見出し画像

中二病でも「連続体仮説」と「不完全性定理」を理解したい!②

前回:https://note.com/ktkusayama/n/nbd635cc42562

「連続体仮説」は「現在の数学では真偽が決定できないことが証明されている」という中二病をくすぐる定理である。

ここから連続体仮説の解決(?)までの歴史を見ていくが、先に大まかな流れについて触れておく。

①無限集合の登場によって集合論は再整備を余儀なくされる。
②集合の大きさを図るために「濃度」という概念が発明される
③自然数集合より実数集合が”大きい”ことをカント―ルが証明する
じゃあその二つの集合の間の濃度ってあるの?→連続体仮説
④ないとはいえない by ゲーデル & あるともいえる by コーエン
やっぱり否定も証明もできないもんがあるやんけ!→不完全性定理 by ゲーデル

今回はその内容を理解するために、②にある数学の「濃度」という概念に触れる。

ユークリッドの誤算

大昔にユークリッドというえらい数学者がいて、彼は『原論』という著作のなかで「全体は部分より大きい」ということを公理として述べた。公理というのは、数学で証明なしに正しいとしてよい「当たり前」の事実だ。

確かに、大阪府より日本の方が大きいし、お笑いコンビより吉本興業の方が大きいし、1から100までの数の自然数は偶数より多い。しかしこれはあくまで「有限」の集合の話であって、無限集合では勝手が変わってしまう。

前回も触れたが、「自然数の集合:1,2,3,4……」と、その部分集合としての「偶数の集合:2,4,6,8……」というものを考える。これらは2つとも無限個の要素をもつ。

しかし、自然数の集合の要素一つ一つを取ってきて2倍してやれば、すべての自然数に対応する同じ個数の偶数がつくれてしまう

画像1

そうなると偶数の集合は自然数の部分集合であるにも関わらず、「自然数の集合の要素の個数」=「偶数の集合の要素の個数」となってしまい、上の公理と矛盾する。これは困った。何が困るかというと、ある集合が何らかの部分集合かどうかという関係性(包含関係)だけでは、集合の大きさを比較できないということになってしまう。なので、新しく「濃度」という概念が発明された。

君とは集合としての”レベル”が違うのさ――濃度

すごくざっくりと、簡ッッッ単に言ってしまえば「レベル」みたいなものだ。「大きさ」や「要素の数」という言葉を使うとまずいので、新しい言葉を作ったのである。

まず一番最初のℵ_0(アレフゼロ。0は添え字)というのが濃度界の基本階層。これが何なのかというと、「自然数で番号を割り振ることができる無限集合のレベル」を表している。ちなみにこの「自然数で番号を割り振ることができる集合」のことを、数え上げ可能な集合という意味で「可算集合」という。

(1)まず自然数集合の濃度は当然ℵ_0である。1番目の自然数=1、2番目の自然数=2…というふうに番号を振ることができる。
(2)偶数の集合や素数の集合も濃度はℵ_0である。「〇番目の偶数」「〇番目の素数」がそれぞれの番号に対応して存在する。
(3)少し工夫が必要だが、整数の集合や有理数の集合、ガウス整数、代数的数の集合といったものの濃度もℵ_0とわかる。(それぞれのリンクに証明・解説があるので参照されたし)

実数よ、問おう、汝はℵ_0か?

この濃度の概念によって、ようやく無限集合のレベルが比較できるようになった。だがこの感じだと、だいたいの集合が可算集合のような気がする

では実数はどうだろうか?むかし学校で数直線を描いた記憶があると思うが、実数というのはあの数直線上にびっしりと並んでいる。1も0も√2もπも、そしてとくに名前のない数もぜーんぶ並んでいる。こいつら全員に番号付けをすることは可能なのだろうか?

数直線には端っこがないので、ためしに0に近いやつから順番に番号を振ってみよう

1番目の数→0
2番目の数→a:0に一番近い数

しかしこのように仮定すると、「aを2で割った数」という数は0とaという数のあいだに存在することになってしまい、aが0に一番近いという条件に矛盾する。うーん、0から近い順に番号を振るのは無理だ。他の方法を考えないといけない。

というかそもそも、実数に番号を振るということは可能なのだろうか

もしそれが不可能(=自然数では足りないくらい数がある)のなら、これは可算集合より上のレベルの集合があるということになる。

この問題に結論を出したのが、カント―ルというこれまたえらい数学者だ。次回はこのカント―ルが用いた「対角線論法」という、シンプルかつ強力なテクニックを解説する。

(2021/03/18 続き:https://note.com/ktkusayama/n/n94dd7ef884f3)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?