見出し画像

ライトで実験的な空き地利用と、ネットワークで機能を補う郊外まちづくり

ここ数ヶ月、ほとんど野菜を買った記憶がありません。
それでも我が家の食卓には色とりどりの季節野菜が並びます。
私の家はいわゆる郊外の住宅地にあって家庭菜園をやっているというのもあるけれど、週末にとある農園の手伝いをしていて、そこで収穫した季節の野菜を山ほどいただいているからです。

この農園との出会いを通して郊外まちづくりへのヒントを見出したので、この記事ではそれを深掘りしてみたいと思います。

目次
・農園の成り立ちと活用のされ方
・農園にみた郊外まちづくりの2つのヒント
・空き地(≒低未利用地)の現状
・ヒント①:ライトで実験的に空き地を利用する
・ライトで実験的に使われはじめた空き地の事例
 └ Case 1.【YCCU】
 └ Case 2.【吉日学校】
・まちにもパーマネントβの考え方を
・ヒント②:ネットワーク型で機能を補うまちづくり
・ネットワーク型で機能を補うまちづくり事例
 └ 【まちやど】
・まとめ

農園の成り立ちと活用のされ方

この農園は住宅地の中にあり、農地として使うことが制約となっている生産緑地を利用したものです。
農業を継続することが難しくなった所有者の代わりに、有志が集い農園を設立したのが始まりで、今では小学校の教育の場として食育・農育のためにも利用されています。
日常的な農園の管理は地元の退職したシニアが中心となっておこない、農作業自体が彼らの趣味にもなっています。

農園にみた郊外まちづくりの2つのヒント

この農園の成り立ちと活用のされ方には、郊外のまちづくりを考えるうえで重要な2つのヒントがあると感じています。
ひとつは空き地という逼迫した需要の無い土地だからこそできるライトで実験的な使い方から始まっている点。
もうひとつは地域の小学校の機能を小学校の外から拡充させ補完しているという点です。
これら2つのヒントを事例も交えてみていきたいと思います。

空き地(≒低未利用地)の現状

土地の利用状況をもとにした分類のしかたに低未利用地という言葉があります。

低未利用地
適正な利用が図られるべき土地であるにもかかわらず、長期間に渡り利用されていない「未利用地」と、周辺地域の利用状況に比べて利用の程度(利用頻度、整備水準、管理状況など)が低い「低利用地」の総称です。
[出典:国土交通省/低・未利用地の活用・管理]

簡単に言うと空き地とポスト空き地群といったところでしょうか。
H15〜H25の10年で世帯が所有する低未利用地は約1.5倍ほどになりました。人口は減るし、駅近マンションに住み替える高齢者が増えるし、さらには2022年問題なんかも重なって今後も低未利用地は増加するだろうと言われています。
本稿では、聞きなれない低未利用地という言葉に代えて空き地という表現をさせてもらっています。

ヒント①:ライトで実験的に空き地を利用する

空き地の特徴として、発生時点では逼迫した利用計画がなく存在価値を見出せていないという点が挙げられるでしょう。
つまり、そこで何かに挑戦し失敗したとしても、大きな問題を引き起こす可能性が低いということで、より実験的な活用に挑戦しやすい土地と言い換えられます。

また、もう一つの特徴として、いつどこで発生するか分からず、発生後もいつ開発計画が上がるか予測できないという点が挙げられます。
つまり、その時その場に合った利活用を、例えば来年退いてくれと言われても大丈夫なように、ライトにおこなうことが求められるのです。

空き地は、予測困難な時代において最もその変化に素早く対応し新しい在り方を模索することができる土地という見方ができるのではないでしょうか。

ライトで実験的に使われはじめた空き地の事例

さて、ここで空き地の活用事例をいくつかあげながらライトで実験的な使い方をみていきます。

Case 1.【若者クリエイティブコンテナ(YCCU)】

宇部市の中央町エリアにある【YCCU】は、空洞化が進んでしまった「まちなか」の空き地につくられた、「若者」の目線から「まちなか再生」を考える場であり、地域の様々な主体との連携の場です。
多世代交流拠点としてのカフェやイベントスペース、しばふ広場が併設されていますが、民地を利用しているため、3年ごとの契約として開発計画が上がれば移転するという前提でつくられています。
施設はコンテナを利用することで場所を選ばず空間を確保でき、いつ何時立ち退かなければならなくなるか分からないからこそ、まちの変化に柔軟に対応することができるようになっています。
[参考:https://www.mlit.go.jp/common/001301211.pdf]


Case 2.【吉日学校】

まちなかの空き地という意味では、工事中の資材置き場も使われていない間は空き地だよね、という視点もあるでしょう。
横浜市の日吉にある【吉日学校】は、建設中の「プラウドシティ日吉」を舞台に、マンションが建つ前から工事現場の遊休部分を使い、地域住民を巻き込んだコミュニケーションの拠点(仮設HUB拠点)を作ろうという計画によって生まれました。
オープンデイには公園のように利用したり、スポーツやアウトドア、産直マルシェなど様々なイベントが開催されています。地域の住民や大学、企業を巻き込んで広場を魅力的にすることで、まちの価値を生み出そうという取り組みです。
[参考:https://www.proud-web.jp/magazine/gooddesign/gooddesign_12/]


これら空き地活用例は、結果としてコミュニティが醸成されることで半常設的な市民権を得ている例もありますが、当初はどれもその面積規模(または背景にある開発規模)からすればライトで実験的な使い方から始まっていると言えます。
こういった空き地の実験的な活用マインドが拡がり、それを促すサービス・制度が整うことで、空き地の増加という社会課題への取り組みと、より自分らしくそのまちらしい暮らしの模索がうまくシンクロしてくるのではないかと思います。

まちにもパーマネントβの考え方を

先日vitra社リサーチャーのラファエル氏からパーマネントβという製品やサービス開発の考え方を伺いました。

パーマネントβ
シリコンバレー発祥のコンセプトだが、最近ではなじみが深いコンセプトだろう。製品、サービスは決して完璧なものである必要がなく、お客さまの手に渡ったあともそれそのものを機動的に進化させることで満足度を向上させていこう、という取り組みだ。よってずっとβ版なのだ。
[出典:https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1802/26/news006.html]


これはとても汎用性の高いコンセプトで、まちづくりにも応用できそうです。
スピード感をもって実験的にアイデアを実践して常に改善できる余地を残していこう。
まさに空き地を活用したまちづくりってこういうことかもしれません。
というか、まちづくりという複雑な構造にパーマネントβ的なコンセプトを取り入れるにはライトで実験的な活用がしやすい空き地からのアプローチが適していると言った方がニュアンスが近いかもしれません。

ヒント②:ネットワーク型で機能を補うまちづくり

次にネットワーク型で機能を補う、というポイントについてです。
空き地をまちづくりに利用する例でメディアによく取り上げられるのは、工場跡地や駐車場のような広いスペースにレストランやイベント会場など複数の機能を集約させ、そこを中心にエリアの活性化を図るというものです。
ただ、自然災害や人口減少など不確定要素が多い時代において、ある施設が単独で複数の機能を備えるというのは、非効率だと感じます。

そこで複数の独立したリソースが相互補完的ネットワークを構築することで、より多様な住民を巻き込みながら、予測困難な将来にも対応できるまちづくりを実現できるのではないかと考えました。

例えば、冒頭の農園でいうと、
農育を行いたい小学校があっても、その学校が農園を所有するのは将来の人口・生徒数減少の観点からも現実的ではありません。授業外の時間も畑の管理を担うというのは負担が大きすぎます。
そこで菜園をしてみたい住民が畑の管理を担うことで、住民は同時に自分の興味も満たすことができます。

このネットワーク型が優れている点は、将来、小学校が農育の授業を実施しなくなった時でも、菜園を続けたい住民は自らの役割を終える必要はないという点です。
相互補完的な関係であっても独立した機能を持っていれば、一方の機能が消滅したとしても、他方は新たなネットワーク先を構築することで存続し続ける権利を有しているのです。

ネットワーク型で機能を補うまちづくり事例

ネットワーク型で機能を補う考え方を郊外のまちづくりに持ち込んだ事例はあまり見当たりませんが、観光という切り口でみればこの考え方を見事に実現している例が【まちやど】です。

【まちやど】




宿泊施設内に飲食店やショップ、文化体験施設等を集約させ、そこから地域活性化を図っていく事例は多くありますが、観光客を囲い込んでしまい周辺地域までその効果が波及しないケースもよくみかけます。
また、施設の機能が固定化しやすいため、関わる地元住民も固定化しやすいと言えます。
一方【まちやど】では、まち全体=一つの宿と捉えて、まちのネットワークで観光客をもてなしています。
宿泊棟はまちなかの空家、大浴場は空家近くの銭湯、朝食は老舗の干物屋さん、夕飯はまちで評判の小料理屋、お土産は最近できた雑貨屋さんというように、各機能が相互補完的ネットワークを構築します。
そのため観光客はまちなかを必然的に回遊し、そのまちとより濃密な接点を持ち、そのまち固有の体験ができます。
また、住民側も新たなネットワークをつなげることで自らの活躍の場や事業機会を広げていくことが可能となるのです。

ネットワーク型で機能を相互補完する形をとることで、変化するニーズに合わせて機能を追加・削減していけます。
また、より多様な住民の参加を期待でき、エリア全体に効果をもたらします。
ひいては住民の回遊性を高め、地域価値を高めていくことにつながるはずです。

まとめ

これからの郊外まちづくりでは、今後増加するであろう空き地やその予備群に対し、その特徴を強みにして柔軟に利用していくことが有効になるでしょう。
ネットワーク型で機能を補い合う活動を、その時その時の状況に合わせて実験的におこなっていくことで、変化する時代の中で強くしなやかなまちを多様な参加者の力でつくっていけるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?