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電子帳簿保存法対応は徒労に終わる

電子帳簿保存法は悪法!

今回の改正で電子取引した書類が電子保存必須となったことで多くの人が気づくことになったと思うが、電子帳簿保存法は悪法である。かなり緩和が進んだとはいえ、納税者に不要な負担を強いている。
ところが国税庁のHPにある制度創設等の背景には創設の経緯としてこうある。

「平成10年度税制改正の一環として、適正公平な課税を確保しつつ納税者等の帳簿保存に係る負担軽減を図る等の観点から、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存制度等の創設等が行われました。」

創設時の志はどこに行ったのか。

この法律を悪法たらしめている構成要素は主に3つ
①国税関連書類に対する検索条件設定
②ガバガバな真実性
③消費税法との整合性の無さ

①国税関連書類に対する検索条件設定

制度創設の背景に記載されており、法律の名称にもある通り、電帳法はもともと帳簿の保存を電子化できるようにすることが主目的であり、請求書や領収書などの国税関連書類を電子化することは念頭になかったのではないかと思う。それが検索要件に表れている。
日々の仕訳には当然ながら、日付・取引先・金額・勘定科目といった情報が含まれている。これは自然なことなので、これらを検索条件にすることは何らの負担を伴うものでもないし、自社の分析にも役立てられる機能だと思う。(勘定科目は少し前の改正で検索要件から外れたが)
しかし書類はどうだろう。法律の要件がなければ書類自体に検索項目を設けることにどんな合理性があるだろうか?請求書や領収書は帳簿に添付したり仕訳番号をキーに検索できるようにするのが定石だ。仕訳と重複する情報を書類にまで何個も何個もつける運用は負担でしかない。
要は下の通り関連性の確保さえされていれば、あとは蛇足でしかないのである。※ただし見積書等の一般書類は仕訳と直列しないので、請求書と並列保存されているイメージ。

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②ガバガバな真実性

国税庁が5月に発表したチラシにわかりやすく書かれている。

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①~③の方法で確実に真実性を確保できるとは思わないが、それらよりさらにオカシイのが④の存在だ。電子保存にソフトウェア導入などのコストをかけられない会社への救済措置と見えるが、これが①~③と並べて書いてあることに異様さを感じる。これは本当に法律なのかと疑うレベル。真面目に取り組むほど損をする仕組み。書類の保存にあたっては検索性よりもこの真実性こそがキモだと思うが、検索性の謎の細かさとは対照的に、ほぼルール無用と言っているようなものだ。国税は書類データを収集したいなら、お金をかけられない事業者に対し、電帳法に対応しつつ国税がアクセス可能な無料または格安のストレージを用意してあげればよかったのではないか。これでWin-Win(?)である。

③消費税法との整合性の無さ

電帳法の一問一答に、仕入税額控除の扱いについて以下の通り記載されている。

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これだけ見れば、「消費税法では電子保存も紙保存も両方認められているんだな」と読めると思う。しかしこれは罠で、消費税法ではむしろ紙保存されることを前提としており、電子取引により紙が存在しないことは「やむを得ない理由」と表現され、帳簿に相手住所と電子取引である旨を記載する必要があるとされている。せめてここだけでも歩調を合わせることができなかったのか…?

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ただ、どういうわけかスキャナ保存の場合はこうした追記は不要とされている…。

※2021.10.29追記 帳簿へのコメント入力は不要との説もあるようです。愛読書の『税務通信』には記載必要とありましたが…。


電子帳簿保存法対応が徒労に終わる理由

ここまで電帳法が悪法となっている理由を説明してきた。
ではなぜ法律への対応が徒労に終わるか。それはこの法律が頻繁に緩和され続けていることが理由だ。極めて使い勝手の悪い要件は数年サイクルで緩和され続けてきた。つまり現在の電帳法を悪法たらしめている条文もまた高確率で数年以内に改廃されると考えられる。そして改廃されるであろう要件は、どれも法律から消えれば何の使い道もない(モノによっては荷物になる)ものばかり。よって法対応への直近の取り組みは数年内に徒労に終わると考えている。

電子帳簿保存法関連の記事で、法対応していない場合に青色申告の取消しもある、と書かれたものを見かける。確かに一問一答にもそう書かれている。しかし冷静に考えてほしい。もちろん、全く何もしていないというのは論外として、電子取引に関して社内最適を図り、相手から受け取ったものをしっかりそのままの形で保存している会社に対して、ただ電帳法の保存要件の一部が守られていないという理由だけでそんなことをするだろうか?いくら何でも、これだけを理由に一発退場はありえないと思う。

とは言え、これを機にDXを志す企業には良いキッカケとはなるだろう。
単に法対応だけで済まそうとする企業はこれからも振り回され続ける。

…とまぁここまで書いたところで完全にコンプラ違反の扇動者のようになってきたことに気づいたので、この話はこの辺で。
法律はキチンと守りましょう。

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