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キリストと私

青森県にキリストの墓があるらしい。ローマ帝国への叛逆者として、ゴルゴタの丘で十字架に磔刑に処された筈だが、実は弟のイスキリを身代わりにして極秘来日、青森県新郷村に辿り着き、結婚して三人の子を授かり106歳まで生きたという。長生き。是非、行ってみたいと思うがウチから青森は遠い。遠過ぎる。キリストに会うのは、ヤメだ。

YouTubeを観ていたら、キリストがいた。より正確に言うなら、私の描くキリストのイメージそのまんま、ロン毛に髭、丸メガネ、短パン姿の男性が、山に登ってガスバーナーで湯を沸かし、飯を食っていた。その山はどうやら福岡近郊で、なんだ、すぐそばにキリストを発見した訳である。まあキリストの時代にメガネは無かっただろうから、正体はジョンレノンなのかも知れない。私はコメントを送信した。聖⭐︎おにいさん、みたいでカッコよかです!と。次の動画が公開された。聖⭐︎おじさん、と題し坊主のブッダが登場した。私は驚愕した。本物だったんですか、とコメントを送った。角野卓造じゃねえよ、のノリで、イエスキリストじゃねえよ、的な返答を期待したが、キリストは、え?何が、と困惑しただけのようであった。YouTubeチャンネルの概要欄を覗くと、キリストは花屋と喫茶店の二足の草鞋を履いているらしい。

で、私はその花屋兼喫茶店へ行った。梅雨入りしたけど、晴れて蒸し暑い日だった。

瀬川瑛子のゆっくりした声で「なんで男性がいるの。あなた、イカ臭いのよ。出てって頂戴」と言われたら、私は急いで出て行っただろう。その花屋兼喫茶店はどうやらなかなかの繁盛店人気店であるらしく、私以外の客は全て女性であった。一階が花屋で吹き抜けの二階が喫茶スペース、真空掘り炬燵、空中囲炉裏のように四角に切り落とされたスペースを取り囲むように席が十席程設えてある。切り落ちた空間を見下ろせば、一階の花が見える仕組みである。オシャレである。イカしている。イカ臭さは、ゼロだ。周囲は全員女子、女子トイレに紛れ込んだおじさんの図、だ。福岡の女の子は可愛いなんて聞くが、その場には馬鈴薯みたいな女子、南瓜みたいな女子、薩摩芋みたいな女子、狸土竜狐と決して皆器量が優れている訳では無かった。私はクリームソーダを注文した。一品一品丁寧に作っているようで、結構待った。スプーンが小さくて可愛かった。最後の方は氷が溶けてきたらシロップをかけてかき氷のようにして食べて下さい、と女性店員氏から教わった。美麗な人だったが、オノヨーコには全然似ていなかった。飲み終わるのに、食べ切るのに、時間が掛かった。その時間でかけうどんなら三杯くらい食えそうだった。早めに出ないと気まずかったのに。

キリストにYouTubeを観て来店した事を伝えると、そんな人間は初めてである、と喜んで呉れたようである。実際はキリストというよりジョンレノンでジョンレノンというより、単に雰囲気イケメンイケオジ的な人であった。

私は帰り際に、YouTubeコラボしましょうよー、軽口のように言った。後から、ちょっとめんどくせえな、と思った。自分から言い出したのにも、関わらず。



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