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22. 青い人たち

2015年10月。

MAKER FAIREもつつがなく終了し、出展の甲斐あってか、メンバーとなってくれる人も増えてきた。

しかしながら、当時の(たぶん今も)リーマンサットには大変な問題があった。

それは、

金がない!

である。それ以上でもそれ以下でもないがこれ以上に困った問題はない(たぶん今も)。

ぼくらの当面の目標は「自分たちで作った人工衛星を宇宙に打ち上げる」ことだ。
人工衛星を作るのは、まあいい。確かに機材費とか試験費用とかかかるけど、誰かに材料もらったり、協力してくれる機関に無料で試験させてもらったりすればどうにかなる! などと考えており、こっちはそれほど問題ではない(ということにしていた)。

問題は後半部分、「宇宙に打ち上げる」部分である。
いずれは自分たちの作ったロケットで、というのはあるにせよ、さすがにしょっぱなからそこを自作とまではいかない。
というわけで、打ち上げはどこかに委託することになる。
世界的に見るといくつか私用でも宇宙空間にモノを運んでくれるロケットがないではないが、コスト的には数千万。とてもじゃないが手の出せる価格でない。
日本でもJA○Aが有償でISSまでの打ち上げをやってくれるがそれでも300万円。ちょっとこれをどうにかするのは難しい。

何件か投資の話をもらったりしてはいたが、リーマンサットでは色のつくお金は入れない、という方針を持っていた。
ぼくらはベンチャーではなく、あくまで趣味の団体。自分たちのやりたいことをやる、を第一にしている。なので、外から見て進んでようが、なんか盛り上がってきて見えようが特定の誰かからお金はもらわないという意思で進めていくことを決めていた。

しかし、金がなくば宇宙にはいけない。
これは純然たる事実である。実に困った話だ。

と、そんなとき、とてつもない朗報が入った。
JAX○がイプシロンロケットの相乗りによる超小型衛星の打上げ機会を無償提供している、というものだ。
これを逃す手はない。
(ちなみに正式名称は「革新的衛星技術実証プログラム」へ公募である)

幸い、この件に関する説明会が開かれるとのことで、リーマンサットメンバー何名かを集って聞きに行くことにした。
説明会は平日の午前中だったので、メンバーは各々有休なり、偽りの外回りなりを入れて、お茶の水に集合。
そして、リーマンサットメンバーはせっかく大人数できたのだから、と、誰も座りたがらない最前列を占拠。
出席者の大半が、企業の人とか、大学の先生とか。ほとんどがスーツ姿なのに対し、こちらは半分以上のメンバーがリーマンサットの青Tシャツ着用。

そんな感じなので、ぼくらはかなり目立っていた。このお茶の水の説明会は他の拠点とも中継されていたので、彼らの中で「なんか変な奴らがいるぞ」と、のっけから噂になっていたらしい。

一通りの説明が終わるとお待ちかね質疑応答の時間だ。
大抵こういう場合、質問はあまり出ないもので、たぶんこの時もちらほらあるくらい。
だが、ぼくらには彼らに聞くことがある。最前列に座っていたファウンダーで唯一技術者であるM氏が手を挙げて、係の人がこちらを指したときにそれは起こった。

「はい、そこの……青い人」

まさにこれがJ○XAとの初会合である。のちにこのプログラムに応募することになるぼくらは○AXAといろいろ関わることが多くなるのだけれども、この時のことがよっぽど印象に残ったらしく、この説明会後しばらくの間は「リーマンサットです」というと、「ああ、あの青い人たちね」と返ってくるようになった。

説明会の内容は今となってはさっぱり覚えていないのだが、プログラムの説明とか応募の概要とかそういうことを聞いたと思う。M氏がどんな質問をしたのかも、どんな答えが返ってきたのかも記憶にないが、この国の宇宙開発の先端にいるJA○Aに「青い(変な)人たち」として濃く認識されたことは、それが完全に色物として見られていたとしても大きな出来事だった。

打ち上げまであと2年11か月。

リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
https://www.rymansat.com/


PHOTO BY NASA

皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。