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21. MAKER FAIREとSPACE TEA

2015年8月、東京ビッグサイト。
リーマンサット・プロジェクト(仮)にとって二度目のMAKER FAIRE TOKYOを迎えていた。

人手がしっかりあるので当日の準備も迅速に完了(書きながら思い出したが、展示したコンセプトモデルの完成引き渡しが出展当日だったとかなんとか)。
開場となってお客さんが流れてくると、長机一個分のスペースにリーマンサットメンバーが十数人。ビラを片手にプロジェクトの宣伝をしまくった。
大抵のブースは数人が机の内側で対応しているのだけれど、ぼくらの場合は人数が多すぎて入りきらないので手前通路にまで張り出して対応してた。そのため、リーマンサットのブース前は宇宙好きメンバーの熱気と吐息にまみれて、なんかやたらと盛り上がって遠目からでも人が集まっているのがわかるくらいだった。

突貫も突貫だった前回と違い、二度目となる今回は、出展物、人数ともに格段に質を増している。一度目がしょぼ過ぎということを置いておいても、かなり進化している。

ぼく自身も「すごい! めっちゃ盛り上がっている!! 前回とは大違いだ!!!」と悦に浸っていた。
けれど、残念ながらそれは長続きしない。

今回の目的は、プロジェクトの宣伝とメンバー集め。
が、来場者のほとんどはモノづくりに興味を持った人で、宇宙関連のブースに近づいてくる人は宇宙好きか技術者的なひとたちばかり。

前回は5人しかいなかったし、そのうち二人は子連れで来ていたので、実質メインでブースに立っていたのはぼくを含めて3人。なので、ぼくも宇宙開発に対する熱意はなくともプロジェクトを宣伝しなくてはならなかった。

しかし、今回は違う。
宇宙好きがたくさんいるので、「ぼくらと一緒に宇宙開発やりませんか!」と目をキラキラさせながら来た人たちに訴えかけるのはぼくである必要性がない。
ついでながら、一気に人数が増えたらそれはそれで困ることもあるよなあ、今すでにジョインしてくれた人たちをケアできているとは言えない、メンバーを大々的に募集する前にちゃんと仕組みを作った方がいいよなあ、などと考えていたので、積極的に「一緒にやりましょう!」と言う気概もない。
そして何度も言うようにぼく自身宇宙開発に興味がない。

というわけで、ぼくは開始数時間で飽きてしまった。プロジェクト紹介とメンバー募集はほかの人たちがやってくれるし。「運営している人ってどんな人?」と聞かれたら対応するくらい。
でもまあせっかく来たのだからなあ、うーんどうしよう、と考えていたらあるものが目に入った。
H氏が宣伝に持ってきた、SPACE TEAだ。

SPACE TEAとは「宇宙の香り」をイメージしてH氏が奥様と一緒に開発された代物。
「ベリー系にちょっと金属っぽい匂い」の、地球にいながら宇宙を感じられる紅茶である。

宇宙空間は空気がないからそもそも匂いがないのでは、と思ったあなた。その疑問に答えよう。
「ベリー系にちょっと金属っぽい感じ」は「ギ酸エチル」がもとになっている。国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士が、船外活動を終えて船内(船内には空気がある)に戻ってきてヘルメットを外すとこの「ベリー系にちょっと金属っぽい香り」がするらしい。宇宙服に付着している微粒子が宇宙線を浴びるとそういう匂いがするという。そんな「宇宙の香り」なのだ。

これは非常に面白い。

MAKER FAIREの客層は男性7割、女性3割くらい。展示の大半が、電気機械関係で、技術者とかエンジニアが多い。この傾向は宇宙分野ブースでは顕著になる。
彼らは個人や同じ興味を持つ仲間と来ることもあるが、ときには子連れ家族連れとか、恋人づれで来ることもある。
つまり宇宙開発ブースには、宇宙大好き何やってるかすんごい興味ある!! という人がいる一方、そんな宇宙好きに連れてこられた宇宙にもモノ作りにも興味がない人が結構来る。それはリーマンサットのブース前でもしばしば見られる。
すなわち、お客さんとリーマンサットメンバーとめっちゃ盛り上がっているそばで、お連れの方が興味なさげ所在なさげにしているのを。

ここでSPACE TEAの出番だ。

「これ、SPACE TEAって言って、宇宙の香りがするんです」とおもむろに紹介する。
彼女らは人工衛星にも宇宙にも興味はない。しかし、その場から離れるわけにもいかなくて退屈な時間を過ごしているし、紅茶にはなじみがある。なので結構話を聞いてくれる。

「え? 宇宙の香り? なにそれ?」
そう聞かれたら先ほどの「ギ酸エチル」の話をする。そして、サンプルも用意してあるので実際に匂いをかいでもらう。結構いい香りがする。
そうすると「おもしろーい」「けっこういい匂い」「宇宙の香りってこういうのなんですね」と、なかなかいい反応が返ってくる。で、小さいポスターカードを渡して「通販もやってるんでぜひ!」とクロージング。宇宙好きでもモノ作りに興味のない方にも楽しんでいただける。

ちなみに件のSPACE TEAのサイトはこちら↓
http://base.space-tea.com/

確かに宇宙は深遠で偉大だ。魅入られて熱をほだす人がいるのは理解できる。
しかし残念ながら宇宙に熱を傾ける人はそう多くはない。大半の人は地球の上に暮らしていて宇宙のことはどうでもいい。人工衛星に興味はない。

しかしSPACE TEAは、宇宙と地球上での暮らしをつなぐのだ。
これはすごい。とてもキャッチ―だ。どうしてこれまでこの奥深さに気づかなかったのだろう。そんなわけで一日目の後半から二日目全般をぼくはSPACE TEAの宣伝に費やした。

リーマンサット・プロジェクト(仮)のコンセプトは「誰でもできる宇宙開発を!」である。「誰でも」というのは、たとえば八百屋とか居酒屋のおっちゃんとか小学生の子供とか、主婦とか、文字通り誰でもだ。
もちろん、それは最終的な将来目標ではある。けれど、ぼくらはそこを目指している。

だが、残念ながらぼくを含め多くの人は宇宙開発なんぞどうでもいい。
単純に人工衛星を作ります、では宇宙オタクしか集まってこない。それではぼくらの描いた世界を達成することはできない。
そのために必要なのはSPACE TEAだ。宇宙と生活をつなぐ何かが必要なのだ。

SPACE TEAも宇宙大好きH氏が宇宙に興味のない奥様を宇宙活動にどうにか巻き込むために頭を捻って企画したものらしい。

宇宙と生活をつなぐ何か。
リーマンサットにもそれがなくては広がっていかない。
二度目のMAKER FAIRE。本体の募集宣伝をそっちのけにしたおかげでぼくは重大な課題を見つけることができた。

リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/


PHOTO BY NASA

皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。