押しつけてきた「梅干し食べろ」攻撃もしてこない。

こんなに憎くて、憎くてしかたなかったのに、なんでか切ない。
憎んでいるのか、愛しているのか、わからないね。

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