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23. 宇宙郵便局構想

2015年11月。

時が流れるのは早いもので、いつの間にかプロジェクトが本格的に発足してから一年がたってしまった。そういえば、結成当時からのプロジェクト名については「リーマンサットって、なんかちょっとおふざけ感あって、でも覚えやすくてわかりやすくていいよね」ということから、(仮)をMAKER FAIRE TOKYO 2015が終わった後取ることになって、正式に「リーマンサット・プロジェクト」としてぼくらは進むことになる。

立ち上げから一年でたくさんのことがあって、呼びかけたら本当に人が来てしまってメンバーが増えたり、二回目のメイカーフェアに出したり、人工衛星の開発に取り掛かったり、HP作ったり、JA○Aから青い人として認知されてしまったり。
そして、今後○AXAが募集している打ち上げ無償枠に応募しようかとか、契約とかが発生するのであれば法人作らなきゃダメなんじゃないか、とか。
とにかく一年前は考えもしなかった形に進んでいた。

しかし、そんなわかりやすく進んでいそうなことは多々あれど、ぼくらが頭を悩ませていることは一年前と変わらない。
それは「このプロジェクトどうしていく?」である。

というわけで、冬も間近なある休日、O氏とぼくは上野の喫茶店かどこかで話をしていた。

このころのリーマンサットは、JAX○のイプシロン無償打ち上げ枠へ応募しよう、ということで本格的に人工衛星開発が進むことになって技術班が盛り上がっている反面、年内で目玉のイベントであるMAKER MAIREが終わってしまい広報班が停滞していて、HPは作ったけれどぼくもプロジェクトの活動をレポートする余裕がなくなってきてコンテンツがなくなってこれからどうしようか、というような状態だった。

確かに、このプロジェクトは「自分たちで人工衛星を作って、打ち上げる!」が第一の目標だけれども、ミッションとしてはただの宇宙開発ではなく「誰でも宇宙開発できる世界を創る」ことだ。なので、技術だけが盛り上がってただ人工衛星を作るだけの宇宙オタク集団になることは全力で避けなければいけない。

人が増えて、人工衛星開発が少しずつ進んで、でも、ぼくらはいったい何をしたいのか。
急速に人が集まって否応なく進まざるを得なくなったので、このプロジェクトはいったい何のためにやっていてどういう方向性でいくのか、ということは一年経っても相変わらず詰められておらず、毎回そんな話ばかりをしている。
今日も今日とてこれからリーマンサットをどうしていこうか、そもそもリーマンサットってどんな存在なの? という話になったその時、ぼくは「郵便局じゃないか」と答えた。

今は、インターネットなど通信の手段はたくさんある。でも、その昔、郵便というものができたばかりのころ。誰かの想いであったり、情報であったり、もしかしたら封筒に入る写真とか絵とか。郵便局は手紙という媒体を通じて、誰かと誰かや、誰かと何か。想いであったり、感性であったり、経験であったり、そういうものをつなぐ役割を果たしていたんじゃないだろうか。

リーマンサットは、手が届かないと思っていた普通の人と宇宙開発をつなげたり、何か面白いことと挑戦したいと思っていた人をつなげたり。活動を通して人と人つなげたり。いろいろなものをつなぐプラットフォームみたいなのになったらいい。
もしそうなれたら、宇宙開発に興味がない人も楽しめるし、そうやっていろいろな人や想いが集まってきたら宇宙開発というものが大きく変わること可能性が出てくる。と、ぼくはそんなことを言った。

そうしたら後日、O氏が「宇宙郵便局やって実際に宇宙に届ける手紙集めましょう!」と言い出した。

え……いや、そういうつもりで郵便局って言ったんじゃないんだけど……という戸惑いがあったものの、いくつかの理由からぼくはそれをやってみることにした。

都合がいいことに記念すべきお披露目はすぐにやってきた。O氏とS氏とぼくがリーマンサットとは別口でやっていた、海外での仕事とか文化とかに興味がある友人たちで集まって話をする社会人サークルがあって、そこで「日本にはプロムパーティーがないけれど、ずっとやってみたいと思っていた」という案を実現させる機会があって、もろもろの意図によりテーマが宇宙だったので、そこで試しにやってみることにした。

どういうものかというと、

あなたの(下)心を星空に届けます
2015年にたまったストレス、叶えたいこと
懺悔(したい、してほしい)、言いたいこと言えないことなどなど

例:
・元カレへ つぎ込んだ時間や労力や涙を返せ
・妻へ いつも宇宙のことばかり考えててごめんなさい
・夫へ 家にいつもいないことを謝れ
・部長、マジ死ね
・明日会社行きたくない
・もっとお金欲しい

こういったもろもろ(もちろん、ステキなお願いとかでもいい)を、

付箋に書いて(手書き、ということにはこだわった)

会場に設置したポスト(ぼくが100円ショップで買った)に入れる

リーマンサットが作った人工衛星に載せて宇宙に送る

という(若干負の感覚漂う)企画だった。

おかげさまでなかなか感触はよく、一回で数十のメッセージを集めることができた。ついでながら、集めたメッセージ(匿名)のいくつかは、コンテンツ不足のリーマンサット広報に使わせていただくというオマケつき。

その後も、宇宙郵便局と称して、いろんなところで宇宙に届けるメッセージを集めた。

ぼくがこれを始めた理由はいくつかある。
一つは、ぼくは宇宙に興味がないので人工衛星開発より面白そうだと思ったこと。そしてもう一つはMAKER FAIREに出てH氏のSPACE TEAみたいに「宇宙を身近に感じる何か」をリーマンサットでも作れたらなあ、と思っていたからだ。

この「宇宙郵便局企画」は、今や「宇宙ポスト」と名を変え、集めたメッセージを昨年2018年に打ち上げたリーマンサット作成の人工衛星第一号「RSP-00」に搭載して宇宙に届けることができた。そして、「宇宙ポスト」は5年目を迎えた今でもリーマンサットの柱のひとつになっていて、宇宙開発に関係ないイベントに持って行っても、お年寄りから子どもまで、たくさんの人がメッセージを書いてくれているそうだ。

打ち上げまであと2年と10か月。


宇宙ポストのページ

https://www.rymansat.com/spacepost

リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/

皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。