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電子帳簿保存法 対応策の検討手順

今回の電子帳簿保存法改正に関する記述がTwitterのつぶやきやブログなどで増えてきているが、そのほとんどは国税庁のサイトを見に行けば記載されているようなことばかりで、「制度は分かったけど、どう進めりゃ良いの?」という疑問を持つ人が増えてきていると思う。
すでに導入しているシステムや投資可能金額により、採るべき方法は全く違ってくるので一概には難しいところ。ただ少なくとも会計をシステム化していない上にそこに投資するつもりもない場合は電子帳簿保存法対応はほぼ無理ゲーだし、きっと対応しようという話にもならないと思うので、そこはシステム化されていることを前提に文章を書いていく。
ただ最初にお断りしておくが、僕は法律の専門家でも何でもなく、電帳法を口実に会社のDXを策謀しているだけの一介の会社員なので、個人の意見表明でしかないということはご理解いただきたい。最終的には専門家や税務署に照会し、リスクとコストを秤にかけたうえで対応範囲と方法は最終的には自身でご判断いただきたい

前置きが長くなってしまったが、ここから本題。
なお、スキャナ保存や帳簿保存は検討を要することは無くなり、単にシステム任せにして良くなったと思うので、この記事では今回改正で対応へのハードルが上がった電子取引対応の検討方法を述べていく。

対応手順を列記する。導入の前準備としてはこの4つだろう。
1.調査
2.切り分け
3.検証
4.検討

まず1番の「調査」について。
これは、自社で今現在、どのような電子取引がどの程度の規模で行われているかを調査すること。調査の過程では、対象の電子取引って具体的には何?とか、具体的にはどんな書類?などの疑問が必ず出てくるが、細かな論点は置いておいて、まずはメールやダウンロードを通じて送受信している請求書・納品書・見積書・契約書・領収書・注文書およびこれらに類する書類とシンプルに考えればいいと思う。なぜなら例外的な事例はあっても、それは全体の5%以下のはずで、例外案件が運用に与える影響は小さいからだ。

次に「切り分け」について。
調査で出てきた電子書類を重要書類と一般書類に切り分けする
念のために書いておくと、重要書類とは請求書・納品書・領収書・契約書、一般書類とは見積書・送り状・注文書だ。

今年度の法改正で世間に激震を走らせた「電子で取引した書類を紙出力した場合、国税関連書類として認められなくなる」件があるので、重要書類は絶対に取りこぼすことはできない。必ず対応する方向で検討しなければならない。

請求書や領収書はほとんどの場合ワークフローに乗せることが可能であるため、ここ数か月で雨後の筍のごとく現れた電帳法対応ワークフローシステムの中から自社に親和性の高いシステムを採用すれば即対応可能だろう。契約書は取り交わした時点では仕訳が発生するわけではないので、電帳法対応した電子契約書システムを導入するか、同じく法対応した文書管理システムに格納することになる。

問題は一般書類である
先に述べた文書管理システムを用いて検索可能となるよう日付や金額や取引先情報を付与すれば法対応できるわけだが、多くの会社ではこれら一般書類は利用価値がほとんど無い上に、すべて文書管理システムへの格納対応しようとすると他の業務に支障が出るほどの物量があるのではないだろうか。

数多ある電帳法対応システムの説明には、そのシステムを使用すれば完全な法対応が可能であるかのように書かれているが、ほぼすべて意図的に一般書類についての説明を回避している
なぜなら、これら一般書類はワークフローに乗せて処理するようなものでもなければ仕訳が発生するものでもないので、ほとんどの場合が取引先担当⇔自社担当のやり取りで完結しており、取引の上流から下流までを一気通貫で管理するスペシャルシステムでもなければこれを自然な業務フローに取り込むことは不可能だからだ。
なので、ここからさらに一般書類のうち電子保存するものとしないものに切り分けていく。
電子取引はすべて対応させなければならないんじゃないのか?と思われただろう。原則はその通りだ。ただ僕は、一般書類は電帳法の要件を満たす保存方法をとる必要は無いと思っている。なぜなら今年度改正後、紙出力して起こることは「国税関連書類として認められなくなること」であり、仕訳が起きない書類である以上は損金算入が否認されることはないし、監査上、金額算定の根拠資料としての効力は損なわれないと考えているためだ。それに、電帳法対応するために本来業務に支障が出るなどあってはならないことだ。
案件によっては帳簿との相互関連性があった方が良い重要案件もあるだろう。そうした案件のみ保存すれば良いと考えている。

ここまで済めば、自社が対応すべき重要書類と一般書類がトータルどの程度あるかが見えてくる。そうしたら手順3の「検証」だ。
実際の電帳法対応のための業務負荷を確認し、想定している文書の格納にどの程度の作業量を要するか検証するのである。一つの文書を格納する際、検索用情報の付与にどれくらいかかるか、書類が規定通り正しく格納されているかどうかのチェックを行うのか行わないのか、行うなら誰がどのように行うか、このあたりをザックリ考えたり実際に手を動かしてみたりして、総負荷を検証する。

ここまで済めば最後は「検討」
会社として電帳法対応すべきと決めた文書を過不足なく対応させられるシステムと業務フローを具体的に検討していく。現状で十分対応できそうなら高価なシステムを導入する必要は無いし、一般書類も全て取り込むなら大きく投資する必要が出てくるだろう。

ただ注意が必要な点がある。今回の法改正では電子取引のハードルが上がり、スキャナ保存のハードルが相当に下がったので、どうしてもスキャナ保存に偏重した運用に流れてしまうと思う。ただ2年後に控えているインボイス制度は逆に、電子取引との親和性が非常に高い制度になると予想しているので、スキャナ保存に頼る運用を軸とした場合、2年後に再び運用変更を迫られる可能性が高い
せっかく費用をかけてシステム導入し、労力をかけて運用変更するのだから、延長線上にインボイス制度を見据えて検討することを推奨する。

あと国税庁の一問一答にpdfタイトル管理やExcel索引簿管理という一見弱者の味方のような運用も紹介されていたが、可能な限りこれは避けた方が良いと思う。目先の1年程度なら何とかなると思うが、最長10年管理することになるということを忘れてはならない。10年あればパソコンを2回は買い替えることになるので、事故無くデータ移行しなければならない。蓄積するデータ容量もバカにならない。電子取引が今後増加していけば対応しきれなくなり、結局システム導入することになるかもしれない。持続可能性を考えて検討すべきだ。

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