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DX推進は「内部調整」では成就しない

事例で読み解く「間違いだらけ」のDX、第6回は「内部調整とDX」というテーマを取り上げます。

岩崎役員に提案を一蹴されてしまったDX推進チームは、どのように方向転換を図っていくのでしょうか。

このマガジンでは、さまざまな事例から「間違いだらけ」のDXを読み解いていきます。

自社に当てはまる事例がないか、DXの認識にずれがないか、チェックする上で役立つでしょう。

ぜひ参考にしてください。

【当コラムの登場人物】
加賀:中堅メーカーY社に新卒で入社して3年目。新設されたDX推進チームに抜擢された。
吉田・松井:DX推進チームの先輩社員。2人とも30代半ばの中堅社員。
岩崎:加賀の勤務先で執行役員を務めている50代男性。DX推進チームの意思決定権を握っている。

本日の事例

岩崎役員に「ビジョンがない」と言われてしまったDX推進チーム。

チーム発足から2ヶ月近くが経っており、本来なら提案を固めておかなくてはならない時期です。

提案内容が振り出しに戻ったことで、DX推進チームは浮き足立っていました。

(前回のエピソードはこちら↓)

岩崎役員への提案が通らなかった日の午後、DX推進チームは臨時のミーティングを行った。
おそらく吉田はこの数時間のうちに、頭をフル回転させて次の一手を考えていたのだろう。
朝のプレゼンから半日も経っていなかったが、少々やつれているように見えた。

ミーティングで最初に口火を切ったのは吉田だった。
「午前中の件は本当に申し訳ない。しっかり根回しをしておくべきだった」
加賀はてっきり岩崎役員から助言のあった「ビジョンの策定」から話を始めるものと思っていたため、不意を突かれた気がした。
「たしかに、前もって岩崎役員に打診も何もしていなかったから、そこは反省点ですね」
どうやら2人は提案内容に問題があったのではなく、話の通し方が良くなかったと考えているらしい。

吉田が殺気立っている気配を察して、加賀はめずらしくこんな質問をしてみた。
「たとえばですが、今後岩崎役員に話を通しておくとしたら、どんなことをするべきでしょうか?」
そうだな、と言って吉田は腕組みをし、天井を眺めながら答えた。
「現場のヒアリング結果をまとめて、要点を岩崎役員に伝えておくとか?」
「自然な形で伝えるなら、いっそ岩崎役員と飲みに行くのがベターかもしれないですね」
吉田を気遣うように松井が言い添えた。
「ああ、たしかに。途中の苦労話なんかも、諸々込みで話せるだろうからね」
臨時に開催されたミーティングは「岩崎役員対策」が議題のような内容となった。

吉田と松井の見解はこうだ。

・岩崎役員は現場の実態を把握しておらず、提案内容の重要性を理解していない
・順を追って話を通していけば、今日のような結果にはならないはずだ
・役員という立場上、稟議を通す意義が明確な提案のほうが承認しやすいだろう

加賀は2人の会話を聞きながら、岩崎役員の安堵したような目の光を思い出していた。
(岩崎役員が望んでいるのは、こうした内部調整ではないだろう。このままでは同じ轍を踏むことになってしまう。)
加賀の不安をよそに吉田と松井は「岩崎役員対策」を確認し合い、次の提案へと話題を変えようとしていた。

事例の解説

DX推進チームに岩崎役員が要望したのは「ビジョンを持ってDXを進めてほしい」という点でした。

ところが、吉田係長と松井さんは岩崎役員の個人的な解釈の問題として片付けています。

中堅社員は在籍年数が長いこともあり、社内の事情に詳しくなっているケースが少なくありません。

しかし、社内事情に詳しいことが仇となって目を曇らせてしまうこともあるのです。

吉田係長や松井さんが言うような根回しをしていたとしても、今回の提案は通らなかったでしょう。

なぜなら、岩崎役員が求めている「ビジョンに根差したDX推進」とは程遠い提案内容だからです。

加賀さんの懸念通り、問題の本質は「内部調整」ではないのです。

事例の間違いポイント

今回の事例は、DX推進に限らず企業内でしばしば見られるシーンです。

キーパーソンの承認を得ることが、仕事を進める上で重要となるのは事実でしょう。

しかし、話を通すことは目的を達成するための手段であって、根回しさえすればあらゆる提案が通るわけではありません。

前掲の事例に関して言えば、「論点をすり替えている」ことが最大の間違いポイントです。

岩崎役員は「ビジョンがない」ことが提案を承認できない理由だと、明確に伝えています。

ところが、中堅社員の2人はここに独自の解釈を加え、「根回し」へと論点をすり替えてしまっているのです。

DXは組織の内部から進むとは限らない点に注意してください。

Netflixの台頭によってレンタルDVD店がECサービスを始めざるを得なかったように、外圧がDXを余儀なくさせることもあるのです。

内部調整ではDX推進は成就できません

社内の意思決定者を納得させられるかどうか、といった卑近な問題に埋もれている場合ではないのです。

まとめ

・DX推進は組織内部の理論だけで解決できるものではない
・内部調整に気を取られていると、問題の本質を見失う恐れがある
・DXを余儀なくさせる要因は、業界外や国外から到来することもある

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