10. 執行日二日前
2015年1月28日。
記念すべきリーマンサット・プロジェクト(仮)のキックオフミーティング2日前。
都内某所に5人が集まり、二日後に迫ったキックオフについて最終打ち合わせをしようとしていた。
と、その前にふとS氏が奥様に「人工衛星を作ることにした」という話になった。
なんて言われました? と聞いたところ、
「なんか役に立つの?」
「それやる意味あるの?」
「自己満足じゃないの?」
と、ばっさり斬られたそうだ。
確かにGPSとか、天気予報とか、衛星マップとか、人工衛星は生活の様々なところに入り込んでいるが当たり前すぎるし、一方で崇高すぎてよくわからない。しかも、ぼくらが作ろうとしているのは1cm立方の小さな人工衛星で、たぶん生活の役にはたたない。
宇宙好きからすれば「素人が人工衛星を作ること自体がすごい!」「宇宙はロマン、宇宙開発するのに理由はいらない!」などと言うだろうが、一般人からしたら宇宙開発は人生からほど遠い。趣味で宇宙開発をするのは前代未聞かもしれないが、残念ながら宇宙開発に興味のある人はマイノリティなのが現実だ。
現代日本社会は、長引く不況と超少子高齢化と広がる格差や上がらない給料や終身雇用の終焉や性差別やらなんやらで約に立たないことに目を向ける余裕がない。
宇宙開発は興味のある人にとっては楽しい素晴らしいことだが、興味のない大半の人からすればどうでもいいことだし、多くの人は「他にやることあるだろ」と思っている。
苦々しいことであるが、これが現実で、それを土台にすることが必要だ。
たが、ぼくらはこのようなビハインドな状況から始めなくてはならない。
このプロジェクトには人手が必要だ。みんな本業の傍らでやっているから一人一人の時間的キャパシティは限られている。
さらに、ぼくらは素人集団なのでたくさんの人から知恵を集めなくては物事が進まない。「宇宙のことを知らんやつはほっといて勝手にやる」とはいかないのである。そもそもこのプロジェクトは「宇宙好きの人はもちろん、宇宙に興味がない人、友人や家族をも巻き込んで」というコンセプトがある。
なので宇宙に関係ない人をいかに引き付けるかが大変重要な課題なのだ。
どう解決するか。それには「ミッションをいかに身近なものと関連づけるか」が鍵だと思っている。宇宙とか関係なしに、「それおもしろい」と思ってもらえるようにする。
ちなみに、ここでいう「ミッション」というのは人工衛星に何をさせるか、ということだ。つまりは「どんな人工衛星を作るか」と重なる。
普通に考えれば、人工衛星と言えば「宇宙探査」「無重力化での実験」「観測」といったことが一般的だ。
けれど、ぼくらはそういう一般的なことではなくて、もっとこう……そう、面白いこと。たくさんの人に面白いと言ってもらえることがしたのだ。
そのために必要なことはシンプルでわかりやすく、そしておバカであることが大事なことである。
おバカってなんだよ、と思うかもしれないが、面白いという言葉は、楽しい、可笑しい、滑稽だ、という意味合いを含んでいる。つまり「ちょっと変」「おバカ」がスパイスみたいに入っている。
現に、このプロジェクトのお披露目である2014年11月のメイカーフェア。「素人が集まって2年以内に人工衛星を打ち上げまでやります!」と大々的にぶちあげたところ、「半分くらい掃ければよし。残りは今後の宣伝用」と考えて200枚ほど作ったポスターカードは一日目に半分以上掃けてしまい、メイカーフェアが終わったときには余りがなくなってしまった。おまけにキックオフミーティングである。「参加者は多くても10人くらいだろう」というぼくらの予想を大きく上回り、参加希望者はなんと想定の数倍にもなってしまった。
これは『「素人たちが集まって二年以内に人工衛星を打ち上げる」なんてバカげている(でも面白そう)』と思ってくれた方が大勢いらっしゃる結果であると思う。もし「宇宙開発の専門家が5年かけて衛星ビジネスを立ち上げます」だったらこれほど興味を持ってもらえてはいなかったはずだ。
リーマンサットは、誰でも参加できるという気軽さと、そして通常考えると誰もやりそうもないアホさが(良い意味で)インパクトになって、多くの人が興味を持って下さったのだと考えている。
ということで、
・わかりやすく
・身近で
・「おバカ」
であること。
これがぼくらのミッションの方向性である。
これを元に、ミッション案を考えていくこと。
そして一人でも多くの人に「なんかバカなことやってるけど、面白そうだから手助けしてやるか」と思ってもらうことが今の方針だ。
キックオフミーティングでは、今後の予定とかどんな参加者がいるかとかなんで興味を持ったのか知ることも大事だけれど、ぼくらの方向性や思いを詳細に伝えることが一番大事。
そして漠然とでもいいから「よくわからないけれど面白そう」「あまりにも不安だから助けてやるか」と思ってもらえれば、人を集めることができる(はず)。
さしあたって今回、二日後のキックオフでは、そしてこれから参加してもらう人たちにぼくらのことを末長く、生暖かい目で見守ってもらうようにするにしよう。
そんな気軽な感じだった。
二日後にどんな状況が待ち受けているのか、その時は知る由もなかった。
リーマンサットに興味を持ってしまった方はこちらへ
www.rymansat.com
PHOTO BY NASA
皆さまのご厚意が宇宙開発の促進につながることはたぶんないでしょうが、私の記事作成意欲促進に一助をいただけますと幸いでございます。