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【重要】ベンダーの口車に乗せられないよう注意

事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第9回は「ベンダーの口車に乗せられるリスク」について取り上げます。

外部のベンダーと協力しながらDXを推進するケースは多いでしょう。

しかし、ベンダーの言いなりになってしまうとDXが失敗に終わる確率は極めて高いため注意が必要です。

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーY社に新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田・松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている50代男性。DX推進チームの意思決定権を握っている。
相葉・中村:Rシステム開発株式会社の担当者。

本日の事例

急遽導入したCRMツールの無料トライアル期限が迫る中、Y社ではある問題が発覚していました。

大半の社員が早くもCRMツールを利用しておらず、従来通りExcelファイルで顧客管理を行っていたのです。

そんな折、吉田係長はDX推進チームに緊急招集をかけます。

加賀さんが会議室に向かうと、そこにはベンダーの営業担当者2人が来社していました。

(前回のエピソードはこちら↓)

「こちら、Rシステム開発の相葉さんと中村さん。タイミングよく連絡をくださったので、急遽来社していただきました」
吉田の表情が妙にすっきりしていることが、加賀は気がかりでならなかった。

相葉という男性が営業担当、中村という男性が開発担当だという。
CRMツールを導入するにあたって、何社か問い合わせた企業のうちの1社だったようだ。

相葉は挨拶もそこそこに、それまで吉田と交わしていたと思われる会話を続けた。
「先ほどの話の続きですが、CRMの導入時につまずくのはよくあるケースです。先日も、同じような事例で他社様の相談に乗りました」
「そうでしたか、非常に困っていたので心強いです。お手数ですが、御社のツールについて再度ご説明願えますか?」
吉田は、松井と加賀にRシステム開発のCRMツールについて説明を聞くよう促した。

相葉の説明によれば、Rシステム開発のCRMツールはAIを搭載しており、データの規則性を学習するのだという。
たとえ顧客情報リストが不完全であっても、抜けているデータを補う役割をAIが担ってくれる、と中村が付け加えた。
「この仕組みを使えば、うちのような状況でもCRMが機能すると思う。加賀くんの懸念も、これで払拭できそうだろう?」

加賀は内心、相葉の説明に胡散臭いものを感じていた。
AIと言っても、いわゆる「弱いAI」(特化型人工知能)に過ぎないのは明らかだ。
吉田は、このツールを導入すれば現状抱えている問題がほぼ解決するとでも思っているのではないか。

「吉田係長、先ほど現場を見てきましたが、顧客情報リストはスカスカの状態ですよ。AIが推測するにも限界がありますし……」
大丈夫です。必要な情報がどのレベルなのか、弊社でアドバイスしますので。パラメータをチューニングすることで——」
相葉が加賀の言葉を遮るように割り込んできた。

吉田はすっかり相葉を信頼し切っている様子で、頷きながら熱心に話を聞いている。
松井も吉田を真似るように、相葉の話に聞き入っていた。
この様子では導入まで時間の問題ではないだろうか、と加賀は思った。

事例の解説

見切り発車で導入したクラウドCRMのトライアル期限が切れる直前に、タイミングよく連絡してきたRシステム開発。

AIによる深層学習で、データに抜けがあっても推測して補ってくれるという説明は魅力的に聞こえたことでしょう。

しかし、加賀さんが質問した通り特化型人工知能は決して万能ではありません。

多くの人は、AIと聞くと優れた推論能力を持ち、自ら学習していく「強いAI」(汎用型人工知能)を連想します。

実際のところ、特化型AIが対応できるのは特定のパターンに当てはまる場合の処理に限られているのです。

営業担当者の頭の中にしかない情報をすみずみまで推測できるほど、特化型AIは賢くありません。

Y社が今取り組むべきことは、別のツールへの乗り換えではなく既存のデータを整理することです。

また、属人化している顧客情報を一元管理し、共有化していく意義を営業部に伝えておく必要があるでしょう。

吉田係長は、自分でも気付かないうちに安易な解決策を求め始めているように見えます。

事例の間違いポイント

この事例の間違いポイントは、ツールを活用できていない状況を別のツールで解決しようと試みていることです。

いかなるツールも万能ではありません。

あるツールが活用できていないとすれば、活用し切れていない原因を探るのが先決でしょう。

とくにAIやRPA、ビッグデータといったバズワードは、非技術部門の担当者にとって魅力的に聞こえやすいため注意が必要です。

AI搭載と謳いながら、実際には特定の処理をこなすだけの、プログラムと大差ない代物も世の中には少なからず存在します。

借金を返すために別の借金を重ねても根本的な解決策にならないように、ツールの問題点を別のツールで補うのはナンセンスです。

どこかに万能なツールがあるはずだ」という思い込みを捨て、ベンダーの口車に乗せられないよう注意する必要があります。

まとめ

・ツールが活用できていない状況を別のツールで解決するのはナンセンス
・既存の業務フローやデータの整理など、DX以前の課題に立ち返ることが重要
・万能なツールを夢見ていると、ベンダーの口車に乗せられやすい

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