ショートショート「輪廻転生」



青年はビルの屋上から都会の街並みを眺めていた。自殺をしようと思い立ったのだ。


彼には返済しきれない借金があるわけでも仕事で重大なミスをしたというわけでもなかった。なんとなく、死にたくなったのだ。努力して勉強をしても人並み以下の成績しか出せなかった学生時代。大学は第1志望に進学することはできなかったので就活こそは成功させようと思い大企業を多く受けた。しかし彼には大きな欠点があった。


いわゆるコミュニケーション能力が低いのだ。滑舌が悪く話をすることが得意でなく友人作りが苦手。社交的とは真逆の性格であったため友人と呼べる人は1人しかいなかった。1人で行動するのが好きで旅行や週末の買い物も1人で行くことが大半だった。


面接でプレゼンテーションやスピーチをするも顔が赤くなり緊張で表情も強ばり当然のように選考に落ちる。人とのうまい関わり方を知らないためカジュアルな社風の会社でも人事に気に入られず選考落ちの日々。数十社を受けやっと内定をもらえたが入社してからも人付き合いに苦しむ毎日。どうも、仕事を遂行する能力は変わらなくても人付き合いがうまくでき誰とでも仲良くできる人間がどんどん成功していくようなのだ。面白くない世の中だ。真面目に頑張っているのにコミュニケーション能力が低いというだけで人より遅れを取ることが多い。以前までは真面目に仕事をすることで埋め合わせをしようと思っていたのだが最近はやる気もなくなり張り合いがなくなってきた。


育ててくれた親や家族、友人には申し訳ないが覚悟を決めた。完全に不幸というわけでないがこの絶妙につまらない人生こそ最も面白くない。屋上のフェンスをひょいとよじ登り頂点に腰掛け脚をぶらぶらさせた。なぜここまで未練がないかというと、青年は輪廻転生を信じていて、もっと面白い人生に「住み替え」たかったからだ。


フェンスに腰掛けた状態から重心を前に傾け両腕を話した。落下時に頭が下になった。これで確実に死ねるだろう。顔に感じる風はなぜか心地よかった。思ったより落下時間が長い。地面が顔にぐんぐん近づいてくる。地面と顔の距離が0になり、意識が遠のいた。



「早く起きてください。」

青年は男の声で目を覚ました。無機質なビルの中にいるようだった。横には初老ほどであろうが、いやに小綺麗な肌でありピカピカの白衣のようなものを着ている男がいた。

人は死後生まれ変わるということはないのだろうか。青年は尋ねた。「ここはどこですか?」「転生活動のための施設です。次にあなたの魂が宿る先を探してもらいます。」男は淡々と言った。「転生ということは輪廻は実在したんですか...よかった」青年はホッと胸を撫で下ろした。男は続けて言った。

「ただし誰もが幸せな転生先に生まれ変われる訳ではありません。世界的に有名なスポーツ選手や文化人として生まれたり資産家として生まれ変わりたいという魂は多くいます。競争に勝たなければより良い生まれ変わり先はありません。全ては個人の頑張り次第です。では、部屋に案内しますので面接にて生前積んだ徳や努力したことについて自己アピールをお願いできますでしょうか......。」








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