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『大量絶滅はなぜ起きるのか』うらばなし①執筆依頼編 ~大量絶滅を招くラブレター~

弊社のT.W.がブルーバックス『大量絶滅はなぜ起きるのか』の編集を担当しました。その制作過程の「うらばなし」を披露いたします。

この記事は、T.W.の「やってやった感」がほとばしる、いけ好かない文章になる可能性が高いです。ですが、編集者のお仕事紹介文としてギリギリお楽しみいただける可能性も、わずかながらございます。もしお時間が許せば、ご一読ください。

なお、本記事は9月22日に配信されたメールマガジン「ブルーバックス・メール」第274号の内容を下敷きにしています。いくつか見出しと画像を加え、少し加筆しました。

うらばなしよりも、本の中身に関心がある方は、ブルーバックスのWeb記事(第1回第2回第3回第4回)をご参照ください。


ハートを奪う傑作

本書の著者、尾上哲治先生と知り合うきっかけは、何を隠そう、私が書いた熱烈なラブレターでございます。2年ほど前、ろくなアイデアももたないまま、「次回作の編集を私に担当させてください」という愛の手紙を送りました。尾上先生の前作『ダイナソー・ブルース』(閑人堂)にハートを奪われてしまったからです。

傑作科学ノンフィクション『ダイナソー・ブルース 恐竜絶滅の謎と科学者たちの戦い』は閑人堂さんから発刊。おススメです!

『ダイナソー・ブルース』を書店で見つけて手に取ったのは、2021年の夏でした。刊行からすでに1年半が経過していました(この間なぜ存在に気がつかなかったのか……悔しい!)。プロローグを読んだ時点で傑作であることを確信し、そこから先は夢中になって読み進めました。読み終えたときのこと——新宿駅へ向かう小田急線の中で、最後のページを読んだ直後に、最初のページに舞い戻った(2周目に突入した)こと——をよく覚えています。

感動の源

『ダイナソー・ブルース』の感想は、「わかりやすい」とか「勉強になった」といった単純な言葉では表せません。こんなことを書くとネガティブな感想に思われるかもしれませんが、この本はかなり難しい内容も扱っています。本当に理解した気になるには、そうとうの読み込みが必要な一冊です。それでも、いやだからこそでしょうか、震えるほど感動しました。こんな読書体験は久しぶりでした。

そうそう、2周目を読み終えたあと、Twitter(現X)上で感想をツイートしたので、もしよろしければ「講談社サイエンティフィク@生命科学」(@kspub_ls)のアカウントを覗いてみてください。とにかく、少しでも多くの方に読んでいただきたいという一心でした。

2021年10月4日のツイート。『ダイナソー・ブルース』の魅力を投稿しました

私の感動の源が、尾上先生の徹底的な文献調査と、圧倒的な構成力・筆力にあることは明らかです。この著者から原稿をもらいたい、という気持ちを抑えられなくなっていました。これまで、新しい書き手の発掘や、新奇テーマの探索にわりとこだわってきた(すでに単著のある人に執筆を依頼することの少なかった)私にとっては、珍しいことです。

ラブ注入

さて、こう見えて、「字が綺麗」といわれることが多い私。面識のない相手に執筆を依頼する際には、ときどき直筆の依頼状を送ります。愛用の(安物の)万年筆で便箋に「愛の言葉(執筆依頼)」を綴り、名刺とこれまで担当した本を同封し、九州大学に送りました。

1週間ほど経ったころだったでしょうか。尾上先生から「じつは漠然と温めているアイデアがあるので、話をさせてほしい」とのメールを受信。在宅勤務が続く中でようやく慣れてきたオンライン・ミーティングをおこない、次回作の構想を聞かせていただきました。

「こんどは自分も主要登場人物のひとりとなって、また大量絶滅を論考してみたい」

大量絶滅をもう一度

尾上先生が前著『ダイナソー・ブルース』で解説したのは、約6600万年前に起きた白亜紀末大量絶滅の謎をめぐる、世界の科学者たちの「戦い」の歴史でした。その中で、尾上先生自身の研究への言及はそれほど多くありません。なぜかというと、尾上先生も大量絶滅を研究してきた地質学者ですが、とくに注目しているのは2億150万年前に起きた大量絶滅だからです。

そう、新企画のテーマは「三畳紀末大量絶滅」。恐竜絶滅で有名な白亜紀末大量絶滅とちがって、ポピュラーサイエンスではあまり扱われることのないテーマでした。これはフレッシュな一冊になる、と確信しました。尾上先生のお話に出てくるキーワード—―超大陸パンゲア、二酸化炭素と温暖化、最もありふれた鉱物、などなど——も大変魅力的!

ラブ増殖願望

このときお話しいただいた構想がもとになり、『大量絶滅はなぜ起きるのか』ができあがりました。ついにみなさんに読んでいただけると思うと、楽しみで仕方がありません。私が『ダイナソー・ブルース』に覚えた感動に近いものを、一人でも多くの方に感じていただければうれしいです。

『大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変』(講談社ブルーバックス)は絶賛発売中!

そして、読者のみなさまからのラブレター(レビューなど)を楽しみにしております。

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