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胸を打つジャンプ

北海道清里町に”さくらの滝”という名所がある。

さくらの滝では6月から8月にかけて、川を遡上するマスが滝をジャンプする光景が見られる。

清里町は大学時代に合宿でお世話になった場所だ。ホクレンディスタンスが開催される網走から距離が近いこともあり、社会人になってからも顔を出している。

オフの日曜日、今年もガタンゴトンと電車に揺られて清里町へと出向いた。地元の子どもたちと少し走ったあと、さくらの滝に連れて行ってもらった。

だだっ広い砂利の駐車場に車を止めて、踏み固められた土の階段を下ると、たくさんのマスがジャンプしている開けた光景が広がる。川を覗き込むと、川底にもジャンプのタイミングを伺うマスがびっしりと広がっている。

川の中のマスには外の様子はわからないのだろう。飛び出す位置が悪かったり、明らかに高さが足りなかったりして、側から見たら無駄撃ちになっているものがほとんどだ。何年も来ているが、滝登りに成功したマスを未だに見たことがない。

毎年たくさんのマスを見てきた上での憶測だが、滝を越えるジャンプ力を備えるマスは全体の1%くらいしかいないと思う。残りの99%は最初から可能性はゼロだ。選ばれし1%のマスが全力を尽くした上で、飛び出すタイミングや川の水量など他の条件も噛み合って、ようやく滝を越えることができる。

しかし非情なことに、それらは飛んでみるまで何もわからない、いや、飛んだところでわかるものでもない。飛んだ彼らに与えられるフィードバックは、成功か失敗かのどちらかだけ。人間社会であればこれほど理不尽なことはないだろう。

しかし彼らはめげずに水の壁にぶつかっていく。自身に滝を越えられる可能性があるのかどうかはわからない。やり方が正しいかどうかもわからない。わかっているのは、何もしなければ絶対に越えられないということだけだ。だったら越えられると信じて全力でやるしかない。そう言わんばかりの力強いジャンプだ。

「がんばれ」と心の中で声を出し、彼らをじっと見守る。彼らが滝を越えるところは一度も見たことがない。見ているのは全て失敗する姿だ。それでも胸がじんと熱くなり、身体の内側からエネルギーがふつふつと湧き上がっていくのを感じる。可能性を信じて全力でぶつかる姿こそが胸を打つのだ。

※画像はきよさと観光協会
https://www.kiyosatokankou.com/sakuranotaki.html
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