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「銀行の利息で切り捨てられた端数を着服する」という事件は本当にあったのか?

こんな話を知っているだろうか?

1960年代後半、アメリカ・ニューヨークの銀行で、プログラムに細工をして1セント未満の端数処理を四捨五入からすべて切り捨てに変更し、切り捨てられた端数を自分の口座に振り込ませるように改竄する事件があった。
サラミ法 - Wikipedia

これに類似した犯罪のトリックが、映画『スーパーマンIII/電子の要塞』やアニメ『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』に登場する。ほかの作品でもモチーフになっているので、なんとなく聞いたことのある人も多いだろう。

しかし、この事件を詳しく調べようとしてもふわっとした情報しか出てこない。それどころか、ドイツの事例として書かれていたり、銀行ではなく一般企業の話になっていたりと、輪郭がつかめない。そもそもこんな事件は存在せず、全くの都市伝説かもしれない。

なので一度きちんと調査してみた。

上のWikipediaのノートページに行くと、このような議論があった。

サラミ法の例の中で、 「銀行預金の利息を着服する 預金の利息計算時には必ず1円未満の端数が生じる。この端数は微々たるものであるが、全ての口座から端数を集めれば大金になる。 このことから、勘定系のシステムを設計・構築する際には、1円未満の端数を常に考慮し、丸め処理を行う際には細心の注意を払う必要がある。」

上記は、サラミ法の説明でよく出てくる例ですが、実際にこの例による被害を受けた金融機関はあるのでしょうか? 調べても、出てこなかったのですが? --Oiteke 2008年7月9日 (水) 14:44 (UTC)

英語版en:Salami_slicingの外部リンクにそれらしき事例があがっています。 Frequently Used Cyber Crimes 情報処理技術者試験等ではドイツの銀行で起こったとされてますが、ソースが見当たりませんでした。 --210.228.203.35 2008年7月21日 (月) 14:52 (UTC)

コンピュータ・パニック/那野比古/中央公論新社/中公文庫によると 1963年の米国「ロイス事件」(世界最初のコンピュータ犯罪でもある)の手口はサラミ法です。 ただし被害者は金融機関ではなく一般企業です

ノート:サラミ法 - Wikipedia

「英語版en:Salami_slicingの外部リンク」とされているリンクは切れておりサルベージはできなかったが、「ロイス事件」というキーワードが出た。「ロイス事件」で日本語検索しても情報はなかったのだが、「Royce computer crime」で検索すると、ビンゴ!それらしき情報が複数見つかった。

Crime by Computer | Reader's Digest New Zealand

 Phone porting and identity theft - Great Moments In Science

Vital Science (リンク先Googleブックス)

これらの情報を照らし合わせると、全貌はこのような感じになる。

・アメリカにある、青果の卸業会社で会計士をしていたEldon Royceという男性が1963年に行った犯罪。
・流通の管理プログラムを書き換えることで1セント以下の端数を切り捨てて余剰分とし、自分が設立したダミーカンパニーに小切手で振り込むことで帳尻を合わせていた。
・6年間で100万ドル以上を着服。現在の価値で1500万ドル以上。
・しかしその作業が面倒くさくなり途中でやめたところ、それまで切り捨てられていた端数分の利益が見かけ上急増。それに気づいた人によって問い詰められ、自白。検挙にいたる。

大きな相違は「銀行の利息」ではないということだ。たしかに銀行を相手取った犯罪の方が”ロマン”があるため、このように改変されたのかもしれない。実際には映画のような大犯罪というより、一企業内で起こった会計士の着服である。しかし「最初期のコンピューター犯罪」として今日まで語り継がれているというわけだ。

冒頭のWikipediaのページでは「1960年代後半」となっており、Royceが犯行を開始した1963年から6年後=1969年と考えれば、これもつじつまがある。ロイス事件が元ネタと考えて間違いないだろう。

幽霊の正体見たり、といった感じだが、Wikipediaを書き直すのは……ちょっとめんどくさいな。誰かお願いします。

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