アバターと「話しやすさ」

「ネットの方が対面よりもコミュニケーションしやすい。」

 そう感じたことはありませんか?

はじめに

 この記事では私の卒論について簡単にまとめさせていただこうと思います。おそらくこれが人目に触れることもあまりないと思いますので、自分のためのメモのつもりで書いております。

 しょせんは私大文系クソ大学生がなんとか留年を免れようと苦し紛れに行ったような研究。調査の方法や理論にはだいぶ問題があるだろうということはなんとなく自分でもわかっていますが、なにとぞご容赦くださいませ。

どういう研究?

 端的にいえば、CMC(Computer-Mediated Communication)では、「非言語的手がかり」が伝わりづらいために「選択的自己呈示」が可能であり、「自己呈示効力感」が高まることで「話しやすい」と感じるという先行研究をもとに、アバターを用いたコミュニケーションの効果を探るというものです。

 私たちの周りには対面、電話、オンラインチャットなど様々なコミュニケーション手段が存在しています。普段あまり意識はしないかもしれませんが、それぞれの手段によって人と人との間でやりとりされる情報には大きな違いがあります。

 対面で誰かと話す場合、互いの間では、声だけではなく表情やしぐさ、声のトーン、視線の動き、顔色、においなど言語以外の大量の情報がやりとりされています。これらの「非言語的手がかり」は、例えばオンラインチャットの場合、やりとりの手段が文字のみなので、ほとんど相手に伝わらず、またこちらも受け取ることはできません。

 CMCの特徴であるともいえるこの非言語的手がかりの伝わりづらさがもたらす様々な影響は、コミュニケーションにおいてプラスの作用をもたらすことがあるということが先行研究からわかっていますが、非言語的手がかりがVRChatのようにアバターを通して選択的に呈示できる環境ではどのように作用するのか。これを検証するというのがこの卒論のテーマです。

 インターネットが私たちにとって身近なものになり、だいぶ時間がたちましたが、先に述べたオンラインチャットのように、インターネットの登場によって生まれた新たなコミュニケーション形態の研究は古くから行われてきました。以下ではテキストを使用したCMCにおけるコミュニケーションの先行研究を軽く紹介したいと思います。

先行研究

 CMCの「非言語的手がかりの少なさ」という特徴について、かつてのCMC研究においては、やりとりされる情報の少なさ故にコミュニケーションが平坦なものになり、対面でのコミュニケーションのように相手と親密になるのは難しいという説が唱えられていました。つまりCMCを対面コミュニケーションの下位互換のように捉えたわけです。

 しかし、様々な研究の中で、それまで唱えられていた説に反して「非言語的手がかりの少なさ」が親密性へつながるという結果が報告されるようになっていきます。

 例えばCMCでは非言語的手がかりの少なさにより、私的自己意識が高められ、また評価懸念が低減することで自己開示が促進されるという研究があります。

 社会心理学の領域では、自己意識は、他者が観察できる容姿や振る舞いなど自己の外面に対する意識である「公的自己意識」と、感覚や感情、思考など自己の内面に対する意識である「私的自己意識」に分類されますが、この私的自己意識が高まると、我々は自分の動機や欲求の沿った行動をするようになるとされています。

 自己開示とは自分自身に関する情報を他者に話すことですが、この自己開示は私的自己意識が高まって自己の内面に意識が向き、なおかつ公的自己意識が低下して評価懸念(他者からの評価に対する心配)が低下したときに最も促進されることが知られています。

 ネット上での自分の振るまいとリアルでの自分の振る舞いを比較してみてください。

 ネットでのほうが自分の欲求に忠実になったり、普段周りの人にはとても言えないような自分の秘密をネット上ではあらわにしたりということがあるのではないでしょうか。

 このような作用はネットの匿名性という言葉で言い表され、マイナスの観点で捉える人が多いかもしれませんが、自己開示は人との親密性を高める効果があると言われています。

 人から秘密を打ち明けられると相手のことをより深く知ることができたように感じますし、自分も素を出して良いのかもと思いますよね。


 また、非言語的手がかりの少なさは自己呈示にも大きな影響を与えると言われています。

 自己呈示とは「他者からの肯定的なイメージ、社会的承認や物質的報酬などを得るために、自己に関する情報を他者に伝達すること」(三浦他 2009:68)です。

 単に自己に関する情報を伝える自己開示と異なり、自己呈示は自己に関する情報を意図的に調整して伝える行為や、非言語的な行動も含まれています。

 対面では、相手に自分が与えたい印象を与えようとしても、生まれ持った外見や、視線の動き、声の調子、表情などが、無意識的に自分が与えたい印象とは異なる印象を相手に与えてしまう可能性があり、自己呈示のコントロール可能性が低くなります。

 それに対してCMCでは(特にテキストベースのCMCでは)非言語的手がかりが伝わらないため、自分が相手に与える情報をコントロールしやすく、それによって「自己呈示効力感」(相手に対して自分の与えたい印象を与えられそうだという感覚)が高まることによってCMCでは「話しやすい」と感じると言われています。

自閉症アバターからの示唆

 上で述べたようなCMCの効果をVRChatで検証する前に、アバターを使用したコミュニケーションの研究として池上英子による自閉症スペクトラム症者の「セカンドライフ」上コミュニティ研究を少し取り上げたいと思います。

 池上の研究はセカンドライフという、自閉症者にとってコミュニケーションしやすい空間を利用することで、対人コミュニケーションに難を抱える自閉症者へのインタビューや参与観察を実現したもので、自閉症者の感覚や認知の理解が主なテーマですが、「なぜセカンドライフ(CMC)ではコミュニケーションをしやすいか」についての分析はとても面白いです。

 自閉症スペクトラムの障害の核には、他者とのコミュニケーションが難しいことがあると言われています。我々は対面でのコミュニケーションにおいて非言語的手がかりをもとに相手の感情や意図を読み取っていますが、自閉症の人はこれがうまくできない場合が多いそうです。

 また、知覚過敏など知覚の異常を抱える人も多く、例えば聴覚過敏を抱えていて、人と話すときも周囲の音が聞こえすぎてしまうために会話がかき消されるなどの悩みを抱える人もいるといいます。

 池上は、自閉症スペクトラム症を抱える人たちがセカンドライフ上で互いに共感し合いながら盛んにコミュニケーションを行うことができている要因として、次のようなことを挙げています。

 ひとつはコミュニケーション環境が整えられるということです。先ほどの聴覚過敏の例がわかりやすいですが、セカンドライフ含めCMCは自分の部屋の中で、リラックスした格好でコミュニケーションを行うことができるため、外的な影響を受けづらく、様々な不安や知覚異常を低減することができます。

 もうひとつは非言語的手がかりの少なさが「コミュニケーションの民主化」という効果をもたらしているということです。

 そもそも自閉症の人がそうでない人とのコミュニケーションに苦慮するのは非言語的手がかりというツールを活用できず、コミュニケーションの当事者間でやりとりされる情報の量にギャップが生じていることが関係していると考えられます。そのためこちらが当然伝わっていると考えていることが伝わっていなかったり、認識に齟齬が生じてしまい円滑にコミュニケーションを行うことができない。

 これは雑にたとえるならば、マジックミラー越しに通訳を介して話をしているような感じでしょうか。ちょっと違うかもしれませんが、とにかく活用できる情報に格差がある状態は円滑なコミュニケーションを妨げ、ストレスのもとになるだろうということです。

 ではCMCではどうでしょうか。結論から言ってしまうと、非言語的手がかりが少ないCMCでは全員が自閉症的になることで情報量のギャップが生まれません。

 つまり、コミュニケーション主体の間をツールが媒介することで活用できる手がかりが制限され、コミュニケーションのルールが統一されるのです。これにより自閉症者もそうでないひとも同じ土俵でやりとりをすることができます。これが池上の指摘した「コミュニケーションの民主化」という効果だと思います。間違っていたらすみません。

 ここからは私の推測の話になりますが、先に述べたコミュニケーションにおける情報量のギャップは、自閉症者とそうでない人の間にのみ存在するものでしょうか。私はそうは思いません。

 人間は誰しもそれぞれ異なった認知をしています。生まれ持った遺伝的な要素やそれまでの人生の中で受けてきた環境的要因によって、ひとりひとりが異なる世界を認識しているといえるはずです。

 コミュニケーションに関していえば、ごく普通の一般人といわれる人でも、その人がどの程度非言語的手がかりを認識しているかはまちまちでしょう。ものすごく相手の表情から感情を読み取るのがうまい人がいる一方で、そんなの全く気にしないという人もいて当然です。

 つまり私たちは日常の会話の中でも常に情報量のギャップにさらされ続けています。自閉症者ほどではないにせよ、このコミュニケーションのチャンネルの違いは私たちに微妙な「やりづらさ」を感じさせているのではないでしょうか。

 CMCの話に戻ると、CMCの非言語的手がかりの少なさという特徴は、先行研究の紹介で述べたような自己開示の促進や自己呈示効力感の増大という効果に加えて、「コミュニケーションの民主化」という効果をもたらしており、それが「コミュニケーションがしやすい」という感覚に結びついているのではないでしょうか。

VRChatでの調査

 私たちにとって理想的な、もっとも「やりやすい」コミュニケーションとは、いったいどのようなものでしょうか。

 対面であれば、やりとりされる情報の量はとても多くなりますが、自分が伝えたくない非言語的手がかりまで相手に伝わってしまい、必ずしも都合が良いとはいえません。

 では非言語的手がかりがほとんど伝わらないオンラインチャットが一番良いかといえば、感情や考えを誤解なく相手に伝えたり、また相手からそれらを読み取ったりすることに難しさを感じるのも事実です。現に現在世界中で用いられている絵文字や顔文字はテキストのみでのコミュニケーションで伝わりづらいニュアンスを補うために開発されたものでしょう。

 ここから我々にとって最も「やりやすい」コミュニケーションとは、「相手に伝えたくない非言語的手がかりが伝わらず、かつ円滑なコミュニケーションに必要な程度の非言語的手がかりを選択的に呈示できる形態である」と推測することができます。

 そして、この形態に近いコミュニケーションメディアと言えるVRChatは、対面やその他従来のCMCに比較してコミュニケーションをしやすいと感じるだろうという仮説を立て、VRChatの利用者に対しアンケート調査を行うことでこの仮説を検証しました。

調査結果

 調査ではVRChatを日常的に利用していると思われる人をTwitterでピックアップし、Googleアンケートフォームで回答をしていただきました。回答者は55人でした。また、そのうちの1人に2時間程度のインタビューを行いました。

 アンケートの内容ですが、まず年齢層、性別などVRChat利用者個人の属性、そしてVRChatの利用頻度、利用時間、VRChatを始めたきっかけ、VRChat上での過ごし方、普段VRChat上でコミュニケーションをとる相手などVRChatの利用状況についての質問項目があります。

 次にアバターを何種類使用しているかや、アバターによって自分自身や相手の振る舞い方が変わるか、どのようにアバターを使い分けているか、自身にとってアバターがどういう存在かなどアバターの使用についての質問項目があります。

 そして、VRChatでの主なコミュニケーション手段や、アバターが呈示する非言語的手がかりがどの程度コミュニケーションに影響を与えると思うか、対面・音声のみ・テキストのみのコミュニケーションとVRChatでのコミュニケーションをそれぞれ比較してどちらがコミュニケーションをしやすいと感じるか、最も自分をうまく表現できると感じるかなど、コミュニケーションのしやすさに関して理由付きで尋ねる質問項目があります。

 最後に、VRChat上で他の利用者とトラブルになったことはあるか、VRChatでのコミュニケーションで不便に感じることはあるかなどコミュニケーションの問題点についての質問項目があります。

 ここでは大事な部分だけ紹介させていただきます。

 VRChatでのコミュニケーションで、アバターの非言語的手がかりがどの程度コミュニケーションに影響を与えると感じるかについての質問では、「大いに影響を与える」と答えた人が74%、「ある程度影響を与える」と答えた人が20%という結果になり、アバターを用いたコミュニケーションにおいても表情や仕草、見た目などの非言語的手がかりはコミュニケーションに影響を与えるということがわかりました。

 具体的な理由では、「相手がかわいい見た目だと話しやすく感じるが、逆に大柄な男性やモンスターのような見た目だと近づかれると恐い」など、アバターの見た目から受ける印象が変わるというものや、「表情や仕草で声のみ以上に感情などがつたわり、好印象をいだきやすい」など声のみのやりとりでは伝わらない非言語的手がかりが意思疎通にプラスの影響を与えることをうかがわせる回答が多くありました。

 VRChat(アバターを用いたコミュニケーション)と対面でのコミュニケーションを比較する質問では、64%がVRChatの方がコミュニケーションをしやすいと回答しました。その理由では、「外見や雰囲気、体臭など(非言語的手がかり)が相手に伝わらないため先入観なくコミュニケーションができる」のような、自分が伝えたくない(自信がない)情報が相手に伝わりづらいことや、「アバターを使用しているため緊張が和らぐ・人見知りが軽減される」など対人不安が軽減されること、「自宅でリラックスして話せる」等コミュニケーション環境が整えられることなどがありました。

 それに対して、VRChatでは確かに自分の与えたい情報を選択的に呈示できるが、自分が受け手になった場合にはむしろやりづらさを感じるという意見もありました。つまり対面であれば相手の非言語的手がかりを受けてコミュニケーションが円滑に進むように会話の内容などを調整することができるが、VRChatでは、本当は悲しいのにアバターの表情は笑顔にするということができるため、相手の真意を汲みづらいというものです。非言語的手がかりを発信する側の視点でばかり考えていましたが、受け手に回った場合の感覚について興味深い指摘です。

 VRChatと音声のみのコミュニケーションを比較する質問では、82%がVRChatの方がコミュニケーションしやすいと回答しました。その理由では、「仕草や表情から相手の感情を推し量ることができる」のような、音声のみでは伝わらない情報が呈示されることでコミュニケーションが円滑になるというものや、「アバターによって物理的距離感や相手が目の前にいる臨場感を得られる」など対面に近い感覚を得られるというものがありました。VRChatでは主に音声によってコミュニケーションが行われていますが、アバターが使用されることで音声のみでのコミュニケーションよりもやりとりされる情報が増えており、それによって話しやすいと感じることがうかがえます。また電話やボイスチャットよりも相手の存在を強く感じることができているようです。

 VRChatとテキストでのコミュニケーションを比較する質問では、66%がVRChatの方がコミュニケーションしやすいと回答しました。その理由では、音声のみのコミュニケーションとの比較で得られたものと同様の回答の他に、「テキストでは感情が伝わりづらく、誤解を生む可能性がある」のような、テキストのみでのコミュニケーションの情報過少を指摘したものがありました。しかし、テキストによるやりとりの方がコミュニケーションしやすいと答えた人の中には、「メールやSNSは非同期的なメディアであるため即座に返答しなくていい」や「テキストチャットではログが残るため過去の会話を振り返るのに便利だ」のように、コミュニケーションの場における心理的な要因以外の部分を理由とした人もおり、単純な比較は難しいといえるでしょう。

 対面・音声のみ・テキスト・VRChatをそれぞれ比較しどれが最も自分らしく振る舞えるかを尋ねる質問では、65%がVRChatだと回答し、次いで18%が対面だと回答しました。VRChatで最も自分らしく振る舞えると回答した理由では、「自分の好みの見た目で相手に与えたい情報のみを与えられる」のような、コンプレックスをカバーでき、非言語的手がかりを選択的に呈示できることを理由にしたものや、「対面に比べて緊張が少ない」「いざとなれば切断可能でログも残らない」のように、コミュニケーションにおける負担感が低減されることなどがありました。対してVRChatでのコミュニケーションはロールプレイングに近いものであるため自分らしさとはまた違うといった意見も見られました。

 VRChatでとの利用者とトラブルになった経験についての質問では、パートナーや友人関係のいざこざなど現実でのコミュニケーションと変わらない人間関係のトラブルや、視界ハックなどVR空間独特のいたずら・いやがらせという回答がありました。

 VRChatでは他のSNSや電子掲示板と比較してフレーミングなどの反社会的行動や差別的な言説の発生が少ないといわれています。

 これは単にVRChatの利用者がまだ比較的少ないことや、VRChatを始めるにあたっての金銭的・技術的ハードルだけが要因なのではなく、VRChatでのコミュニケーションの形態が関係しているのではないでしょうか。まず①「匿名性の段階が比較的低い」という要因が考えられます。森尾(2009)によれば、匿名性の水準には、視覚的匿名性・アイデンティティの乖離・識別性の欠如という3段階の階層性があるそうです。

 視覚的匿名性とは、コミュニケーションの際に直接相手を見ることができないことを指し、次の水準であるアイデンティティの乖離とは、CMCにおけるアイデンティティが実名など現実世界でのアイデンティティと切り離されている状態を可能にするような環境を意味しています。VRChatはこの段階であり、多くの利用者がハンドルネームを用い、アバターを使用することで新たなアイデンティティを構築してコミュニケーションを行っています。さらに高次の識別性の欠如は、最も匿名性が高い状態であり、コミュニケーションの際にメッセージの送り手が誰なのか識別することが不可能な状態を表す。5ちゃんねるなどの匿名掲示板やニコニコ動画のコメント欄などがこれにあたります。

 VRChatではハンドルネームとIDが利用者の評価と紐付けられているため、他者からの評価を落とすような言動は慎もうという動機が生まれると考えられます。

 次の要因としては②「対面に近いコミュニケーション形態である」ことが考えられます。アンケートの結果にもあるようにVRChatは音声のみやテキストでのコミュニケーションに比較して他の利用者の存在を強く感じるコミュニケーションメディアであるといえます。この特徴が、対面で人に暴言を吐くのに抵抗感を感じるのと同じような抑制作用を生み出しているのではないかと考えられます。

 次に③「利用者に継続的な関係を志向する人が多い」ことが考えられます。インタビューでは感覚的には9割がたの利用者がVRChatでの人間関係に継続性を求めているという回答がありました。継続して人間関係を保つことが前提になる場合、他者からの評価懸念は高まるため、自分も評価を下げるような行動は抑制されると考えられます。

 VRChatでのコミュニケーションで不便だと感じる点を尋ねる質問では、音声のラグや視線がわからないことなどの技術的な制限を指摘するものや、補助的なコミュニケーション手段としてテキストチャット機能を求める回答が多くありました。。

 末田ら(2011:164)によれば、視線によるコミュニケーションはジェスチャーと同様の機能を持つほか「相手から情報を得る」という意味で①コミュニケーションの流れを調節する②相手からフィードバックを得る鍵となる③発話者及び聞き手の認知プロセスを表す④感情を表す⑤コミュニケーションの当事者同士の関係を示すなど特別な機能を持っているといいます。このことからより円滑なコミュニケーションのためにアイトラッキングの実装を求める声があるのではないかと考えられます。

おわりに

 アンケートの結果はおおむね仮説を裏付けるものといえるのではないでしょうか。

 当初はアーヴィング・ゴフマンの理論をアバターを用いたコミュニケーションに当てはめることで自己意識のあり方を研究するつもりでしたが、結果的にはコミュニケーションの現場における心理についての内容となりました。これは今後の宿題ですね。

 この卒論を通して、私は人間のコミュニケーションというものの奥深さとVRChatの可能性を大いに感じました。新たなツールは新たなコミュニケーション形態を生み、新たなコミュニケーション形態は新たな人間関係を生み、新たな人間関係は新たな社会を生むのかもしれません。

 これから先、人間のあり方やコミュニケーションのあり方はさらに変わっていくでしょう。SFの世界ではテレパシーのようなコミュニケーション手段が出てきたりもしますよね。自分の考えや感覚をそっくりそのまま相手に伝えることができたとしたら…一見便利そうですが、どうでしょうか。

「理想のコミュニケーション手段とは?」

考えれば考えるほど深みにはまっていきそうなので、このへんで。

参考文献

三浦麻子・森尾博昭・川浦康至 2009 『インターネット心理学のフロンティア 個人・集団・社会』誠信書房
富田英典 2009 『インティメイト・ストレンジャー 「匿名性」と「親密性」をめぐる文化社会学的研究』関西大学出版部
池上英子 2017 『ハイパーワールド 共感しあう自閉症アバターたち』NTT出版
末田清子・福田浩子 2011 『コミュニケーション学 その展望と視点 増補版』松柏社
E・ゴッフマン・石黒毅 訳 1974 『行為と演技 日常生活における自己呈示/ゴッフマンの社会学1』誠信書房
E・ゴッフマン・佐藤毅,折橋徹彦 訳 1985 『出会い 相互行為の社会学/ゴッフマンの社会学2』誠信書房



 

 

 



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