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はたらく、ということ。

たまたま掃除をしていたら、大学院に入学したときに書いた自己紹介が出てきた。一言スペースという欄に「電柱にぶつかっても謝れるような人になりたいです」と書いていた。当時は心からそう思っていたのに、今では電柱にぶつかったらその場で暴れだしてしまうかもしれない。

私がまだ院生で、進学しようか迷っていたとき、周りの大人たちには「社会にでるべきだ!」と言う人がとても多かった。

未だに印象的なことは2つあって、そのひとつが、知り合いの40代の人に「研究室の先輩たちも先生もとても親切」と言ったら「それは社会に出てないからだ!社会を知るべきだ!」と言われたこと。
当時の私は純粋で、きっとこの人たちは私のことを考えてアドバイスしてくれてるのだし、それにはできる限り耳を傾けたいと思っていたから、社会を知ると言うことはとても大切なんだな、とぼんやりと思っていた。今振り返ると、親切であることの何がダメなんだろう?と思うけれど。

そして、実際に社会に出て、所属もしてみたり、少しだけれど自分で色々とやってみたりして、世の中にはとても色んな人がいるんだということがよくわかった。もちろん学生の頃のバイト時代にも色々あったけれど「社会を知らないから親切」という言葉を身に沁みて感じることになった。
理不尽な要求、様々なハラスメント、理由のない八つ当たり、などなど。働きだして半年した頃から、病院にお世話になりはじめ、酷いときは傷病手当といった天引き保険料にもお世話になった。様々な症状があって、良くなったところもあるけれど、働きだして約5年がたった今でも全部消えることはない。
それに伴って、前の自分が消えていくというか、変わっていく感覚が強くなってきた。東京に日帰りできてた自分とか、ラーメン屋さんをはしごしてた自分もいないし、自分が悪くなくても謝る自分、とりあえずニコニコしている自分もいなくなってしまった。

前は、何か理不尽なことを言われても、謝って丸く収まるならそれでいいと思っていたし、たとえ大きな声で罵られても、落ち込みはするけれど相手の気持ちが収まるならそれでいいと思っていた。
けれど、社会を経て、そんな気持ちは徐々に薄らいでいき、なぜ理不尽なことに対して謝らないといけないのか?なぜ大声を出されないといけないのか?と思うようになってきたし、とりあえず笑うことも減った。
もちろん、理不尽に怒鳴られっぱなしよりも、そのほうがいいんじゃないか?と思うときもあるが、時々前の自分が出てくるときがあると、少し安心する。要約すると、基本的に心が荒んでいるんだろうな、と思う。
似たような人はいるのかな、と検索してみると、「前は何も考えなくても人に優しくできていたのにできなくなった、どうすればもっと大きな心で世間と関われるのか」と知恵袋で質問している人がいた。あ、似た人がいるんだな、と少し安心した。けれど、こんな風になるのなら、別にずっと学生でもよかったと思う。あの時私に社会に出ろといった人たちはきっと自分が言ったことすら覚えていないだろうし、もちろん責任をとってくれるわけでもない。結論、若くてバカな女の子に説教したかったおじさんたちが、若くてバカな女の子だった私に言いたいことを言っただけのことだ。

なので、特に若い女の子たちには、是非自分が思う道を進んでほしいなあと思う。もちろん、アドバイスを聞くことも大切だけれど、相手の言い方や態度から、本当に自分のことを思っているのかどうか見極めて、それから取捨選択すればいい。
病気になったり、気持ちが落ち込んでからじゃ取り戻せないものはたくさんある。

ちなみにもうひとつ印象的だったことは、博士過程の人とお店でごはんを食べながら話していたら、近くの席の人が話しかけてきて、最終的に博士課程の人に向かって「長いこと学生なんてしてないでさっさと働け!」と言っていたこと。今の私なら確実に言い返していると思う(というか、どうして初対面の他人の人生にもの申したいのかが不思議で仕方ない)。

はたらくということは、思ったよりも過酷で、けれど無ければ無いで、自分がどこにもいないような、無価値な人間であるようにしか思えなくなる。上流階級の人間ではないので、生活のお金を得るためというのもひとつだが、世界の中で私みたいな平凡な人間が、どうにか価値を捩じ込めるところがそこくらいしかないのだ。そういうわけで、今日も明日も、少しでも自分の存在を自分が認めるため、世界の一部にねじりこむ。

ただ、こんな状態になっても放り出さないでいてくれた職場や、英語を長く続けてくれている人たち、無理しなくていいからね、と言ってくれる周りの人たちには感謝しかない。前みたいな純粋な頃にはもう戻れないけれど、それはそれとして、この経験のお陰で得られたことは心に留めておきたい。


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