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エンドロールフェチのエンドロールレビュー ~比較的新しいもの四者四様~

2021年に入ってから特に印象的だった4作品を挙げたい。もちろん、エンドロールの話だ。ただ、エンドロールがいい映画は本編もほぼ例外なくいい。経験則から言えるが、かといってエンドロールを先に見て映画を見るか見ないかを判断することはできないし、本編がよかったからエンドロールが記憶に深く刻まれるというだけのことかもしれない。

1.DAU.ナターシャ(2021年、イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ監督)

 ソ連全体主義の社会をとんでもない規模で再現した「DAU」プロジェクトの入り口、プロローグ的な作品と理解している。これは一つの映画ではなく、巨大な実験といってもいいと思う。その規模を表現するのにたびたび使われる文言は「オーディション人数約40万人、衣装4万着、欧州史上最大の1万2000平米のセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40カ月、35ミリフィルム撮影のフッテージ700時間」など、15年間をかけて撮影されたというから驚きだ。

 すごいのはその規模だけでない。キャプテンアメリカでも生み出そうかという人体実験が行われる施設の、食堂をメインの舞台にして、店主の女性「ナターシャ」を主に追いかける。衝撃の展開あり、唐突に迎えるラストは、今後の「DAU」への期待を煽りに煽る。実際、今月に入って6時間にも及ぶ続編「DAU.Degeneration」の公開が発表された。

 そんなDUAの記念すべき第1作、「ナターシャ」のエンドロールはまた、衝撃的なものだった。なんと、すべて無音、なのだった。本編が終わり、暗転、すると機械的なフォントの文字がすーっと、計測こそしていないが、一般的なエンドロールよりもすこし速めのスピードで上から下に上がっていく。ものすごい人数で、言語は英語でもないようなのでどう発音するかわからない名前も多く、1人の名前を解読しようと考えるとすぐに過ぎ去っていく。まるでこの実験の記録を流しているだけのようで、不気味さが際立ち、ジョン・ケージの4分33秒のように、自分が生唾を飲み込む音や、他人が息を殺す音まで聞こえてくる特異な時間を体験した。次回作もおそらく同じ演出だろうから、これはエンドロールを期待して見てもいいかもしれない。

2.ミナリ(2021年、リー・アイザック・チョン監督)

 改めて語るまでもない話題作。ポスターには「アカデミー賞最有力!」と、実際に作品賞、監督賞に輝いたノマドランドとだだかぶりのキャッチフレーズが大書されていたのだが、おばあちゃん役のユン・ヨジョンが助演女優賞に輝く快挙も成し遂げ、実際に傑作と呼べる作品だったと思う。個人的には、ウォーキングデッドでグレンを演じたスティーブン・ユァンが好きなので眼福だった。

 エンドロールがまた良かった。ボーカル曲が流れ、画面右側に縦書きの字幕が表示されるおそらく伝統的なもの。カタルシスを超えて明るいラストを迎え、静かに曲が始まる。曲名は「Rain Song」、歌うのは母親役を務めたハン・イェリ。改めて歌詞を見ると、自然とともに生きることを選んだ母の目線で歌った歌のようにも思える。

 エンドロールでは、曲がフェードアウトして消えるのに合わせ、自然音が聞こえてくる。そんなことをされるともう一度、映画の世界に呼び戻され、名残惜しく、後ろ髪を引かれるようだった。しばらく座席に座っていたかったが、早々にほうきとちりとりを持ったスタッフが現れたので退散した。

3.きまじめ楽隊のぼんやり戦争(2021年、池田暁監督)

 こんな戦争映画は見たことがなかった。棒読みに近いセリフ、決まった動線、規則正しい方向転換、無駄な身振り手振りを廃し、人形のような演技をする人たち。川の向こうの町との戦争を描きながら、実際に映されるのはほとんどがこっちの町の狭い世界のみ。タイトルにもあるように音楽(トランペット)がキーになっていて、演奏のシーンでむしろ感情が強く表現されていた。

 別役実や星新一のような、ざっくり言えば不条理なブラックコメディ。しかし、笑えない。滑稽だが悲惨。それが戦争か。エンドロールは縦書きの名前が画面左から右に流れていくのだが、上半分には監督が描いたらしい、お世辞にも上手とはいえない、でもかわいらしくて味がある、アニメーションが流れる。それは劇中のシーンを簡略に表したもので、ああこんなこともあったなと、思い出を振り返るような時間だった。このアニメーションは公式サイトを開いた時のロード画面で一部同じものが流れる。

 ちなみにイラストでいうと、公式サイトには吉田戦車やドリヤス工場による一枚絵もおすすめコメントと一緒に見ることができる。

 おそらくマイナーな部類に入る映画なのだが、人に「最近何か面白いのあった」と聞かれればまずこれを紹介して多くの人に見てもらいたい一作となった。

4.私をくいとめて(2020年、大九明子監督)

 斬新で突飛な演出ものんちゃんの演技力だからこそ受け止められる。よくあるラブコメとはまた違う、この作品ならではのヒヤヒヤ感がたまらない。演出面では、のん(もしくはエーと)の内面世界を描くときに、光の当たり方が変わったりふわふわと風船が飛んできたりするのが演劇作品のようで面白かった。

 もうエンドロールの話をしてしまうと、タイプ的には「あん」と同じ。映画が終わり、エンドロールが始まっても物語が続いている。2時間、のんが、2人がどうなってしまうのか、見守ってきた観客は、というか私は、あの先をもっと見ていたかったのだ。2人の歌から実際の曲に入るのもいい。そういえば、最近ネットフリックスで配信が始まった「朝が来る」は、曲から子供の生歌に入るバージョンだった。アカペラの生歌は映画館で聞くと、すごく響いて、ちょっとこっちが恥ずかしくなってくるんだけど真っ暗だからお互いの顔も見えないし、何か覗き見のような悪いことをしているみたいでよいものです。

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