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「インディ・ジョーンズ」と「千夜一夜物語」

中近東や北アフリカの主要食品のデーツ。

デーツは、栄養価の高いナツメヤシの実を自然乾燥させたドライフルーツで、干し柿や干し芋のようなしっとりとした甘味がある。日本では嗜好品のほか、健康食品として位置づけられることもある。

ナツメヤシは8000年も前から栽培され、デーツは知られているだけでも400種類ほどあり、原産地や品種によって風味や特徴が異なる。ドライなので長期保存がきくために、特に農耕が難しい地域では主食となっていたのもうなずける。また、デーツや樹液を使った酒や酢の醸造は、紀元前からの長い歴史を誇っている。

ナツメヤシは食用とする実以外は、敷物・建材・家具・燃料などに使われる。全てをムダなく有効活用でき、捨てるところがない。古来、肥沃さと繁栄の象徴とされていて、宗教的なつながりも深い。

こうして見ると、日本のイネと同じような存在ともいえる。

デーツは、アラブ諸国の神話や物語・詩にも随所に姿をみせている。その中で、日本人にいちばん馴染みがあるのは「千夜一夜物語」、いわゆる「アラビアンナイト」だろう。ラクダを駆って砂漠に繰り出した商人が、オアシスで一息入れるときに食べる定番食品といったらデーツなのだ。

第一夜の「商人と鬼神」は非常に有名で、ちょうど放映されていたTVアニメ「アラビアンナイト シンドバットの冒険」にも登場する。ただ、このファーストコンタクトの時点ではデーツの存在を知らなかった。

実はほぼ同時期に、セカンドコンタクトも果たしていた。この当時、勃発したイラン革命や「石油は30年で枯渇」といったニュースが多かったので、学校や塾で地図帳を開いてアラブ諸国を調べる機会があった。

そこには「なつめやし」と平仮名で特産物が表記されている箇所が数多くあった。ただ、この際も「乾燥地帯でもけっこうヤシの木が生えるものなんだな」程度にしか思わず、デーツについてまでは知ることはなかった。

教科書の「椰子の実」の詩にあったように、南国の海に浮かぶ島に生えているか、オアシスに点在している木という先入観があったためだろう。それは典型的なステレオタイプ、ヤシガニ・ラグビーボールのような実・おいしい果肉や果汁といったもの。もっとも、今でも同じように連想する人は多いような気がする。

この数年後、「インディ・ジョーンズ」シリーズ第1作目「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が公開された。

「スター・ウォーズ」をはじめとした宇宙系SFが全盛の時代、私は大学教授をヒーローにした、考古学と冒険アドベンチャーを絶妙にミックスさせた独特の世界観、絶えず静と動が繰り返されるこのシリーズの虜となり、血湧き肉躍る思いを持ち続けるようになる。

この情熱がいかほどのものだったのかは、「縄跳びの縄を使って鞭打ちの特訓を繰り返した」ということから想像してみてほしい。もし、第2作公開がバック・トゥ・ザ・フューチャーの後だったら、考古学科のある大学を目指したかもしれないのだ!

「レイダース」には、ジョーンズが(実は毒入りだった)デーツを手でつまみ、頭上に放り投げて口で受け止めようとするシーンがある。

「ああ、地図のアレってコレのことだったのか。かなり小さいな。というか、やっぱり食えるのか」
「アニメのシンドバッド少年が食べていたのもデーツだったんだなあ」

これまで、気にもとめてこなかったデーツにまつわる記憶の数々が、芋づる式に蘇って興味がわいたことで、本格的に「千夜一夜物語」を読んだ。

私が読んだバートン版訳者のリチャード・フランシス・バートンは、精悍な探検家そして人類学者・言語学者・作家・翻訳家・軍人・外交官の顔を持ち、ペルシア語・アラビア語をはじめ数十ヶ国語を巧みに操って地元民に成りすますという離れ業をやってのけたスーパーマン。

よく「インディ・ジョーンズ」のモデルは英国の冒険家パーシー・ハリソン・フォーセットといわれているが、「本当のモデルはバートンなのではないか」と今でも思いたくなる。

それにしても、デーツを介して「インディ・ジョーンズ」のワンシーンから古典の「千夜一夜物語」につながっていった思考過程は、我ながら興味深い。

小学生時代、あのTVアニメをみたり地図帳で調べたりしなければ、後年ディズニー映画は見たとしても、原作の「千夜一夜物語」まで読むことはなかっただろう。

第1作から42年たち、少年時代に熱狂した「インディ・ジョーンズ」シリーズも、昨年ついに終わりを迎えた。当時食べられなかったデーツは、今では豊富な種類を楽しめるようになっている。

お気に入りは甘さ控えめのファード種。1日2粒。
これが50代の私の活力源。

(終)


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