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編集担当が解説!『大量絶滅はなぜ起きるのか』の魅力 ~1冊で「謎解き」「世界旅行」「連ドラ中毒」の3つの味わい~

弊社のT.W.が今月のブルーバックス『大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変』(尾上哲治・著)の編集を担当しました。現在、絶賛発売中です。ぜひ多くの方に読んでいただきたく、ここでは、本書の「読み味」の面での魅力を語ります。



仮説を名づける

科学者が新しい独自の仮説や理論、モデルなどを提案するとき、その命名にはどのくらい気を遣うのでしょうか? 科学界の共通言語は英語ですから、英語として面白い響きを目指したり、頭文字をつなげて語呂のよい略称をつくれる単語の組み合わせを探したり、といった工夫をするのだろうと想像します。

名前がおもしろい仮説は、一般にも広まりやすいのかもしれません。たとえば、私が思いつくのは、人類学の分野で提唱された「おばあさん仮説」(grandmother hypothesis)です。その内容は、ブルーバックスのWebサイトで、ある政治家がおそらく誤解して使用しまった例とともに、わかりやすく解説されています(更科功先生による記事「進化論における「おばあさん仮説」って何だ?」をご参照ください)。

そういえば、最近のブルーバックスのタイトルに『宇宙検閲官仮説』(英語では「cosmic censorship conjecture」と書くそうです)というものがありました(すみません、まだ読んでません)。日本語にすると漢字だらけで、迫力があります(サブタイトルにある「裸の特異点」も気になるキーワードです)。知識がないと、SF小説のタイトルか何かにしか見えませんね。

ブルーバックス『宇宙検閲官仮説 「裸の特異点」は隠されるか』。SF小説のようなタイトルです

じっさい、有名な小説のタイトルをもじることもあるようです。

オリエント急行

私は、本書の編集過程で「オリエント急行の殺人仮説」なるものの存在を知りました。もちろんこれは、アガサ・クリスティによる超有名な推理小説『オリエント急行の殺人』へのオマージュです。この仮説は地質学の分野で提案されました。残念ながら(?)、殺人事件にかんする仮説ではなく、過去に地球で起きた「大量絶滅」についての仮説です。

大量絶滅とは何か、また、なぜ大量絶滅についての仮説に『オリエント急行の殺人』へのオマージュが捧げられたのか、気になる方はぜひ『大量絶滅はなぜ起きるのか』を読んでみてください。納得の理由が見つかります。

そして、大量絶滅の科学は「謎解き」の魅力で推理小説に負けません。本書では、過去の大事件が明らかになり、さまざまな手がかりが見つかり、怪しい容疑者が登場します。その後の謎解きとどんでん返しは、クリスティも気に入ってくれるはず。地質学界の名探偵たちの活躍をお楽しみください。

謎解きの舞台

オリエント急行いえば、この夏公開され大ヒット中の映画『ミッション・インポッシブル:デッド・レコニング パート1』(説明するまでもないかもしれませんが、トム・クルーズが主演するスパイ・アクション映画です)で、クライマックスの舞台になっていました。主人公が無茶苦茶な方法で、絶妙なタイミングで、オリエント急行に乗り込んでくるシーンでは、思わず拍手したくなりました。

トム・クルーズによる体を張ったアクションだけでなく、世界中を観光できるのもこの映画シリーズの魅力です。たとえば本作では、実際にローマの街で撮影したという、ひねりの効いたカーチェイスシーンも見どころになっています。初見時は、笑いが止まりませんでした。

映画『ミッション・インポッシブル デッド・レコニング パート1』のパンフレット。とんでもないダイブシーンがあるので、高所恐怖症の方は要注意

スパイには敵わないかもしれませんが、地質学者も世界中を巡り、過酷な地質調査に挑んでいます。『大量絶滅はなぜ起きるのか』の第1章は、なんとニューカレドニアの小島でサメに行く手を阻まれる場面からはじまります! そのほかにも、日本はもちろんのこと、イタリア、カナダ、スロバキアなどの国々で調査をおこない、謎解きの手がかりを探します。これが本書のもう一つの大きな魅力です。尾上先生が実際に世界でおこなってきた調査に同行する気分を味わってください。

クリフハンガー

『ミッション・インポッシブル』最新作は、シリーズでは初めて前編(パート1)と後編(パート2)に分けられました。パート2が楽しみでなりません。

それにしても、最近の映画は、はなから続編がつくられる前提の作品が多く、まるで連続ドラマのようです。よくできた連続ドラマの多くは、各エピソードが先の気になる終わり方をして、視聴者を夢中にさせます。あえて物語を完結させずに中途半端なところで終え、期待感を煽る作劇上のテクニックを「クリフハンガー」というそうです。

この記事の中身とはまったく関係のないドラマ『トゥルー・ディテクティブ』(シーズン1)のブルーレイボックス。T.W.のお気に入りで、何周もしました

じつは、尾上先生はクリフハンガーの名手です。つまり、各章を「気になる一文」(謎めいていたり、その時点では真意がぼやかされている)で締めくくる、というワザの使い手です。例として、『大量絶滅はなぜ起きるのか』の第1章と第5章の最後の一文をお見せします。

あの場所には、混沌とした世界についての記録があった。

『大量絶滅はなぜ起きるのか』第1章より

このような疑いは、スロバキアのジョゼフ・ミヒャリクをたずねることで、確信へと変わった。

『大量絶滅はなぜ起きるのか』第5章より

いずれも、次の章の「前フリ」となっています。

「混沌とした世界」って、いったい何だろう?
ジョゼフ・ミヒャリクは何を語るのだろう?

章の変わり目で休憩を入れたくなるのが人情ですが、先が気になって、ページをめくる手が止められません。読者のみなさまは、どうぞご注意を!

ハイブリッド

というわけで、『大量絶滅はなぜ起きるのか』はブルーバックスの中ではちょっと異色作かもしれません。世界を股にかける壮大な謎解きの連続——推理小説とスパイアクション映画と連続ドラマのハイブリッドのようです。あるいは、「アガサ・クリスティ×トム・クルーズ×ジャック・バウアー」なんて惹句は、的外れでしょうか?

『大量絶滅はなぜ起きるのか』のカバーイラストに描かれているのは、超大陸「パンゲア」

この記事では、書籍の内容の説明はほとんどしませんでした。もっと具体的な中身を知りたい方は、ネット書店の紹介文や、尾上先生によるWeb記事、それからダ・ヴィンチWebのレビューをご参照ください。少しでも興味を持っていただければ幸いです。

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