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ツールを導入しても活用できない典型例

事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第8回は「ツールを活かし切れない」パターンを取り上げます。

せっかくツールを導入しても、機能が活かし切れないケースは少なくありません。

なぜこのような間違いが起きてしまうのでしょうか?

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーY社に新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田・松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている50代男性。DX推進チームの意思決定権を握っている。

本日の事例

見切り発車でCRMツールのトライアル版導入を進めることにしたDX推進チーム。

トライアル期間の終了が迫っていた頃、松井さんがある情報をキャッチします。

(前回のエピソードはこちら↓)

「CRMツールを使わず、Excelでの管理に逆戻りしている社員が複数名いるようです」
こんな報告がメールで共有されたのは、CRMツールのトライアル期間終了が4日後に迫った頃だった。
松井が同期の営業部員から聞いたらしい。
新しいツールよりも従来のExcelファイルのほうが扱いやすい、と言っている営業部員が複数いるようだ。

すぐさま吉田からDX推進チームに指示が出された。
以前ヒアリング調査を実施した部署に、再度ヒアリングを行うように、とのことだった。
加賀はメールを見るなり、自身がヒアリングを担当している営業部一課へと向かった。

果たして、実態は松井から送られてきたメール通りだった。
いや、実際の状況はもっと悪かったと言ったほうが正しいだろう。

はじめの数日間だけCRMツールを触ってみたものの、従来の共有Excelファイルを使い続けている社員が大半を占めていた。
原因は実に単純なことだった。
そもそもインポート元のExcelファイルに入力の漏れ重複が多く、CRMツールを活用する上で必須の情報が不足している。

顧客の業種や従業員規模などの属性が抜けているばかりか、担当者の個人的なメモがそのまま残されているケースまであった。
営業担当者が「自分専用の覚え書き」として使ってきた顧客リストは、担当者によって記載方法がまちまちになっていたのだ。

担当者と連絡先さえ分かれば営業活動に支障がないからと、必要最小限の情報しか入力していない担当者も複数いる。
当然、インポート先のCRMツール上でも、情報は歯抜けの状態のままだった。

あるベテラン社員は、こんなことを言っていた。
「自分の担当顧客が分かればいいから、顧客リストは連絡先を確認する時ぐらいしか使わないよ。だったらExcelで十分だろう?」
やはりそうか、と加賀は思った。

CRMツールとはどういうものか、何のために導入するのか、根本的な部分が全く伝わっていない。
無料トライアル期間があるからと、ただ使ってもらうだけでは意味がない。

そんなことを考えていた矢先、吉田から内線が入った。
至急、会議室に集まってほしいという。

加賀が会議室に入室すると、そこには吉田と松井のほかに、初めて顔を見る若い男性2人が座っていた。
2人の男性はベンダーの担当者だった。(次回に続く)

事例の解説

そもそも「ツールを触って体験してもらう」ことを目的に導入したCRMツール。

はじめのうちこそ目新しいツールに興味を持つ人もいますが、結局は慣れ親しんだ仕事の進め方に戻ってしまいがちです。

営業部のベテラン社員が言っていたように、自分が使う範囲で不便がなければ旧ツールのほうがいいと考える人も少なくありません。

ツールの機能を活かすには、相応の事前準備が必要です。

従来の仕事の進め方を全く変えないまま、新たなツールに移行するのは無理があります。

現場の社員からすれば、慣れないツールの操作を覚えるという「面倒なこと」が増えるだけなのです。

事例の間違いポイント

今回の事例の間違いポイントは、ツールを導入する意図をあらかじめ現場に説明していないことです。

「顧客管理に役立つ」などの漠然とした情報を与えられても、具体的にどう活用すればいいのかが分かりません。

営業担当者ならCRMツールを活用するメリットを理解してくれるだろう、といった過信は禁物です。

導入から運用までのロードマップを描き、進捗状況を確認しながら着実にツールの認知度を高めていくべきでしょう。

ツールを導入したものの活用できなかった、というDXの失敗事例は探せばいくらでも出てくるほど数多く見られます。

今回紹介した事例は、まさしく「CRMを形だけ導入してしまい、利便性を理解していない」典型例だったのです。

このような失敗パターンに陥らないためにも、ツール導入ありきのDX推進は避けなくてはなりません。

遠回りのように思えても、事業・経営課題から逆算して必要なツールを選定するほうが結果的にDX推進の近道となるでしょう。

まとめ

・ツールを導入しても活用し切れない失敗パターンは非常に多い
・現場にツール導入の目的と効果をあらかじめ伝えていないのが失敗の一因
・根本的な原因は、事業・経営課題から逆算してツール導入を決定しなかったこと

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