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DXは推進したい、でも電話は手放せない

事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第3回は「電話」について取り上げます。

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーに新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田・松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている。DX推進チームの意思決定者。

本日の事例

DX推進チームのメンバーとして加賀さんが抜擢されてそろそろ1ヶ月。

これまでも先輩社員との感覚の違いにカルチャーショックを受けていた加賀さんでしたが、認識のずれが決定的になる出来事がありました。

それは、電話についての話題がチーム内で挙がったときのことでした。

その日、吉田係長は打ち合わせをこう切り出した。
「岩崎役員に提案するにあたって、避けて通れない重要な議題について話し合っておかないと」
加賀には何のことか分からなかったが、松井はすでに吉田の考えを察しているようだった。
「電話、ですね」
「その通り。やはり、オンプレミス型PBX(構内交換機)を設置するほうが良いのだろうか」
「いや、クラウドPBXでしょう」
どうやら、スマホで会社の電話番号を使えるようにするための仕組みについて話し合っているようだ。
加賀はしばらく2人のやり取りを黙って聞いていたが、ふと会話が途切れたタイミングでこう切り出してみた。
「固定電話番号を使うという前提になっているようですが、なぜ固定電話の番号にこだわるのですか?
吉田は「そこから説明しなければならないのか」と半ばあきれ顔だ。
松井が吉田の考えを代弁するかのように、こう教えてくれた。
「市外局番のないIP電話の番号だと、信頼できないと思うお客様もいるでしょう?それにスマホ同士だと内線も使えないし」
加賀はますます訳が分からなくなっていた。
「チャットが使える時代に、固定電話番号がどうしても必要ですか?それに、内線で電話を取り次ぐ必要もないかと思うのですが」
「どこの会社の人間か分からない人を、信用できると思うか?内線で電話を転送できなかったら、どれほど不便か考えてもらいたい」
明らかに苛立った様子で吉田がそう言い放った。
「全国どこからでもこのオフィスの電話番号で発着信できる時点で、市外局番の信頼性は揺らいでいるのではないですか?」
「だから、そういうことを言っているんじゃない!」
「加賀くん、さすがにそれはまずいよ。チャットがあれば内線は必要ありません、と岩崎専務に提案できる?」
吉田をなだめるように、松井が割って入ってきた。
実際、チャットを有効活用すれば社員間で内線を使用する頻度は相当下がるはずだ、と加賀は考えていた。
だが、火に油を注ぐことになると思い、自分の考えをその場で2人に伝えるのは控えた。
中堅社員2人の会話は、それからも「会社の電話番号を使うこと」を前提に進んでいった。
どうしても、従来通り会社の電話番号を使って社内外と連絡を取り合いたいようだ。

事例の解説

先輩社員と加賀さんの考えが平行線を辿っている原因は次の通りです。

  • 吉田・松井→市外局番の電話番号は必須であり、会社としての信用に関わる重要な問題と捉えている

  • 加賀→そもそも連絡手段として電話が最重要ツールとは考えていない

たしかに代表番号に関しては、依然として市外局番の電話番号が望ましいとされるケースはあります。

しかし、業務で日常的に使用する連絡手段は、必ずしも「電話」でなくてもよい。

まして、「市外局番」に固執する理由はない、と加賀さんは考えています。

DX推進において、意外と鬼門になりやすいのが「電話」の扱いです。

日常的に電話を使って仕事をしてきた人は、電話なしで業務を進めるのは「あり得ない」と感じる傾向があります。

チャットツールを導入することはあっても、電話とは別の連絡手段と認識しているケースもあるようです。

電話の即時性・双方向性が有効なケースはたしかにありますが、まずは「電話は必須」という前提を疑ってみる必要があるでしょう。

事例の間違いポイント

DX推進は「痛み」を伴うことがあります。

これまで長く続いてきた習慣を変えなくてならないケースや、仕事の進め方が大きく変わるケースもあるからです。

吉田係長・松井さんは、現状の習慣を維持したままDX推進に取り組もうとしています。

そのため、社外で電話の発着信に対応するには「会社の電話番号」が必須になると考えているのです。

しかし、今や社員がフルリモートで就業している企業も決してめずらしくなくなっています。

あらゆる会社には必ず「オフィス」があり、「固定電話用の電話番号」があるとは限りません。

慣れ親しんだ習慣を一切変えることなく、DX推進に取り組むのはほぼ不可能です。

もし連絡手段にDXのメスを入れるのであれば、取り組むべき課題は「電話を使い続けるための方法を考えること」ではありません。

むしろ「連絡手段は電話でなければならないのか」「ただの思い込みではないのか」を本質的に問うべきでしょう。

まとめ

・DX推進において、電話は鬼門になりやすい
・そもそも電話が必要不可欠かどうかを検討するべき
・DX推進は痛みを伴うことがある

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