「現場の意見」はDX推進の障壁になり得る
事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第4回は「現場の意見を取り入れること」について考えていきましょう。
現場の意見を取り入れると聞くと、良いことのように思えますよね。
しかし、実は現場の意見こそがDX推進を阻むリスク要因になり得るのです。
このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。
自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。
ぜひ参考にしてください。
本日の事例
DX推進チームが発足しておよそ1ヶ月半。
これまでに出された案は次の3点です。
パッケージ版のアプリをクラウドサービスに移行する
ペーパーレス化に向けてクラウドストレージを導入する
スマホで会社の電話番号を使うためにクラウドPBXを導入する
どれも加賀さんにとっては違和感しかない案でした。
(前回のエピーソードはこちら↓)
しかし、中堅社員2人を説得して再検討を促すことはできませんでした。
3案が挙がったところで、吉田係長は「現場にヒアリングをしたほうがいい」と言い出します。
ここでも、加賀さんは中堅社員2人の会話に疑問を感じたのでした。
事例の解説
新しい施策を実行に移す前に、現場の意見を聞くのは一般的に良いことと思われがちです。
しかし、既存の仕事の進め方を変えたくないというのが現場側の自然な反応といえます。
現場サイドとしては、直近の業務に支障をきたすことを最も危惧しているからです。
実際、新たにツールを導入した結果、不便になった・以前のほうが使いやすかったという意見が出るケースはめずらしくありません。
現場の担当者がDX推進を歓迎するとは限らないのです。
加賀さんが担当した営業部から挙がった意見は、いずれも「現状」を基準に考えているものばかりでした。
DX推進チームが何をしようとしているのかが分からないため、多くの人は「急激に変えないでほしい」と感じるはずです。
ヒアリングの対象を広げれば広げるほど、現場寄りの無難な意見に集約されていくでしょう。
DX推進は先に目的を掲げるからこそ有効であって、現状を基準に考える限り根本的な改革から遠ざかってしまうのは避けられません。
事例の間違いポイント
この事例の最大の間違いポイントは、現場の意見に振り回されていることです。
現状ありきで議論を進めてしまうと、結果として現状維持に傾きがちになるのは避けられないでしょう。
DXは既存の事業モデルや仕事の進め方自体を変革する可能性があるため、現場から反発されることも少なくありません。
極端な話、DXによって不要となる部署やポジションが表面化することも想定できます。
もし現場の意見を聞くのであれば、現状抱えている課題を抽出する際の参考資料に留めるべきでしょう。
DX担当者は現場からヒアリングした事柄を真に受けるのではなく、抽象度を高めて課題を深掘りしていくことが大切です。
DXは事業企画や経営企画とも関わりの深い施策といえます。
Y社のDX推進チームのように「現場の不便を解消する」ことがミッションに掲げられているうちは、DXは実現しません。
自社が今後進むべき方向性や、将来的に達成すべき経営課題を解決することこそがDXの役割なのです。
まとめ
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