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15. ミッション(ようやく)決まる

最近、久しぶりにリーマンサット関係者と会って話をした際に、「2015年の資料がほとんどない」と言われた。確かに2015年は何をやっていたのかあんまり記憶がない。立ち上げの5人で隔週くらいで集まってやいやい話をしていたのは覚えているが、それ以外はわからない。
うーん、なんでだろう、と思っていたらあの頃は正式なミーティングを数か月に一度しかやっていなかった。

リーマンサット第二回の公式ミーティングは、2015年1月から二か月ぶり(ちなみに、その次は6月だったから3か月後だ)。

記念すべき第二回は、いい加減人工衛星のミッションを決定する目的だ。
第一回目では、ぼくら立ち上げメンバー5人と参加者の中から数名その場で出てきた案があったけれど、今回は事前にみんなで案を考えてきて、発表してもらうことから始まった。

というわけで、新しく出てきたミッション案を紹介。
(第一回で出てきたのは省略)

・☆ラジオサット
人工衛星としてラジオ局を打ち上げ、写真、元気が出る音楽、サラリーマンあるあるなど、楽しいコンテンツを配信するというもの。

・☆JTP SAT
JTPはJapanese Traditional Performing Artの略。短歌とか俳句とか能の謡とかを発信する衛星。海外の人にウケそう。

・☆ZOO SAT
NYANSAT? WANSAT? PENSAT? PYONSAT?といろいろ考えられるが、だった全部部まとめてしまえ! という衛星。ちなみに、NYANSATやWANSATならば鳴き声を配信するなど出来るが、PEN(ぺんぎん)やPYON(うさぎ)はどうするんだという質問には、考えていないの一言である。動物関連業界とコラボできそう。

・☆歯型衛星「Tooth SAT」
日本には、乳歯が抜けた時、丈夫な永久歯が生えるよう、抜けた乳歯を家の天井に向かって投げる風習がある。これを人工衛星でやってしまおうというミッション。家の高さを10m、ロケットで打ち上げるのは400kmとすると、実に4万倍の効果がある! という優れモノ。

・☆Food SAT(Sushi SAT)
世界最大の回転寿司を打ち上げるというミッション。付属機能として、海水温をサーモセンサーでモニタリング→魚が育つ適温海域と魚種を定期配信する、上空通過地域に特売スーパー、飲食店の割引券を配信するなど。

・☆ギネスSAT
なんでもいいから、衛星を打ち上げてギネス記録に挑戦するというミッション。ギネス記録が達成すれば、マスコミにも取り上げられ、【リーマンサット】の知名度の向上させる事が出来る。 それに伴い、次回活動で集客、資金の調達などが容易に出来るようになる。
また、「打ち上げ成功」+「ギネス記録」で、達成感がハンパない。素晴らし過ぎる!

・☆宇宙ジャンボ宝くじ
人間が最も興味を持つもの、それは「お金」。というわけで、人工衛星から当選番号を配信するミッション。太陽フレアを観測して出た数値を当選番号にしてしまうなど、宇宙らしい宝くじを予定。

・☆競星SAT
人間が最も興味を持つもの、それは「お金」その2。複数の人工衛星を打ち上げて軌道上レースをさせるというミッション。

・☆Peace Sat
Peaceに関わるミッションを行う人工衛星。スマホアプリを作成して、世界中で同じ時間にアプリを使用している人が一定人数を越えたら衛星が、例えば、衛星が光る→世界中のひとが同じ光を見る、途上国にお金が寄付されるetc…。

・☆360°SAT
ストリートビューやらSRやらなんやらで、最近流行りの全方向カメラで宇宙空間を撮影し、自分が宇宙にいるような映像を作るというミッション。

・☆星に願いを
スペースデブリを捕まえる機能を積んだ人工衛星を打ち上げて、デブリを補足し、大気圏に落として流れ星を作る! というミッション。

・☆スペースシアター
人工衛星をプロジェクター、地球にかかる雲をスクリーンにして、映像配信を行うミッション! 規模デカ!

・☆ヴィーナスSAT
まずAIを作る。そして宇宙空間に打ち上げ、起動すると、地球上の情報に触れないAIができる。宇宙空間を回遊することで、純宇宙的思考を持ったAI、まさに「ニュータイプ」を生み出そう、というミッション。


前回しっかりとリーマンサット的コンセプトを受け付けることができたらしく、社会的、教育的な可能性を秘めた衛星から、ふざけてんのか感満載な衛星まで、なかなかユニークな案が出てきた。

しかしながら、全部をやるわけにはいかないので、「RSP 人工衛星ミッション候補」はみんなからの投票で3案にしぼることにした。

それがこの3つ。

◎kodomo SAT
子供に楽しんでもらうミッションを積んだkodomo SATは、全案の中で最も得票率が高かった。子供を巻き込めば親も巻き込めるし、衛星を利用した教育イベントも考えられる。広く社会を巻き込む、というRSPのコンセプトを体現できるミッション。

◎☆歯型衛星「Tooth SAT」
ふざけてんのか、と言うなかれ。乳歯といえば、子供の歯。これもkodomo SATと同じく子供が関係する衛星。しかも、このミッションが成功すれば、丈夫な永久歯が生える感が従来のなんと4万倍。他の事はどうかわからないが、インパクトは最もでかいミッション。

◎360°SAT
人は本物の映像と造り物の映像を区別することができないそうだ。つまり、視界を宇宙の映像で覆ってしまえば、その人は宇宙にいる感覚になる。一度でいいから宇宙に行きたい! という誰もが持つ願望を、360°カメラを使って実現する、という壮大かつロマン溢れたミッション。

ちなみに、当時のぼくが非常に心残りであったことはNyanSAT案が採用されなかったことだ。しかし、プロジェクトの総意でNyansSATは没になってしまった。まあ、キューブサット作るって言ってるのに猫型衛星はちょっと厳しいので、後々のお楽しみとしてとっておくことになるわけだが、ぼくはひたすら無念だったことを補足しておく。

さてミッション候補が決まったリーマンサットの次のステージは、3つのミッション案ごとでグループに分かれ、それぞれで「必要なこと」を詰めていくことになった。
NyanSATへの思いを心の中にしまいつつ、ぼくはToothSATチームに配属となった。
ちなみのちなみに、この原稿は当時ぼくが残していたミーティングレポートを加筆修正しているのだけれど、ぼくがToothSATチームに入っていたことは今の今まで忘れてしまっていた。ぼく自身はリーマンサットの人工衛星開発には一つも関わっていなかったつもりだったけれど最初のことは関わっていたらしい。

というわけで、ToothSATについていろいろ話をしてみた。

・ToothSATとは具体的になにをするか、ミッションの目標は?
 ⇒乳歯をなるたけ高く飛ばすことができれば、とりあえず成功

・このミッションはどんな特徴があるのか、なんの役に立つのか?
 ⇒1. これまでにない高さに乳歯を飛ばし、永久歯を丈夫にできる(はず)
  2. 乳歯の投擲距離でギネスに載れる(かもしない)

・ミッション衛星の仕様は? 電源、構造、通信方法は?
 ⇒人工衛星の中に乳歯を入れて打ち上げることだけなので電源も通信もいらない

・資金はどうする、どうやって集める?
 ⇒子供の永久歯を丈夫にしたい親たちから巻き上げる、歯医者さんとコラボするなど

・打ち上げ後の運営は? 地上との通信局は?
 ⇒打ち上げそのものがゴールなのでなくてもよいかもしれない。

とまあ、これらはその場で出た意見で、これから、ToothSATとしてよりよいミッション内容はないのか、どんな部品が必要か、お金はどれくらいかかるのか、そしてリーマンサットの大きな目標である「たくさんの人を巻き込む」にはどうすればいいのか。具体的なことを一つ一つ決めていかなければならない。

これまでのリーマンサットは、ただ夢を語っていればよかった。たくさんの人を巻き込みたい、世の中を楽しませる人工衛星を作りたい、宇宙開発を盛り上げていきたい。ぼくらにはやりたいことや理想がある。けれど、これらはあくまでも「ぼくらの考え」でしかない。ただ頭の中に浮かんだことを伝えていただけだ。

しかし、今や空想だけではなく現実に着手していく段階にきたのだ。
プロジェクトの進展をうれしく思う反面、現実を見て行かなくてはいけないことに不安を感じてしまう。
そもそもぼくらは宇宙開発に関しては素人の集団だ。いろいろな人が集まっていて、どんなことができるのか、なにが足りないないのかすらわからない。
逆に言うと、新しいステージである「技術調査」は、できること、足りないことを一つ一つ洗い出して行くことなのだ。

歩みとしては微々たるもので、専門家からすれば「お前ら、そんなこともわからねーのかよ」と言いたくなるかもしれない。
だが、ぼくらの目指す「誰でも宇宙開発に関われる」プロジェクトには、基本的なことを一つ一つ調べて、誰にでもわかるよう明らかにしていくことが必須だ。


本当に少しずつではあるけれど、ぼくらは進んでいる。
と、当時のレポートに書いてあったから、そう思っていたのだろう。

ちなみのちなみのちなみに、当時のミーティング資料にはこの日に「WEB班活動報告」なる項目があったのだけれど、何を発表したのか全く覚えていない。
たぶん、HP作ろうと思ってまーす、くらいの発表だったと思う。なんか考えていたと思うけれど、ただひたすらに「あれやりたい」「これやりたい」くらいのことを話し合っていただけのような気がする。

このころのことは当時の記録からでしか思い起こすことができない。結構必死であれやこれやと考えていたことは覚えているのだけれど、前に進むことが主のときはあんまり残るものがないものだ。
と、もうすぐ記録を残していない時期に差し掛かるのでこれからどうしようと思っているのはここだけの話……。

リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/


PHOTO BY NASA

皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。