母の日はありがとうっていう日じゃないと思う。

小さい頃から、母の日にお母さんに感謝を伝えたことがなかった。学校でもテレビでも、「母の日にありがとうを言おう」って言っていたけど、照れ臭くて言ったことがなかった。

恥ずかしいことに、二十歳になった今でも母の日にありがとうと言ったことがない。

数年前、母の日なんてすっかり忘れてしまっていたとき、お母さんと本当に小さなことで口喧嘩をした。今はもう思い出せなくらい小さなことだった。どうせいつもみたいにすぐお互い忘れるだろうと思っていた。けど、その日は違った。最後にポツリと、「今日なんの日か知ってる？母の日なんだよ」と言われた。

母の日だからって期待をしてくるお母さんが嫌で、なんでそんなこと言うんだって、無視をした。

こんな出来事、しばらく忘れていた。あの後すぐいつも通りに戻って、こんなことがあったということ自体忘れてしまっていた。

去年、二十歳になった。ちょっとだけ背筋がシャキンとして、大人の仲間入りだし、ありがとうって言わなきゃって、朝起きてすぐに小さな声で言った。照れ臭くて顔は見られなくて、聞こえるか聞こえないかくらいの、本当に小さな声で。

「やっとここまできたね。もう二十歳だね。おめでとう。」お母さんも、こっちは見てなかったけど小さな声でそう言ってくれた。

二十歳になったって何も変わらないと思っていたけど、半年経ってみると思っていたよりも意識が変わっていることに気づく。小さなことでもありがとうと言えるようになった。「ごめんそこのカバンとって、ありがとう。」「ごちそうさま、ありがとう。」

最近ようやく顔をみて小さなありがとうを伝えられるようになった。まだまだきちんとは言えてないけれど、さらっと流してしまっているけれど、ちゃんと顔を見られるようになった。

ありがとうは、母の日だからっていう言葉じゃない。一年に一回だけのありがとうで、お母さんの苦労が報われるわけじゃないから。

場がセッティングされた母の日にありがとうとは言いたくない。期待通りの球を投げたって、つまらないじゃない。母の日は、いつも通りの自分で、まぁでも少しはいつもより優しい気持ちで、態度で示したい。ありがとうっていう言葉は、母の日じゃなくたって言っていくって決めているからさ。