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目先のコストにこだわるDX推進はNG

事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第10回は「目先のコストにこだわってしまう」という事例を紹介します。

DX推進=ツール導入という発想はNGであることを、前回までの記事で繰り返しお伝えしてきました。

しかし、結果としてツールの導入が必要になるケースは出てくるでしょう。

その際、目先のコストに囚われてしまうあまり、DX推進の方向性を見誤ってしまうことのないよう注意が必要です。

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーY社に新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田・松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている50代男性。DX推進チームの意思決定権を握っている。
相葉・中村:Rシステム開発株式会社の担当者。

本日の事例

Rシステム社の担当者に信頼を寄せた吉田係長は、AIが搭載されているというCRMツールの導入に前向きになっています。

(前回のエピソードはこちら↓)

ここで、Rシステム開発の担当者から「甘い誘い」を受けることになります。

果たして、吉田係長はどのような判断を下すのでしょうか。

Rシステム開発との2回目の打ち合わせで、早くも先方は見積を出してきた。
「初期費用、たったこれだけでいいんですか?」
「はい。皆さん驚かれるのですが、AIのチューニングはお使いいただきながら進めることになりますので」
「では、導入後もサポートしていただけるのですね」
「もちろんです」

吉田にとって、もはやRシステム開発の提案を断る理由はなくなっているのだろう、と加賀は思った。
話がややこしくなったのはここからだ。

営業担当の相葉は、こんなことを言い出した。
「弊社ではCRM以外にも業務効率化に役立つツールを多数扱っております。最近お問い合わせが多いのはクラウドPBXですね」
「テレワークを導入する企業も増えていますから、やはり電話を社外で使いたいケースは多いのでしょうか?」
「おっしゃる通りです。弊社では、CRMを導入されたお客様にクラウドPBXも初期費用サービスでお付けしています」
吉田の目の色が明らかに変わった。

これはまずい流れになってきた、と加賀は直感した。
「実は、もともとクラウドPBXは提案事項の1つだったんです。私は、必須の仕組みだと思っているのですが……」
「あまり良い感触ではなかったのですか?」
「上の者に反対されましてね。でも、今の相葉さんのお話ですと、他社もお使いになっているということですし」
「費用面も阻害要因の1つになりがちですから、初期費用が無料であればだいぶ話が変わるかもしれませんよ」
「たしかに……」

Rシステム開発との打ち合わせ後、吉田はすっかりその気になっていた。
「相葉さんの言う通り、無料で付いてくるならひとまず試しに導入してみてもいいんじゃないか?」
これはどうにかして阻止しなければならない、と加賀は思った。

「クラウドPBXですから、月額費用はかかりますよね?初期費用無料にこだわる必要はないのでは?」
「もともと導入しておきたかったシステムだったのだし、悪い話じゃないと思うけどね」
「岩崎役員は、それで納得してくれるでしょうか?」
「相葉さんが言ったように、役員からすると最終的にネックになるのはコストだよ。初期費用が不要なら話は別でしょう

さっきから「相葉さん」「相葉さん」と何度もしつこいな、と加賀は不快に感じた。
よほどRシステム開発の提案が気に入ったのだろう、吉田はその日の深夜まで自ら提案書を作り直していた。
提案内容は、もちろんCRMツール+クラウドPBXのセット導入である。(続く)

事例の解説

CRMツールの導入に乗じて、クラウドPBXも売り込んできたRシステム開発。

吉田係長は、やすやすと術中にはまってしまいました。

そもそも吉田係長は、岩崎役員に反対された前回の提案内容は間違っていなかったと考えています。

提案内容に問題があるのではなく、提案の仕方に課題があると思っているのです。

そのため、導入コストがクリアできれば提案が通りやすくはずだと錯覚してしまいました。

ちなみに、ベンダーが複数のシステムを同時に提案してくるケースは決してめずらしくありません。

ベンダーへの依存度が高まれば高まるほど、ベンダーと付き合い続けていかざるを得ない状況になっていくからです。

CRMは顧客情報、クラウドPBXは通信インフラに関わる重要な仕組み。

一度導入したら、別のシステムへの入れ替えにはコストも労力もかかるでしょう。

加賀さんが疑問視しているように、初期費用が高い・安いという目先のコストで判断すべき問題ではないのです。

事例の間違いポイント

この事例の間違いポイントは、目先のコストにこだわり過ぎていることです。

そもそもクラウドツールはサブスクリプションモデルのため、初期費用ではなく月額費用が主な収入源となります。

印刷複合機のリースがビジネスとして成り立つのは、長期間にわたってランニングコストを徴収できるからです。

クラウドPBXの初期費用を無料または格安にできるのも、基本的には同じカラクリだと思ってください。

しかも、顧客情報や通信インフラは企業にとって決して軽んじることのできない重要な仕組みです。

導入から時間が経てば経つほど、別のシステムに移行するハードルは高くなっていくでしょう。

つまり、導入の決定は極めて重い判断なのです。

初期費用が無料だから、といった安易な考えで導入を決めるべきではありません。

目先のコストこだわってDXを進めてしまうと、こうしたワナにはまりやすいため十分注意してください。

まとめ

・サブスクモデルのクラウドサービスはランニングコストに注意
・ツールを一度導入すると容易に置換えが利かなくなるケースが多い
・目先のコストにこだわるとDX推進の失敗率が高まる

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